矯正治療といえば、歯に弱い力を持続的に加えて歯を移動させるマルチブラケット法や可撤式アライナー法(マウスピース矯正)がイメージされます。
一方、歯を移動させることなく歯列不正を改善させる方法もあり、それをセラミック矯正といいます。
セラミック矯正とは、どのような特徴を持つ矯正治療なのでしょうか。
今回はメリットやデメリットを含めて、セラミック矯正についてご説明します。
目次
セラミック矯正とは
セラミック矯正とは、理想的な形態となるようにセラミッククラウンを装着することで前歯部の傾斜や形態を改善する矯正治療です。
セラミッククラウンという補綴物を用いることから、歯を移動させる歯列矯正に対し、補綴矯正ともよばれます。
セラミック矯正の方法
セラミック矯正は以下のような流れで行われます。
①検査と診断
どのような点が気になっているのかを問診にて聴取します。
視診に加え、レントゲン写真や口腔内写真を撮影し、口腔内の状態を詳しく検査します。
②プロビジョナルレストレーションの作成
印象採得し、最終補綴物の形態を機能的・審美的に審査するためのプロビジョナルレストレーションを作成します。
プロビジョナルレストレーションは、テンポラリークラウン(暫間被覆冠)のようなものですが、より最終補綴物の形態を再現しています。
プロビジョナルレストレーションの形状に納得していただいたら、支台歯形成にうつります。
③支台歯形成
支台歯形成と印象採得、咬合採得を行います。
支台歯が生活歯の場合は、表面麻酔・浸潤麻酔ののち、支台歯の形成に取りかかります。
そして、プロビジョナルレストレーションを装着します。
④装着
完成したセラミッククラウンを装着し、セラミック矯正は終了です。
セラミック矯正のメリット
セラミック矯正には歯列矯正にはないさまざまなメリットがあります。
治療期間が短い
セラミック矯正は、支台歯形成の次にセラミッククラウンを装着し、治療が終了となります。
支台歯形成の前段階の検査・診断やプロビジョナルレストレーションの作成段階を含めても、数回の通院で平均3〜6か月程度ですみます。
歯列矯正は2〜3年ほどかかりますから、セラミック矯正の治療期間の短さがわかります。
後戻りを起こさない
歯列矯正では治療が終了したのち、後戻りを起こすリスクがありますので、保定装置を装着します。
セラミック矯正では、歯を移動させませんので、後戻りを起こすことはありません。
色調も改善できる
セラミック矯正で用いられるセラミッククラウンは、色調を任意に合わせることが可能です。セラミック矯正なら変色歯などであっても、色調も同時に改善できます。
歯の移動による不快感がない
歯列矯正では歯を移動させるために、歯に圧力を加えます。このために、痛みや不快感が生じます。
一方、セラミック矯正では歯を移動させることがないため、痛みや不快感が生じません。
セラミック矯正のデメリット
セラミック矯正には前述のようなメリットのほか、デメリットもあります。
健全歯の切削
セラミック矯正では、セラミッククラウンを装着するために支台歯の削合が不可欠です。支台歯が健全歯だった場合は、健全歯を削合することになります。
削合された部分はセラミッククラウンで補綴されますが、健全歯と比べると齲蝕への抵抗性が低下するなどのリスクを伴います。
抜髄のリスク
健全歯を削合した場合、歯質が薄くなることにより、冷水痛や温水痛を生じるようになるリスクがあります。特に、歯軸の傾斜が強い場合、削除量が多くなりますので、それだけ疼痛リスクが高まります。自発痛の強度によっては、抜髄するリスクが生じます。
咬合性外傷のリスク
セラミック矯正で用いられるセラミッククラウンは、咬合圧を歯周組織のひとつである歯根膜で負担します。装着時に咬合調整をしっかり行わなければ、咬合性外傷を生じるリスクがあります。
歯の破折のリスク
セラミック矯正では、補綴物の長軸と歯軸が一致しません。そのため補綴物の長軸と歯軸の交点に咬合圧が加わることで、歯が破折するリスクがあります。
ブラキシズムやクレンチングはもちろん、歯牙接触癖(TCH:Tooth Contacting Habit)がある場合も同様です。
歯が破折した場合、破折位置によっては抜歯となります。
セラミッククラウンの破損のリスク
セラミッククラウン自体は、非常に硬く安定性の高い性質を有しています。
しかし、曲げ強度や破壊靭性の点から、強い力が瞬間的に加わると破損するリスクがあります。
齲蝕や歯周病のリスク
セラミック矯正ではセラミッククラウンと歯軸が不一致なために、マージン部分を中心に清掃性が低下してしまいます。
その結果、プラークコントロールが低下をきたすと、齲蝕症や歯周病のリスクが生じます。
永久ではない
セラミッククラウンを接着するセメントは、長期にわたって唾液にさらされ続けることで、少しずつ溶出していきます。
そのため、最長でも10年ほどしか接着力を保つことができません。
臼歯部には適応がない
セラミック矯正の適応は、前歯部です。臼歯部の歯列不正には適応がありません。
セラミック矯正が適した症例
長期にわたって通院するのが困難な方や、すでに補綴物が装着されている方のほか、比較的進行した齲蝕歯を有する方、抜髄後の変色歯を始め、テトラサイクリン変色歯、歯牙フッ素症などの変色歯などの方が適しています。
セラミック矯正と保険診療
セラミック矯正も、歯列矯正と同じく保険診療の給付の対象外となっています。
セラミック矯正に用いられるセラミッククラウンは、ジルコニア・オールセラミッククラウンで1本あたり10〜15万円ほど、内面のフレームに金属を用いた陶材焼付鋳造冠では1本あたり8〜10万円ほどです。
そのため、セラミック矯正の相場は、セラミッククラウンの費用に、セラミック矯正を行った歯の本数をかけた金額となります。
セラミック矯正は自費診療ですので、詳細な治療費などについては主治医の歯科医師によく相談してください。
【まとめ】セラミック矯正のデメリットとは?治療を受ける前に知っておきたい予備知識
今回は、セラミック矯正のメリットやデメリットについてお話ししました。
セラミック矯正には、歯列矯正にはないメリットがありますが、歯の削合や破折などのデメリットがないわけではありません。
セラミック矯正に取りかかる前に、メリットだけでなくデメリットについても十分理解しておく必要があります。