顎顔面領域の審美障害はいろいろありますが、そのひとつにメラニン色素の沈着に伴う歯肉メラニン色素沈着があります。
歯肉メラニン色素沈着は病的な色素沈着ではありませんが、審美障害の解消には色素沈着の除去が不可欠です。
歯肉メラニン色素沈着を除去する方法として行われているのが、ガムピーリングです。
今回は、歯肉メラニン色素沈着を取り除くガムピーリングについてご紹介します。
目次
ガムピーリングとは
ガムピーリングとは、正式には歯肉メラニン色素沈着除去療法とよばれる歯肉のメラニン色素沈着を除去する処置です。
前歯部に生じた歯肉メラニン色素沈着は、審美的に大変目立つため、さまざまなガムピーリングの方法が開発されています。
歯肉メラニン色素沈着について
歯肉メラニン色素沈着は、基底細胞層に存在するメラノサイトが刺激を受け、その内部で産生・分泌されたメラニンが、基底細胞の細胞質内に沈着することで生じる色素異常で、歯肉表面の0.1〜0.3mm程の浅い位置に沈着します。
なお、頬や舌の咬傷したときなどに生じる血腫に伴う紫斑は、ヘモジデリンによる色素沈着です。
ヘモジデリンはヘモグロビンに由来する鉄を含んだ色素成分なので、血腫に伴う紫斑はメラニン色素沈着と異なります。
歯肉メラニン色素沈着は、歯肉辺縁部や遊離歯肉には見られず、前歯部の付着歯肉に好発します。
これは、付着歯肉部には直下に歯槽骨があり、血流量が少ないことが影響していると考えられています。
色素沈着の症状としては、び慢性や帯状の淡褐色から黒褐色を呈します。
日本人の発生頻度は、およそ5%ほどになりますが、白人ではほとんど見られないのが特徴です。
歯肉メラニン色素沈着は生理的色素沈着
口腔内に生じるメラニン色素沈着は、歯肉メラニン色素沈着だけでなく、いろいろあり、生理的色素沈着と病的色素沈着に大別されています。
生理的色素沈着には、歯肉メラニン色素沈着のほか、炎症後の反応性歯肉色素沈着などがあります。
一方、病的色素沈着には、色素性母斑や悪性黒色腫のように口腔内に局所的に生じる色素沈着に加えて、黒色表皮種やAdisson病、Albright症候群の色素沈着のように全身疾患の一部分内症状として口腔内に現れる色素沈着などもあります。
歯肉のメラニン色素沈着の原因
歯肉メラニン色素沈着はどうして起こるのでしょうか。
喫煙
喫煙を行うと、歯肉に含まれるメラニン色素を生合成するメラノサイト内のメラノゾームを刺激され、メラニン色素産生が亢進します。こうして喫煙者にはメラニン色素の沈着が生じると考えられています。
喫煙によるメラニン色素沈着は、喫煙本数に比例することが明らかになっており、喫煙本数の増加に伴って歯肉色素沈着も増大します。実際、歯肉色素沈着の程度と尿中ニコチンの濃度に有意な相関関係が認められています。
自己喫煙では、喫煙開始から1年ほど経過してから、歯肉メラニン色素沈着が起こり始めます。
口呼吸
口呼吸をすると口腔内が乾燥します。
特に、歯肉メラニン色素沈着の好発部位である前歯部歯肉は、口呼吸により非常に乾燥を生じやすい部位です。
乾燥による刺激が、メラノゾームを刺激し、メラニン色素産生を促すと考えられています。
上顎前突による歯肉の露出
上顎前突により歯肉が露出した症例でも、前述した通り前歯部歯肉の乾燥を生じるため、メラニン色素の産生量が増加し、歯肉メラニン色素沈着を起こします。
紫外線
メラノゾームは紫外線による刺激を受けやすく、歯肉が紫外線に当たることも歯肉メラニン色素沈着の原因となります。
ガムピーリングの種類
ガムピーリングの方法は、現在レーザーによる蒸散、薬物塗布、機械的削除の3種類に大別できます。
レーザーによる蒸散
ガムピーリングに用いられるレーザーとしては、CO2レーザーやEr:YAGレーザーがあります。
CO2レーザーは、波長10.6μm、光浸透長0.5mmですので、生体組織表層でほとんど吸収される組織表面吸収型レーザーです。組織深部に到達することはありません。
高出力で照射しても、0.5mmの深さで50℃にしかならないので安全性も高いです。
Er:YAGレーザーは、波長2.94μmで、生体組織表面に作用する組織表面吸収型レーザーで、蒸散性に優れ、組織深部に達することはありません。
CO2レーザーと異なり、熱反応も示しません。
薬物塗布
薬物塗布法としては1951年にヒルシュフィールドが開発したフェノール・アルコール法が行われています。
この方法では、90%フェノールを患部に塗布し、フェノールのタンパク質変性作用によりメラニン色素沈着を生じた歯肉の上皮組織を腐食させることで、歯肉変色を消退させます。
フェノールの浸漬深度は0.3〜0.4mmなので、歯肉メラニン色素沈着に十分な効果が得られます。
機械的削除
機械的削除法としては、カーボランダムポイントによる着色歯肉の除去が行われます。
ガムピーリングの術式
ガムピーリングの術式についてご説明します。
レーザーによる蒸散
CO2レーザーによる蒸散
照射条件:出力6〜8W、照射時間0.1〜0.2秒間
- 表面麻酔
キシロカインスプレーなどによる表面麻酔 - レーザー照射
歯肉から5〜8mm程度の距離を保ち、非接触的に照射する - 経過観察
レーザー照射から1週間後に経過観察し、効果が不完全なら色素沈着が消退するまで再度照射する
Er:YAGレーザーによる蒸散
照射条件:軟組織モード、出力80〜100mJ。
- 浸潤麻酔
エピネフリン含有2%キシロカインなどによる浸潤麻酔 - レーザー照射
注水下で斜め30〜40度で患部に接触照射して、上皮層を蒸散 - 経過観察
レーザー照射から1週間後に経過観察し、効果が不完全なら色素沈着が消退するまで再度照射する
薬物塗布
フェノール・アルコール法では、患部に直接薬剤を作用させます。
- 表面麻酔
キシロカインスプレーなどによる表面麻酔 - 防湿
薬液が患部以外に広がらないようにするため - 薬液塗布
90%フェノールを小綿球で塗布し、20秒間放置 - 中和
無水エタノールで20秒間中和 - 水洗
- 経過観察
1週間後に経過観察する
機械的削除
機械的削除では、歯科用回転切削器具を使った色素沈着の除去が行われます。
- 浸潤麻酔
- 注水下でカーボランダムポイント(回転数3,000rpm)使って、患部を機械的に削除します。
- 経過観察
1週間後に経過観察する
ガムピーリングの効果
治療別のガムピーリングの効果についてご説明します。
レーザーによる蒸散
レーザーによるガムピーリングの効果は、レーザーが産生する熱刺激がメラノゾームに作用し、メラノゾームを含む細胞が熱変性を起こすことで脱落し、色素沈着を消失させると考えられています。
CO2レーザーは術中、軽度の灼熱感はあるが浸潤麻酔が必要となる程ではないので、多くの場合表面麻酔だけでメラニン色素の除去が行えます。
Er:YAGレーザーでは、術中軽度の痛みを感じることがあるので、浸潤麻酔を行います。
レーザーによるガムピーリングは、非観血的な処置なので侵襲が少ない反面、1回で効果が得られることは稀で、何度か照射が必要です。
また、一回あたりの照射時間が短いので、チェアータイムも短い上、技術的な難易度も高くありません。
術後出血や術後感染のリスクもありませんし、瘢痕形成や創傷収縮もほとんど起こりません。
特殊な薬物を使うわけではないので、薬理作用による副作用も起こりません。
薬物塗布
フェノール・アルコール法では、上皮組織そのものを腐食させるため、歯肉メラニン色素沈着の除去効果は高いです。しかも、改善期間も長く、後戻りも起こしにくいことが指摘されています。
機械的削除
カーボランダムポイントによる機械的削除では、着色部位そのものを除去することから、歯肉メラニン色素沈着の除去効果は高いです。
ガムピーリングの副作用
ガムピーリングの副作用についてご説明します。
レーザー
CO2レーザーによるガムピーリングは、術中の疼痛所見もないため、術前の麻酔は表面麻酔で十分です。
Er:YAGレーザーでは、術中に僅かな痛みを生じることがあり、術前に浸潤麻酔を行います。術後も疼痛なく、出血も起こさず、味覚などの感覚障害も認められません。術直後は、照射面に熱凝固層が薄く生じるため、白色の結合組織が認められます。4〜7日後には上皮化が起こり治癒します。
レーザーによるガムピーリングは、いずれの方法も処置に伴う副作用の報告例もなく、安全性の高い処置です。
薬物塗布
術中の痛みはほとんどないため、表面麻酔だけで十分に疼痛コントロールが図れます。
術直後、塗布した歯肉に白色の結合組織を認めます。4〜7日ほどで、上皮化が起こり治癒しますが、この間ヒリヒリとした灼熱感や疼痛を認めることもあります。
フェノール・アルコール法には、フェノールが有する腎毒性、健常歯肉を損傷するリスクがあります。また、腐食範囲のコントロールが難しく、歯肉が薄い場合は歯肉退縮を生じる可能性や薬物誤飲のリスクもあります。
機械的削除
機械的削除は、特別な器材や薬剤を必要としない利点はありますが、健常歯肉に対する影響が大きく、歯肉が薄い場合の切削のコントロールや辺縁歯肉の近くの細かな着色歯肉の処理が難しいのが短所です。
術中の疼痛は、局所麻酔下にありますので、十分コントロール可能です。術後は、処置部位の疼痛に加え、出血、感染のリスクがあります。
保険診療とガムピーリング
ガムピーリングは、いずれの方法も保険診療の適応を受けていませんので、費用は自費となります。
【まとめ】ガムピーリングは痛い?効果や副作用も解説
今回は、ガムピーリングの方法や効果、副作用などについてご紹介しました。
現在行われているガムピーリングの方法としては、下記の3種類です。
- レーザーによる蒸散
- 薬物塗布
- 機械的削除
レーザーによる蒸散は、侵襲性が低く、疼痛もほとんどないのが利点ですが、一回で効果を得るのが難しいのが短所です。
薬物塗布は、効果が高いのですが、腐食範囲のコントロールが難しく、歯肉退縮や術後感染などを起こすリスクがあります。
機械的削除は、効果も高く、特別な器械や薬剤が必要ないのですが、細かな部分の処置が難しい上、術後疼痛や出血、感染のリスクがあります。
それぞれ異なる特徴を有していますので、症状に応じた適切な方法を選ぶようにしましょう。