出っ歯について【矯正治療・期間・費用・原因・症状】

出っ歯について【矯正治療・期間・費用・原因・症状】

日本人の歯列不正の割合の中で、乱杭歯として知られる叢生に次いで2番目に多いのが、上顎前突症いわゆる“出っ歯”です。

上顎前突症はどうして生じるのでしょうか。

今回は上顎前突症の原因や症状だけでなく、治療法や治療期間、治療費までご説明いたします。

目次

上顎前突症とは

上顎前突症とは、上顎と下顎の前歯間の水平的距離、つまりオーバージェットが過大な歯列不正です。歯科の分類では、オーバージェットが7〜8㎜以上の症例を上顎前突症と定義しています。

症状

上顎前突症とひとことで言っても、実は症状はさまざまです。

例えば、上顎の骨格が下顎骨より相対的に過大なことによって生じる骨格性の上顎前突症や、顎骨の大きさは正常だけれども、上顎の前歯が唇側に過剰に傾斜している歯槽性の上顎前突症があります。

また中切歯の歯軸の傾斜は正常だけれども、側切歯が口蓋側に転位していると、咬合時に上顎前突症になってしまう機能性の上顎前突症なども挙げられます。

セルフチェック法(E-ライン)

上顎前突かどうかのセルフチェック法の代表的なものに、E-ライン法があります。

E-ラインとは、Esthetic-Lineの略で、鼻尖とオトガイ部の最先端部に接線を引き、この線に対しての上口唇、下口唇の位置を測定する評価法です。

E-ラインではなく、E-プレーン(Esthetic-Plane)ということもあります。

上顎前突症の場合、E-ラインより上口唇、下口唇が前方に位置します。

セルフチェック法には、E-ラインの他、S-ラインやZ-アングルという評価法もありますが、測定点が複雑なので、簡易なE-ライン法がおすすめです。

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上顎前突症の原因

上顎前突症の原因は、先天的なものと後天的なものに分けられます。

先天的原因

ヒトに限らず生物はさまざまな特徴を備えており、これを形質と呼んでいます。

形質は基本的に遺伝情報によって決定されますが、環境因子も影響を与えています。

顎骨のサイズや形状も形質に含まれ、遺伝情報や環境因子の影響を受け、上顎前突症を引き起こすことがあります。

後天的原因

上顎前突症の後天的としては、次のようなものがあげられます。

栄養障害

ビタミンD不足などの栄養障害による骨の成長阻害により下顎骨の成長が阻害されると、下顎骨の後退を伴う骨格性上顎前突症を引き起こします。

成長ホルモンの分泌不全

成長ホルモンの分泌不全による下顎骨の劣成長は、上顎前突症の原因となります。

不良習癖

不良習癖が歯列不正の原因となることは、以前から明らかになっています。

上顎前突症の原因となる不良習癖としては、咬唇癖、弄指癖、弄舌癖、拇指吸引癖、口呼吸、異常嚥下癖などが挙げられます。

下顎骨の疾患

下顎骨の炎症や腫瘍などにより、成長期に下顎骨の部分切除術が行われると、下顎骨の成長が片側性に障害されます。その結果、骨格性の上顎前突症を起こすことがあります。

Angleの分類と上顎前突症

代表的な歯列不正の分類であるAngleの分類では、上下顎の臼歯部の近遠心関係を基準に3種類に評価しています。

詳しくは次にご説明しますが、AngleのⅡ級1類と2類、そして上顎前歯の唇側転位や下顎前歯の舌側転位を伴うⅠ級が当てはまります。

ClassⅠ級

上下顎の臼歯部の近遠心関係が正常な歯列不正です。

上顎前歯部の唇側傾斜や唇側転位、下顎前歯部の舌側傾斜により、上顎前歯部の前突症状を認めます。

ClassⅡ級

下顎の臼歯部が上顎の臼歯部に対して、正常よりも遠心に咬合する歯列不正です。

ClassⅡ級は第一類と第二類に分けられますが、上顎前突に関係するのは第一類です。

ClassⅡ級の第一類では、上顎前歯の唇側傾斜や唇側転位により上顎前突症状を呈します。

ClassⅢ級

下顎の臼歯部が上顎の臼歯部に対して、正常よりも近心に咬合する歯列不正です。

ClassⅢ級では前歯部の反対咬合を認めるため、上顎前突ではなく下顎前突症状を呈します。

上顎前突症の治療法

上顎前突症の治療法は、マルチブラケット法などいくつかあります。

マルチブラケット法

マルチブラケット法は、全ての歯の歯面にブラケットという金具を接着し、アーチワイヤーやエラスティックによる矯正力を利用して歯を移動させる矯正治療法です。現在、幅広く利用されているのはエッジワイズ法というタイプのマルチブラケット法です。

マルチブラケット法の利点としては、顎間力や顎外力を利用することで、ほとんどすべての歯列不正の治療が可能な点が挙げられます。

一方、矯正装置が目立ってしまうという審美的な点、矯正装置があるために食事やブラッシングが困難になるという機能的な点に難点があります。

近年、こうしたマルチブラケット法の難点を解消する新しいマルチブラケット法として、舌側にブラケットを装着するリンガル・マルチブラケット法が開発されました。

代表的な方法は、インコグニート®︎です。

インコグニート®︎では、ひとつひとつの歯に適したブラケットをオーダーメイドで製作します。そのため、ブラケットが最小サイズに収まっている上、フィット感も高いため、過剰な間隙がなくなっており、食事やブラッシングへの影響が最小限にとどまっています。しかも、舌側に矯正装置が装着されているため、審美的にも目立たないという利点もあります。

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可撤式アライナー法

可撤式アライナー法とは、近年注目を集めているマウスピースを矯正装置として用いた矯正治療のことです。

透明で薄く、歯にとてもフィットしたマウスピースにより歯を移動させるため、マルチブラケット法のような矯正期間中の審美的な影響がほとんどありません。

しかもマウスピースは取り外しが可能なので、食事やブラッシング時は外せばよく、日常生活に与える影響も最小限に抑えられます。

こうした利点の反面、1日20時間以上装着しなければ歯を移動させる効果が得られない、定期的に新しいマウスピースに交換しなければならない、マルチブラケット法ほど適応範囲が広くないなどの難点もあります。

代表的な可撤式アライナー法は、インビザライン®︎です。

インビザライン®︎では、歯の移動にコンピューターシミュレーションを導入し、歯の移動予測に基づいてマウスピースをコンピューターが自動的に作製します。

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インプラント矯正

インプラント矯正は、アンカースクリューを顎骨に埋入し、固定源とすることで歯を移動させる矯正手術です。

アンカースクリューの埋入は、浸潤麻酔を必要としないほど、侵襲の低い処置ですが、固定力はかなり高く、顎外力を利用せずとも大臼歯を後方に移動させることも可能です。

アンカースクリューを用いて大臼歯を後方に移動させることができれば、歯の配列スペースに余裕ができるため、便宜抜歯を行わなくても上顎前突症を解消できる可能性が高まります。

顎矯正手術

顎変形症による上顎前突症では、術前矯正ののち顎矯正手術と呼ばれる骨切り手術が適応されます。

上顎骨に対する顎矯正手術は上顎骨形成術と呼ばれ、上顎前方歯槽無骨切り術とLeFortⅠ型骨切り術の2種類あります。

上顎前方歯槽骨切り術は、第一小臼歯もしくは第二小臼歯を抜歯して、抜歯窩から梨状口まで骨切りを行い、前歯部をセットバックする手術法です。

LeFortⅠ型骨切り術は、上顎骨を骨切りし後方へ移動させる手術法です。

LeFortⅠ型骨切り術は単独で行われることはあまりなく、下顎枝矢状分割術や下顎枝垂直骨切り術などの下顎骨形成術を併用します。いずれの手術法も侵襲が高く、入院した上での全身麻酔下での手術となります。

上顎前突症の治療期間

上顎前突症の治療期間は、以下の通りです。

マルチブラケット法

マルチブラケット法での治療期間は、2〜3年です。

もちろん、症状によってはこれより早くなることもありますし、反対に長引くこともあります。

可撤式アライナー法

可撤式アライナー法での治療期間も、2〜3年です。

マウスピースの装着時間が規定より短かったり、定期的な交換を怠ったりすると、これよりも長引くことも珍しくありません。

インプラント矯正

インプラント矯正では、強固な固定源を得ることができるため、治療期間は1〜3年ほどです。

顎矯正手術

顎矯正手術では、手術前にマルチブラケット法による術前矯正、手術後には顎間固定、そして術後矯正が行われます。

術前矯正から術後矯正まで、手術を含めてもおおむね2〜3年です。

上顎前突症の治療費

上顎前突症の治療費は、治療法によって異なります。

マルチブラケット法

マルチブラケット法での治療を選んだ場合、50〜80万円です。

もし、審美性の高いブラケットやワイヤーを用いると、この額よりも10〜15万円ほど高くなります。

リンガル・マルチブラケット法は、手技の難易度が高いためもともと高額ですが、インコグニート®︎では、オーダーメイドでブラケットを作ることもあり120〜180万円ほどになります。

可撤式アライナー法

可撤式アライナー法は、国内外の数多くのメーカーがさまざまなタイプを開発しています。

代表的な可撤式アライナー法であり、先駆者とも言えるインビザライン®︎の場合、80〜100万円ほどとなっています。

インプラント矯正

インプラント矯正では、アンカースクリューの埋入費用の相場が1本あたり3〜5万円です。これが前述した矯正治療の治療費に加わることになります。

顎矯正手術

顎変形症に対する顎矯正手術は、術前後の矯正治療も含めて保険給付の対象となっています。

一般的な保険診療の自己負担割合である3割を元に計算すると、矯正治療の自己負担額は20〜30万円ほどです。

顎矯正手術の費用は、手術内容によって差があります。

保険診療では、1点10円で計算する仕組みになっています。

上顎骨形成術は、およそ28,000点です。

前述したように、上顎骨形成術は単独で行われることはあまりなく、下顎骨形成術も同時に行われます。

下顎骨形成術は、下顎枝矢状分割術や下顎枝垂直骨切り術でおよそ31,000点です。下顎の非対称感が残る場合は、これにオトガイ形成術(約7,800点)が組み合わせられます。

この手術費用に、入院費用、全身麻酔の麻酔費用、手術前後のレントゲンやCTなどの費用が加わり、自己負担額は30〜40万円ほどになります。

合計すると保険診療とはいえかなりの額になりますが、保険診療では窓口での自己負担額が一定額を超えた場合に、一定額以上の金額が支給される高額療養費制度が利用できますから、実際の支払額はここからさらに減額されます。

【まとめ】出っ歯について【矯正治療・期間・費用・原因・症状】

今回は、上顎前突症の原因や治療法、治療期間などについてお話ししました。

上顎前突症の原因は、先天的なものと後天的なものに分けられます。

治療法は、どちらも矯正治療です。矯正治療といっても、その方法はいろいろあります。さまざまな治療法の中から、効果的な方法を選ぶようにしましょう。


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