セラミック治療は、陶材焼付鋳造冠やジルコニア・オールセラミッククラウン、セラミックインレーなどが挙げられますが、いずれも審美性に優れた治療法です。
審美性の高さから、セラミック矯正という補綴矯正に応用されることもあります。
しかし、治療後痛みが発現するリスクが全くないというわけではありません。
そこで今回はセラミック治療を終えた後、いわゆるセラミック歯に生じる痛みについて、原因から症状、治療法までご説明します。
目次
セラミック治療後に痛みが生じる原因
セラミック治療を受けた後、どうして痛みが生じるのでしょうか。
象牙質知覚過敏症
セラミック治療では、セラミックの厚みを確保するために、2㎜前後の削除量が必要となります。
咬合面などで起こりやすいのですが、エナメル質が菲薄化している場合、形成後に象牙質が露出することがあります。
生活歯の歯冠形成後に象牙質が露出すると、象牙細管の開口部が形成表面に現れます。
一般的な象牙質知覚過敏症と異なり、象牙細管の開口部が口腔内に直接曝露されるわけではありませんが、セラミッククラウンへの温熱刺激が象牙細管の開口部を通して伝わることで、象牙質知覚過敏症を起こします。
また、セラミッククラウンを装着して以降、歯周病により歯肉退縮が生じた結果、歯根が口腔内に露出するようになると、象牙質知覚過敏症を引き起こすことがあります。
歯髄炎
歯髄炎は、歯の歯髄に生じる炎症症状です。
形成時の冷水刺激や擦過刺激などが原因となって生じるほか、クラウン装着後の温熱刺激も歯髄炎の原因となります。
咬合干渉
咬合干渉とは、正常な咬合状態を障害する歯の接触です。
咬合干渉を引き起こすのは、早期接触、咬頭干渉、無接触です。
早期接触とは、閉口時に上下顎の歯の1本や数本が早期に接触する状態です。
咬頭干渉は、下顎を左右にずらす動きをしたときに、下顎の動きが障害される咬合接触です。
無接触とは、他の歯が咬合しているときに、全く咬合していない歯のことです。
これらの咬合干渉が生じると、セラミッククラウンの破損のほか、咬合性外傷を引き起こすことがあります。
不良習癖
疼痛の原因となる不良習癖は、過度な咬合力をもたらす歯ぎしりやクレンチング(食いしばり)、タッピング(歯牙接触癖)が代表的です。
不良習癖によって生じた過度な負荷は、歯周組織の生理的許容範囲を越えて、歯周組織を傷害します。その結果、咬合性外傷を発現し、痛みを誘発します。
二次齲蝕
二次齲蝕は、再発した齲蝕のことです。
生活歯の場合、二次齲蝕を生じると歯髄炎を生じると痛みを感じるようになります。
歯周病
優れた性質を持つセラミック治療ですが、セラミッククラウンを装着した後、適切なプラークコントロールを行っていないと、歯肉炎や歯周炎を引き起こします。
特に、セラミック矯正では歯軸と歯冠軸が一致しなくなることなどにより、歯間部歯肉の歯肉炎が起こりやすい傾向があります。
歯肉炎や歯周炎は、歯肉の腫脹や圧痛などの痛みの原因となります。
根尖性歯周炎
根尖性歯周炎とは、歯髄の感染から根尖孔を通って、歯周組織に生じた細菌感染によって引き起こされる歯周病です。
根尖性歯周炎には急性と慢性がありますが、痛みを生じるのはほとんどの場合、急性根尖性歯周炎です。
急性根尖性歯周炎では、根尖部の歯根膜に炎症症状が発現し、組織圧が高まることで、咬合痛や打診痛、歯の挺出感が生じます。
炎症が強まると、痛みは増し、硬いものを食べると激痛を生じることもあります。
温熱刺激で痛みは増しますが、冷刺激では一時的に痛みは寛解します。
歯肉膿瘍や骨膜下膿瘍
急性根尖性歯周炎が歯槽骨に波及すると、骨膜下に膿瘍を形成します。
これを骨膜下膿瘍といいます。
膿瘍の形成が続き、骨膜下から歯肉の粘膜下にまで拡大すると、歯肉に波動を触れる膿瘍を形成します。
これが歯肉膿瘍です。
いずれの膿瘍も、内圧が高まっているため、腫脹部位に接触すると圧痛を認めます。
歯根破折
歯根破折を生じると、歯根周囲の歯周組織に炎症症状が発現するため、痛みを感じるようになります。
レントゲン写真に写ってこないような歯根の亀裂によっても、同様の症状が現れることがあります。
セラミック治療後に生じる痛みの症状
セラミック治療後に生じる痛みには、いろいろな症状があります。
冷水痛や温熱痛
冷刺激や温刺激によって誘発される痛みです。
冷水痛の原因としては、象牙質知覚過敏症が代表的ですが、軽度の歯髄炎によっても生じます。
温熱痛は、歯髄炎の代表的症状です。
咬合痛
咬合痛は、咬合時に発現する痛みで、打診痛ともよばれます。
根尖性歯周炎や歯根破折などによって発現するほか、咬合性外傷や咬合干渉によっても生じます。
咬合していない状態では咬合痛は生じませんが、歯の挺出感や浮遊感を感じることがあります。
歯肉部圧痛
歯肉の腫脹部位を圧迫することで生じる痛みです。
歯肉炎や歯周炎、歯肉の膿瘍を形成した場合に生じます。
セラミック治療で生じた痛みの治療法
セラミック治療後に痛みを生じた場合の治療法についてご説明します。
経過観察
セラミッククラウンを装着した刺激による痛みの場合、支台歯がセラミッククラウンに慣れるにしたがって、自然に痛みが消失することも多いです。
そのため、装着直後の痛みに関しては、しばらくの間経過観察となります。
咬合調整
咬合干渉や咬合性外傷など、咬合痛を感じる症例では咬合調整を行い、セラミッククラウンの支台歯に過度な咬合圧がかからないようにします。
麻酔抜髄
歯髄炎による痛みの場合は、局所麻酔のもと、セラミッククラウンを除去して、歯髄、すなわち歯の神経を取り除く麻酔抜髄を行います。
根管治療が終わったのち、改めてセラミッククラウンを装着します。
歯周病治療
歯周病による痛みの場合は、抗菌薬による消炎ののち、歯周病治療を行います。
口腔内消炎手術
歯肉膿瘍や骨膜下膿瘍を形成し、かつ波動を触れる場合は、口腔内消炎手術を行い、膿瘍部位を切開し排膿させることで内圧を低減します。
薬物療法
根尖性歯周炎や膿瘍を形成した症例では、抗菌薬の処方も行われます。
第一選択は、ペニシリン系の抗菌薬ですが、ペニシリン系にアレルギーの既往がある場合は、マクロライド系の抗菌薬が選択されます。
基本的には内服薬が選ばれますが、腫脹が顔面に及ぶほど著明な場合や、嚥下痛、開口障害、リンパ節腫大、発熱を伴うような場合は、注射剤の適応となりますし、症状によっては入院となることもあります。
口腔内装置
歯ぎしりやクレンチング(食いしばり)、タッピング(歯牙接触癖)により歯周組織が障害されている場合は、口腔内装置、いわゆるマウスピースを装着します。
口腔内装置によって、セラミッククラウンの支台歯に、過度な咬合力が集中しないようにします。
口腔内装置の厚みは症状によって異なりますが、一般的に多いのは3㎜ほどの厚さです。
セラミック治療の痛みの予防法
セラミック治療後の痛みを予防する方法もあります。
象牙質レジンコーティング
生活歯にセラミック治療を行う場合、露出した象牙質に対しレジンコーティングを行い、象牙質表面に硬化皮膜を形成することで、象牙細管の開口部を封鎖します。
この作用により、セラミッククラウン装着後の痛みを予防します。
根管治療
支台歯に根尖病巣が認められる場合、セラミック治療に先立って根管治療を行うと、根尖性歯周炎のリスクを下げることができます。
また、齲蝕が歯髄に近接するほど拡大している場合は、麻酔抜髄をあらかじめ行っておくと歯髄炎の痛みを予防することができます。
口腔内装置
咬合に関係する不良習癖や咬合干渉などが認められる場合は、口腔内装置を製作し、セラミッククラウンの支台歯に過度な咬合力が集中しないようにする方法もあります。
【まとめ】セラミック治療後にセラミックの歯が痛い(しみる)原因と対処法
今回は、セラミック治療後の痛みについてお話ししました。
セラミック治療は、優れた治療法ですが、痛みが生じるリスクがないわけではありません。
もし、治療後に痛みを感じるようなことがあれば、症状から原因を類推し、適切な治療法を選ぶことが大切です。