歯並びに対する日本と海外の意識の違いと欧米の矯正治療

歯並びに対する日本と海外の意識の違いと欧米の矯正治療

太平洋戦争中の1942年にアメリカで製作された『カサブランカ』という映画で、ハンフリー・ボガートが、イングリッド・バーグマンに尋ねます。

「君は10年前は何をしていたの?」

その答えはこうです。

「ブレース(矯正装置)をつけていたわ。」

アメリカでは太平洋戦争の前から、矯正治療が一般的に普及していたことをうかがわせるエピソードです。

日本で矯正治療が普及してきたのは、太平洋戦争が終結して以降です。

今回は日本とアメリカ、欧米諸国との歯列や矯正治療に対する文化や意識の違いなどについてご説明します。

目次

日本と欧米の顔に関する文化・意識の違い

顔や口元に対する意識には、日本と欧米諸国では大きな差があります。

口元は隠す?それとも見せる?

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、マスクの着用が訴えられ、マスクのない生活は想像できない世の中になりました。

日本では、比較的マスクは早い段階から受け入れられたようですが、欧米諸国ではマスクはなかなか浸透しなかったようです。

この背景にあるのが、顔や口元を隠す日本の文化です。

日本では平安時代以降、顔を隠すことに文化的な重点が置かれました。

女性だけでなく男性も、貴族階級にある人々は顔に白粉を塗り、眉を抜いて眉を描き、歯にお歯黒を施していました。

お歯黒を施した口元は、歯並びがわかりにくくなり、口元の印象が曖昧になります。

これを美として1000年以上も続けてきたのです。

現代ではここまでの顔隠しの文化は見られなくなりましたが、笑うときや爪楊枝をするときに口元を隠す仕草は依然として残っています。

このために、マスクを日常的につけることに違和感がなかったのでしょう。

一方、欧米人は表情を口元で表す傾向があります。

ちなみに、日本人は目元で表します。

このため、欧米人は口元を見せる文化が発達しました。

実際、アメコミのヒーローたちの多くは、目元はマスクで隠していますが、口元を隠しているヒーローはスパイダーマンなどごく一部です。

口元を隠す忍者と正反対ですね。

日本人と欧米人の表情

一般的に日本人は欧米人に比べて表情に乏しい、欧米人は日本人の表情を読み取るのが苦手などといわれています。

ところで片目つぶり、つまりウインクの能力について調べた研究があります。

これによりますと、アメリカの白人(コーカソイド)、特に女性に片目つぶりが上手で、反対に日本人は片目つぶりが下手ということです。

また、片眉上げについての研究では、アメリカ白人と比べ、日本人の下手ぶりが際立っています。

顔の表情は、表情筋によって作りだされています。

表情筋を左右非対称に自在に動かすことができれば、表情も豊かになりますが、片目つぶりや片眉上げの研究から、日本人は欧米人と比べて表情筋の動きが得意ではないと言えます。

日本人は白人と比べて顔の表情に乏しいというのは、こうした事情が背景にあるようです。

日本と欧米の歯列不正への意識の違い

前述したように日本では欧米諸国では見られない、お歯黒や顔隠しの文化があります。

これが歯列不正の認識に大きく影響していると考えられます。

その象徴が、犬歯の低位唇側転位歯に関する捉え方です。

叢生、いわゆる乱杭歯や上顎前突や下顎前突などの歯列不正は、日本も欧米諸国も同様に良くないと認識されていますが、犬歯の低位唇側転位歯に関してはそうではない傾向があります。

犬歯の低位唇側転位歯の捉え方の違い

犬歯の低位唇側転位歯とは、いわゆる八重歯です。

日本では八重歯をチャーミング、かわいいとみる傾向があります。

ところが欧米諸国では、ドラキュラや狼男の歯としてイメージするようで、かわいいと見なす日本とは正反対の認識となっています。

これは欧米諸国に限った話ではなく、同じアジア圏の台湾や中国でも同様にかわいいと認識することはないようです。

中国では『虎の歯』と呼んで、幸福が逃げる縁起が悪い歯と思われているとのことです。

このように同じ歯列不正でも、日本と欧米諸国では捉え方が全く異なる場合があることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

これも歯列不正に関する文化の違い、意識の違いと言えるでしょう。

我が国での近代的矯正治療の歴史

現在、主流となっているマルチブラケット法は、1903年にエドワード・アングル(Edward・H・Angeil)が開発したエッジワイズ法が原型となり、発展したものです。

その後、すぐに日本に伝わったわけではなく、日本に伝わったのは太平洋戦争が終わってから少し経った1950年代といわれています。

その後、1970年代前後に、ブラケットを歯の舌側に装着するリンガルブラケットが日本の藤田欣也博士によって開発されました。

リンガルブラケットは世界各国で改良が加えられ、2001年にドイツでオーダーメイドのリンガルブラケットを用いたインコグニート(Incognito)が開発されるにいたりました。

一方、可撤式アライナー矯正の先駆者とも言えるインビザライン(Invisalign)は1997年に開発され、2002年に日本法人が設立され、2006年から日本でも導入されるに至りました。

可撤式アライナー矯正については、アメリカとほとんど同じ時期に始まっていますが、近代的な矯正治療自体は、日本はアメリカからかなり遅れをとって導入されたわけです。

歯列不正を良くないとする認識があれば、もっと早い時期から導入されていたかもしれないわけで、これも歯列不正に関する文化や意識の違いが反映した結果と言えるでしょう。

歯列矯正の歴史から未来の矯正治療を予測

矯正治療は欧米人にとっての身だしなみ

アメリカでは、実業家や企業の上級管理職、政治家など社会のエリート層は、仕事ができるだけでなく、社会的立場にあった物を身につけていることや自己管理がしっかりできることが求められているそうです。

歯列不正は病気

ここでいう自己管理とは、健康管理のことです。

肥満ではないスリムな体型であること、タバコを吸わないことは当然として、定期的に歯科医院に通って齲蝕や歯周病を適切に治療されていることが求められています。

そして、歯列不正がないこともこの条件に含まれています。

その理由は、歯列不正も病気であると考えられているからです。

日本では、齲蝕や歯周病を病気と捉えることに異論はなくとも、歯列不正を病気と捉えることについては、意見が分かれるところでしょう。

矯正装置はステータス

冒頭の映画『カサブランカ』の会話のシーンでのイングリッド・バーグマンの台詞の背景には、「私の実家は矯正治療をしてもらえるのよ」と、優吹な家柄を誇らしく思っている気持ちが含まれています。

医療費が全般的に日本と比べて非常に高額なアメリカでは、矯正装置は家の裕福さを示すバロメーターとされ、子供に矯正装置を装着させていることは、一種のステータスなのです。

また、ハリウッドスターのひとりであるトム・クルーズは、銀幕にデビューしてから何回も矯正治療を受けていることが明らかになっています。

矯正治療を受けているハリウッドスターは、トム・クルーズだけではありません。

ジャスティン・ビーバーをはじめ、数多くのハリウッドスターが矯正治療を受けています。

一方、日本では、矯正装置が見えることをデメリットと捉える傾向があり、できるだけ目立ちにくい治療が求められていますし、芸能人や有名人が矯正治療をしていることを明らかにすることは多くはありません。

矯正治療そのものに対する認識も日本とアメリカでは違いがあります。

歯列矯正を始める時期の違い

日本と欧米諸国では、前述したように歯列矯正に対する認識が全く異なります。

欧米諸国では、歯をとても大切にしています。

例えば、齲蝕症は治療ではなく予防するものとして、当然のようにメインテナンスを受ける習慣があります。

子供の齲蝕症を放置していると、子供の健康管理を怠っている=虐待していると指摘される例もあるほどです。

歯列不正も同じです。

子供の歯列不正を放置しているということは、『病気を放置しているとみなされる』『矯正治療しないのではなく、矯正治療を受けられないくらい貧しい』とみなされるため、小学生の頃から矯正治療を受けることが多いです。

日本ではそうではなく、最近では増えてきたとはいえ、子供の頃から矯正治療を受けている人はまだまだ少なく、成人になってから初めて矯正治療を受けるという人も珍しくありません。

子供矯正の種類と使われる装置の役割

【まとめ】歯並びに対する日本と海外の意識の違いと欧米の矯正治療

今回は、歯並びや矯正治療に対する日本と欧米諸国での意識の違いについてお話ししました。

現在、日本には100万人ほど、つまり全人口の約1%にあたる割合で外国籍の方が在住し、さまざまな経済活動に従事しているそうです。

そのため、日本国内の企業に勤めている場合でも外国人をターゲットにしたビジネスを展開したり、ビジネスパートナーとする可能性が高まっています。

欧米諸国では、齲蝕や欠損歯、歯列不正を放置していると自己管理ができていないとみなされるため、ビジネス上の障害となり得ます。

グローバル化した日本社会でも、そのような認識が求められる時代に入りつつあります。

ビジネス上の成功を収めるための第一歩は、矯正治療と言っても過言ではない時代が目前まできているのです。


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