上顎前突症は、上顎前歯が下顎前歯よりも唇側に突出している歯列不正で、一般的には出っ歯とよばれます。
外見上のコンプレックスをきたしやすいのが特徴で、それゆえに矯正治療を希望する方も多いです。
上顎前突症の矯正治療にはいくつかの方法がありますが、そのひとつにセラミック矯正があります。
今回は、上顎前突症のセラミック矯正についてお話しします。
目次
セラミック矯正とは
セラミック矯正は、前歯部の歯列不正をセラミッククラウンを装着することで改善する矯正治療です。
セラミッククラウン、つまり補綴物を用いることから、補綴矯正に分類されます。
なお補綴矯正に対し、歯を移動させる矯正治療は歯列矯正といいます。
セラミック矯正の流れ
セラミック矯正治療の流れについてご説明します。
①問診
セラミック矯正による治療では、歯の削合という不逆性の処置が不可欠ですので、治療開始前の問診が非常に重要です。
②検査と診断
問診によりセラミック矯正での治療が選択されれば、口腔内の状態を視診や触診、レントゲン写真撮影などにより検査します。
そして、セラミック矯正に適応があるかどうか診断します。
③印象採得・咬合採得
プロビジョナルレストレーションを作成するために、上顎及び下顎の印象採得、咬合採得、口腔内写真撮影を行います。
④プロビジョナルレストレーションの作成
プロビジョナルレストレーションとは、最終補綴物、つまりこの場合はセラミッククラウンが装着されるまでの間に装着されるテンポラリークラウンのことです。
通常のテンポラリークラウンと異なり、最終補綴物の形態や咬合状態を再現した形態になっています。
治療完了後の状態をシミュレーションしたものともいえるプロビジョナルレストレーションを視覚的に確認していただき、了承いただければ支台歯形成に移ります。
⑤支台歯形成
セラミッククラウンを装着するための支台歯を形成します。
健全歯の場合は、局所麻酔のもとで形成します。
前歯部の傾斜の程度によっては、支台歯形成に先立って麻酔抜髄を行うこともあります。
支台歯形成が完了したら、印象採得及び、咬合採得を行います。
⑥プロビジョナルレストレーションの装着
あらかじめ作成しておいたプロビジョナルレストレーションを支台歯に装着します。
⑦装着
セラミッククラウンが完成したらプロビジョナルレストレーションを撤去します。
そして、作成されたセラミッククラウンを支台歯に装着し、セラミック矯正が終わります。
■上顎前突症について
前歯部の唇舌方向の被蓋関係をオーバージェットと言いますが、上顎前突症とはオーバージェットが5㎜以上になっている歯列不正を指します。
単に上顎前歯が傾斜・突出している歯槽性の上顎前突症もあれば、上顎骨自体が下顎骨よりも前方拡大している骨格性の上顎前突症もあります。
原因
上顎前突症の原因は、先天性と後天性に分けられます。
先天性の原因としては、遺伝的な要因による上顎骨の過成長や小下顎症などがあります。
後天性の原因としては、吸指癖や舌突出癖、口呼吸などの悪習癖などが挙げられます。
症状
オーバージェットが5㎜以上になることによる審美障害に加え、機能的な症状として口唇の閉鎖不全や閉鎖不全に伴う口腔乾燥症、前歯部の咀嚼障害などが挙げられます。
セラミック矯正での上顎前突症治療のメリット
上顎前突症はセラミック矯正で治療することができます。
治療期間
セラミック矯正は、歯列矯正と異なり治療期間が短くてすみます。
麻酔抜髄をしなければ、支台歯形成の次の段階でセラミッククラウンを装着して治療が完了します。
色調改善
セラミッククラウンは、色調を任意に選択することができます。
歯の色調も変えられるのもセラミック矯正の特徴のひとつです。
後戻りが起こらない
歯列矯正では、矯正治療が終わったのちに、移動させた歯が後戻りを起こします。
そのために、長期にわたって保定装置という後戻りを予防する矯正装置を装着し続けなければなりません。
一方、セラミック矯正では歯を移動させませんから、後戻りを起こすことがありません。
セラミック矯正での上顎前突症治療のデメリット
セラミック矯正にはさまざまなメリットがある反面、デメリットもあります。
セラミック矯正のデメリットとは?治療を受ける前に知っておきたい予備知識
健全歯の削合
セラミック矯正では、セラミッククラウンを装着するために支台歯を形成しなければなりません。
支台歯が健全歯である場合も同様です。
抜髄のリスク
前歯部の傾斜が強い場合は、唇側の削除量が多くなるため、歯髄炎を起こすリスクがあります。
歯髄炎が予想される場合は、あらかじめ抜髄が必要となります。
セラミッククラウン装着後に歯髄炎症状を認めた場合も、同様です。
歯根破折のリスク
セラミック矯正を受けた歯は、歯軸と補綴物の長軸が合わなくなります。
歯に適切な方向から咬合圧が加わらなくなるため、歯軸と補綴物の長軸の交点に応力が集中し、歯根破折を起こすリスクがあります。
セラミッククラウン破損のリスク
セラミック矯正で用いられるセラミッククラウンは、強度も高く変色もきたさない非常に安定したクラウンです。
しかし、曲げ強度が弱いため、瞬間的に過大な力が加わると割れるリスクがあります。
咬合性外傷のリスク
セラミッククラウンの硬さは、天然歯を上回ります。
セラミッククラウンの装着時に適切な咬合調整を行わなければ、セラミッククラウンを装着した歯、もしくは対合歯に咬合性外傷を起こすリスクが避けられません。
齲蝕症や歯周病のリスク
セラミッククラウンを装着した歯は、マージン付近を中心にプラークコントロールが難しい箇所が生じます。
齲蝕症や歯周病は、プラークの中に潜む細菌が原因で生じる病気です。
したがって、プラークコントロールが悪化すると齲蝕症や歯周病のリスクを高めてしまいます。
セラミッククラウンの寿命
セラミッククラウンは非常に強度も高く安定しているクラウンですが、セラミッククラウンを装着しているセメントは口腔内の唾液にさらされ続けることで、少しずつ漏出していきます。
そのため、セラミッククラウンの寿命は長くても10年ほどです。
セラミック矯正以外の上顎前突症治療の方法
上顎前突症の治療法は、セラミック矯正だけではありません。
歯列矯正でも治療を受けていただくことは可能です。
マルチブラケット法
マルチブラケット法は、歯の表面に装着したブラケットに設けられたスロットに弾力ワイヤーを通し、この弾力ワイヤーの働きで歯を移動させる矯正治療法です。
ブラケットやワイヤーが目立ちやすいという審美的なデメリットはありますが、適応範囲は広く、ほぼ全ての歯列不正の治療に用いることができます。
歴史も長く、問題点もほぼ全て抽出されていますから、信頼性も高い矯正治療法です。
可撤式アライナー法
可撤式アライナー法とは、マウスピースを使って歯を移動させる歯列矯正の方法で、マウスピース矯正ともよばれます。
マルチブラケットと異なり、ご自身でマウスピースの取り外しや装着が可能ですので、食事やブラッシングが快適です。
また、可撤式アライナー法の矯正装置であるマウスピースは透明で目立ちにくいという利点もあります。
一方、マルチブラケット法ほど適応範囲は広くなく、特に歯を上下方向に移動させる圧下や挺出は困難ですし、次にご紹介する顎矯正手術が必要な症例は適応外となります。
マウスピース矯正のメリットとデメリットは?ワイヤー矯正との違いを比較しながら解説
顎矯正手術
上顎骨、もしくは下顎骨の異常、つまり骨格性の上顎前突症の場合は、骨切り手術を行います。
上顎骨の過成長に対しては上顎前方歯槽部骨切り術、下顎骨の劣成長に対しては下顎枝矢状分割術が適応となります。
セラミック矯正による上顎前突症治療の費用
セラミック矯正も歯列矯正と同じく、保険診療の適応はありません。
セラミッククラウンの相場は、1本あたり10〜15万円ほどです。
これにセラミック矯正の対象となる歯の本数をかけて算出された金額がセラミック矯正の費用となりますが、あくまでも相場となります。
詳しい費用は主治医の歯科医師に相談となります。
【まとめ】出っ歯のセラミック矯正は可能?
今回は、上顎前突症に対するセラミック矯正についてお話ししました。
セラミック矯正は、短期間で上顎前突症を改善できる上、色調も整えられますが、健全歯の削合が欠かせない、歯根破折や抜髄のリスクのある治療法です。
したがって、メリットやデメリットを十分理解して、治療を進める必要があります。