インプラントとセラミック、どちらも高度な歯科治療というイメージがあるかと思います。しかし、自分のお口の中に入っている白い人工の歯がインプラントなのかセラミックなのか、歯を失った際、どちらで治療すれば良いのかなど、違いをあまり知らない方も、意外と多いのではないでしょうか。
この記事では、インプラントとセラミックの利点と欠点、どのような場合にどちらの治療を選択すべきなのかを、具体的な症例を挙げて解説します。
この記事を読むことで、インプラントとセラミックについて理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
- インプラントとセラミックってどんな治療法?
- 虫歯で歯を大きく削った場合、どちらがおすすめ?
- 歯を抜いたらセラミック治療は出来ないって本当?
目次
インプラントとは
歯科治療におけるインプラントとは、歯を失った際、その代わりとなる人工の歯牙を顎骨に直接埋め込む治療法のことを指します。
インプラントは、顎骨に埋め込む人工歯根(フィクスチャー)と、歯肉より上にでている人工の歯(上部構造)、そして、その2つを繋ぐ連結部分(アバットメント)の3つで構成されます。
インプラントは、歯根まで失ってしまった場合に用いる治療法です。歯根が残っている症例には、通常は用いることはありません。
メリット
インプラントは、主にチタンで作られています。
チタンは生体親和性が高く、骨と直接結合するという特徴があります。そのため、強度が強く、自分の歯と変わらない感覚で咬むことが出来るようになります。
咬むことによって、骨に刺激が直接伝わるので、骨が痩せてしまうこともあまりありません。
デメリット
インプラントは、適応症例を見極める必要があります。
インプラント体を埋め込むことが出来る骨の量や深さが足りない場合は、治療を行うことが出来ません。また、局所麻酔ではありますが、手術が必要となりますので、重度の糖尿病や高血圧など、全身疾患によって施術が行えない場合もあります。
稀ではありますが、チタンアレルギーの方も適応外となります。最近では、ジルコニアのインプラント体が開発されてきています。
インプラント体は、歯肉の腫れなどによる炎症の刺激に弱いので、口腔内清掃状態が良くなかったり、歯周病があったりすると、予後が悪くなるので注意が必要です。
インプラントを行う前に、まず口腔内環境を整えることをおすすめします。
セラミックとは
セラミックは、陶器や人工ダイヤモンドのような素材で、無機物を加熱処理し、焼き固めて製作する歯科材料のことをいいます。
セラミック治療として代表的なものはセラミッククラウンで、これは歯の歯冠(歯肉より上の部分で口の中で見えている部分)の形をしており、ご自身の歯根を土台にして、その上にセラミックの人工歯を構築していく治療法です。
そのため、歯根がしっかりと残っている症例に用います。
またセラミックは、う蝕などによって部分的に失われた歯の修復(インレー)や、歯並びを治す目的でのセラミック矯正、インプラントの際の人工歯(上部構造)などにも用いられます。
メリット
セラミックは生体親和性が高く、お口の中でも経年劣化が少ない素材です。
吸水性がないので着色や変色がしにくく、プラークの付着もしにくいために、2次う蝕や歯周病のリスクを低下させることができます。
色調再現性に優れたものから強度が強いもの(ジルコニア)まで、様々な種類があり、症例によって使い分けていくことができます。
デメリット
陶器のような素材のため、急激な力が加わると破折の恐れがあります。強度面に優れたジルコニアは破折しにくくはありますが、金属と比較すると破折しやすいといえます。
また、ジルコニアはその強度の強さゆえに、対合歯が削れてしまう可能性があります。そのため使用する際には、咬み合わせの調節を慎重に行う必要があり、歯ぎしりや食いしばりの癖がある方には、保護用にマウスピースの装着をすることもあります。
症例ごとにみるインプラントとセラミックの適応
「1本の歯の治療」としての場合、インプラントとセラミックにおける適応の違いは、修復する歯の歯根が残っているか、いないか、ということができます。
しかし、実際の症例でみてみると、失った歯の状態や周囲の歯牙や歯周組織の状態によって、いくつか選択肢を挙げることができます。
ここからは、具体例を挙げてみましょう。
Case1.歯冠部の広い範囲を失ったとき
う蝕や外傷などによって、歯肉から上の歯冠部分を大きく失ってしまった場合をみていきましょう。
ここで大切なのは、歯肉の下に残った歯根の状態です。
健全な歯根が残っている場合は、残っている歯牙の部分を土台として利用します。必要があれば、歯根の中の神経の処置をした上で歯根に土台を立て、その上に歯の形をしたクラウン(被せ物)を装着していきます。このクラウンに、審美性の高いセラミッククラウンがよく用いられます。
歯根が残っている場合は、基本的にはインプラントは行いません。しかし、歯根が極端に短く、歯冠部分を保持できなかったり、ヒビが入っていたり、近い将来歯根が駄目になってしまう可能性が考えられる場合は、残っている歯根を抜いて、インプラントにするといった治療法もあります。
Case2.歯を1本失ったとき
歯冠のみならず、歯根まで失った場合をみていきましょう。
例として、奥から2番目の第一大臼歯を失ったとします。
選択肢としては、3通りあります。
- 部分床義歯
- ブリッジ
- インプラント
この中では、ブリッジとインプラントでセラミック素材を用いることがあります。
部分床義歯
いわゆる「部分入れ歯」です。
保険が適応され、両隣の歯を削る必要がないことが大きなメリットとなります。着脱式のため、取り外して清掃などのケアをする必要があります。
両隣の歯に金属製のバネをかけて固定するので、カタつきや違和感が生じやすく、自分の歯と同じように咬むことは困難です。また、義歯の横揺れなども両隣の歯で支えていくことになるので、両隣の歯に負担がかかります。
歯を失った部分の骨は、咬んだ時の刺激を受けることがないため、少しずつ退縮していくことが多くなります。
ブリッジ
失った歯の両隣の健康な歯を削って土台とし、連結した3本分の歯を装着する方法です。
固定式のため、着脱の必要がなく、自分の歯と同じように使用することが出来ます。しかし、実際は3本分の咬合力を両側の2本の歯で支えることになるので、土台となる2本の歯に負担が集中することになります。また、ブリッジを装着するためには、健康な歯を削らなければいけないというデメリットがあります。
保険適応となるのは銀歯のみなので、白い歯のブリッジを希望する場合はセラミック(この場合はジルコニア)が使われることが多くあります。セラミックで補綴する場合は、金属よりも削る量が多くなるので、神経を取る処置が必要となることもしばしばあります。
インプラント
インプラントは、歯を失った箇所の顎骨に人工の歯根を埋め込み、その上に歯冠を作っていく方法です。両隣の歯を削ったり、咬合時の負担をかけたりする心配は一切ありません。
インプラント体を通して骨に直接刺激が加わるので、骨が痩せる心配もありません。しかし、義歯やブリッジと比べると、インプラント体と顎骨がくっつくのに時間がかかるため、治療期間が長くかかります。
また、全ての症例において、インプラント治療が適応となるわけではありません。隣在歯や歯周組織の状態をみて、判断する必要があります。
インプラント体の上部構造には、セラミックを用いた人工歯が使われることが多くあります。プラークが付着しにくいので、炎症が生じにくいというメリットがあるためです。
このようにインプラント治療には、セラミックを使用していくことが多くあるのです。
【まとめ】インプラントとセラミックの違いは?
インプラントとセラミックの違いについて、解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。
- インプラントとは、人工の歯根を顎骨に直接埋め込み、歯を作っていく治療法で、歯を(歯根まで)全て失った時に適応される
- セラミックとは、歯科で用いる素材の名称で、部分的な歯牙欠損の補綴からブリッジ、インプラントまで幅広く用いられる
- 歯根を失った場合は、義歯、ブリッジ、インプラントの3通りのいずれかで治療を行うこととなり、どの治療にもメリット、デメリットがあり、周囲の歯牙や歯周組織の状態なども考慮して治療方針を決定する必要がある
お口の中に入っている白い歯がインプラントなのか、セラミッククラウンなのか、歯科医師がレントゲンを見ればすぐ判別できます。
歯科健診の際などに、お口の中の状態を御自身で改めて確認してみるのも良いです。また歯を失った時は、その周囲の歯牙と歯周組織の状態をみて、どのような治療法で治していくのが良いかを、メリット・デメリットを含めて歯科医師と相談するようにしましょう。