インレー・クラウン・アンレーの違いと治療の選択について

インレー・クラウン・アンレーの違いと治療の選択について

現在まで約一年間続いているコロナ禍ですが、歯が多少痛む程度では歯科医院の受診を控えている方も多いのではないでしょうか。

ただの虫歯(齲蝕)でも、放っておくと取り返しのつかないことになるかもしれません。

齲蝕は感染症の一種であり、虫歯菌として知られるミュータンス菌などにより歯が溶かされ、痛みを生じる病気です。

齲蝕は私達にとって馴染み深い病気で簡単に治ると思われがちですが、ごく初期の齲蝕を除き、歯磨きなどで虫歯が完全に治ることはありません。

齲蝕を放置しておくと、歯の表面のエナメル質の溶解から象牙質、歯髄(歯の神経)へと進行し、最終的には抜歯に繋がることも少なくありません。また、齲蝕治療はあくまでも歯に似せた人工物を歯の欠損部分に補綴し、歯の機能と形態を回復する治療になります。

その治療法として、インレー・クラウン・アンレーなどを用いた様々な修復法と素材がありますが、どのような補綴物も天然歯にはかなわないため、早期治療が重要となってきます。

今回は齲蝕が進行してしまい、インレー・クラウン・アンレーによる治療が必要になった場合について、その違い・メリット・デメリットを解説します。

目次

インレー・クラウン・アンレーとは?

インレー・クラウン・アンレーとは臼歯部の一部または全体が齲蝕などで欠損した場合に歯冠を修復するために使用される補綴物です。

臼歯部には咬合圧がかかるため、レジンやセラミックなどの脆性材料は不向きであると考えられてきましたが、近年では歯科材料の改良や材料の保険収載により、金属以外の素材で修復することも増えてきました。

インレー・クラウン・アンレーの違いは、歯冠の修復方法による違いになります。

それぞれの違いを簡単に説明すると、インレーは軽微な齲蝕で浅いものに詰める補綴物、アンレーはインレーより範囲が広いもの、クラウンは人工歯冠を丸ごと被せるものになります。

C1のエナメル質に限局した虫歯やC2初期であれば、齲蝕部分を削りコンポジットレジンを窩洞に充填する治療法になりますが、齲蝕の範囲が広い場合にはインレー・クラウン・アンレーによる治療が必要となります。

また、歯髄に齲蝕病原菌が感染している場合には、感染歯髄を取り除く感染根管治療も必要となりますので、あわせて治療を行っていくことになります。

補足で、現在日本で主に使用されている齲蝕の分類を簡単に説明しますと、以下の通りになります。

  • CO:初期齲蝕(適切なプラークコントロールにより再石灰化が期待されるため、削らない)
  • C1:齲蝕がエナメル質に限局している
  • C2:齲蝕が象牙質に到達している
  • C3:齲蝕が歯髄(歯の神経)に到達している
  • C4:齲蝕が進行し歯冠が崩壊し、歯根だけになっている

インレーについて

インレーはC2C4の齲蝕では、齲蝕部分を除去したのちに適切な窩洞形成を行い、その形に合った補綴物を詰める治療になります。

メリットは健全歯質の切削量が少なく済む点です。

デメリットとしてクラウンより強度が劣る点が挙げられます。

また、インレー部分に咬頭が接触する場合には、咬合力によりインレーや周囲の歯質が破損する可能性があります。

インレー修復用の材料として、金属系の材料では金銀パラジウム合金が主流です。また、白色で審美性の高い材料としてレジン・セラミック・ハイブリッドレジンがあります。

これらのうち、保険適用であり最もよく使用されている材料はレジンまたは金銀パラジウム合金になります。

ただし、レジンは天然歯より硬度が低く擦り減りやすいため、咬合圧がかかる臼歯部には不向きになります。

したがって、修復範囲が広い臼歯部のインレー治療にはレジンではなく金銀パラジウム合金が選択される場合があります。

保険適用外治療になりますが、審美性と強度を担保した材料であるセラミックは白色で変色にも強く、天然歯に近い修復が可能です。

アンレーについて

アンレーもインレーと同様に窩洞形成を行い、その部分に補綴物を詰める治療です。

インレーとの違いとして、アンレーは咬頭頂を超えて歯冠の大部分を覆う点が特徴的です。

齲蝕の進行度合いにより窩洞形成後に残された健全歯質が薄くなってしまう場合があり、インレータイプではそのような部分に咬合力がかかると破損してしまうことがあります。

そこで、薄くなった歯質を覆うアンレータイプにすることで健全歯質の破損のリスクを抑えることができます。

メリットは歯質切削量が少なく、インレータイプと比較して強度がより高い点です。

デメリットはインレーと同様にクラウンより強度が劣る点です。 

クラウンについて 

クラウンは歯を全周切削し支台歯と呼ばれる形態に形成したのち、歯冠を被せて修復する治療法です。

クラウンの素材にはレジン、セラミック、ジルコニアなど様々なものがあります。

ただし、C4では歯冠が完全に崩壊しているため、そのままではクラウンによる治療を行うことができません。

そこで、感染根管治療を行ったのちにメタルコアやレジンコアなどの支台築造体を設置し、クラウンを被せる治療になります。

クラウンのメリットは審美性、強度になります。

クラウンはインレー・アンレーとは異なり、歯冠部全体が人工物となるため、強度は最も優れていると言えます。

さらに、セラミックやジルコニアを材料として選択した場合には天然歯のような美しさを保った修復が可能となります。

また、歯冠部が完全に崩壊してしまい、インレー・アンレーによる治療が不可能な場合にも支台築造体を利用したクラウン治療が可能といったメリットもあります。

クラウンのデメリットは支台歯形成のために多くの健全歯質を切削しなければならない点です。

【まとめ】インレー・クラウン・アンレーの違いと治療の選択について 

基本はう蝕の進行度、患歯の部位、患者の歯質を考慮し歯科医師が最適であると考えられる治療法を提案しますが、最終的には歯科医師からの説明を聞いたのちの患者の要望によって決定されます。

近年、歯科ではMIMinimal Intervention)という考え方に則って、必要最小限の侵襲での治療、いわゆる歯をできるだけ削らない治療がスタンダードとなっています。

インレー・アンレー・クラウンの順に歯の切削量が増していきますので、歯冠崩壊までは至っていない齲蝕の場合はインレーまたはアンレーを用いた治療から提案されることが多いと思います。

患者さんが最も悩む部分は使用する材料の選択になると思いますが、上に挙げた修復材料の特徴を参考に選んでみてはいかがでしょうか。

参考文献

公益社団法人日本医療評価機構. 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復 CQ15 臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。. https://minds.jcqhc.or.jp/n/cq/D0003331, (参照 2021-04-14)

公益社団法人日本補綴歯科学会. 補綴歯科診療ガイドライン – 歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン 2008. https://hotetsu.com/s/doc/guideline_2008.pdf, (参照 2021-04-14)


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