歯並びと滑舌の関係性は?矯正すると良くなるの?

歯並びと滑舌の関係性は?矯正すると良くなるの?

口腔機能には、嚥下や咀嚼といった生物として必須の機能のほか、人間の場合には発音という社会生活を送る上で重要な機能も備わっています。

発音とは、言語音を発することです。

明瞭な言語音を発せない状態を、一般的には『滑舌が悪い』『舌足らず』などといいます。このような状態を引き起こす原因はいろいろありますが、歯列不正もその原因のひとつなのでしょうか。そして、歯列不正を解消すれば、『滑舌の悪さ』も解消されるのでしょうか。

今回は、歯列不正と『滑舌の悪さ』の関係性についてお話しします。

目次

構音障害とは

言語音を作り出すためには、声門での発声と、声帯を除く、声帯よりも上部にある全ての音声器官による運動調節が必要です。この運動調節を構音といいます。

構音が正しくできない状態を構音障害といいます。

構音障害は、一般的には『滑舌が悪い』などと表現されますが、その原因は実は舌だけではありません。

構音障害の種類

構音障害は原因によって3つに分類することができます。

機能性構音障害

音声器官には異常が認められないにもかかわらず、舌癖などにより引き起こされる構音障害です。

器質性構音障害

音声を発生させる器官に何らかの異常があり、正しく音声を作り出せない状態です。

今回のテーマである歯列不正だけでなく、口腔領域の悪性腫瘍切除術による形態変形などによっても起こります。

運動障害性構音障害

音声を発生させる運動神経や筋肉がうまく機能しないために、音声が正しく作り出せない状態です。

脳血管障害や脳腫瘍、頭部外傷などによって生じます。

構音障害と口腔機能・構造との関係性

口腔や顎骨の機能・構造と構音機能との関係性については、以下のように分類されます。

  1. 正常な構造+正常な運動
  2. 異常な構造+非順応的な運動
  3. 正常な構造+非順応的な運動
  4. 異常な構造+正常な運動

この中で、正常な発音ができるのは❶だけです。

❷と❸は発音不良、❹は代償的な発音になり、これらが構音障害となります。

つまり、口腔や顎骨の構造が正常であっても、運動機能が正常でなければ正常な発音は生み出されませんし、構造が異常であればなおさらということです。

構音障害の発生しやすい音

構音障害が発生しやすいのは、まず幼児や小児では、s音やz音です。

これは、言語の学習が、上下の口唇を使った有声破裂音から始まり、ついで歯音、歯茎音系の破裂音、歯茎音系の摩擦音と進むからです。

歯列不正に対して矯正治療が行われるようになる小学生や中学生、高校生、そして大学生になると、s音やz音に加えて、t音やr音などに構音障害が認められるようになります。

中でも、s音は最も誤った発音がされる音で、構音障害の90%以上にs音の発音の誤りが認められます。

器質性構音障害の原因となりうる歯列不正

構音障害を引き起こす可能性のある歯列不正の種類は、以下の通りです。

開咬

開咬とは、上下顎の相対する連続した複数の歯が咬合に達することができない状態です。

1歯間だけに認められる離開は、開咬とはいいません。

空隙歯列

空隙歯列は、多数の歯間に空隙が存在する歯列です。

歯が顎骨に対して小さすぎたときや、舌圧により歯が唇側傾斜したときに見られます。

上顎前突症

上顎の歯列弓に対し、下顎の歯列弓が正常よりも遠心に咬合する下顎遠心咬合や、下顎の歯列弓は正常な位置で、上顎の歯列弓が近心に咬合している上顎近心咬合などがあります。

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下顎前突症

上顎の歯列弓に対し、下顎の歯列弓が正常な位置よりも近心に咬合する下顎近心咬合や、下顎の歯列弓の位置は正常であっても、上顎の歯列弓が遠心に咬合している上顎遠心咬合があります。

歯列不正により影響の出やすい子音

歯列不正による構音障害発生の可能性の高い子音は、以下の通りです。

破裂音

破裂音とは、舌尖と口蓋間や口唇間など音声器官を閉鎖した状態から、急激に開放させることで作り出す子音のことです。

日本語での破裂音は、p音、t音、k音、b音、d音、g音です。

摩擦音

摩擦音とは呼気の流れが、声門から口腔内までのいずれかの部位で狭められて作り出される子音です。

日本語での摩擦音は、s音、z音、ts音、dz音です。

歯音、歯茎音

歯音は歯と舌尖間で作り出される子音、歯茎音は上顎前歯部歯肉と舌尖間で作り出される子音です。

破裂音のt音やd音、摩擦音のs音やz音が該当します。

異常構音の種類

異常構音とは、正常構音が障害されたときに、代償性の努力の結果として形成される構音のことです。

声門破裂音

声門破裂音とは、口唇や歯肉、口蓋など本来構音されるべき位置で破裂音や破砕音が形成されずに、声門部に置換して作られる音です。

咳払いのような感じに聞こえます。

咽頭破裂音

k音やg音などの破裂音が、本来の位置である軟口蓋で作られず、舌根部と咽頭後壁の間で作られた音です。

咽頭摩擦音

歯や歯肉、硬口蓋で生じるべき摩擦が咽頭部にまで下がり、咽頭と舌根で作られる摩擦音です。s音がh音に似た感じになります。

口蓋化音

舌尖部と歯、上顎前歯部歯肉との間で作り出されるはずの歯音、歯茎音が正しく作られず、舌背を挙上して口蓋で作られる音です。

t音やd音、s音、z音などの歯音や歯茎音が、k音やg音に似た音になります。

側音化音

構音時に、呼気を口腔の側方から流出させる音で、イ列の音に見られます。

鼻腔構音

イやウ、摩擦子音を作り出す際に口腔を閉鎖して、呼気を鼻腔で音声に変換する構音です。

歯列矯正と構音

歯列矯正を受けると、構音障害を引き起こす器質的な障害が除去され、正常構音の獲得が期待されます。

しかし、器質性構音障害が長期にわたって続いていると、代償性構音のために舌などの音声器官に習癖が身に付いている可能性があります。

このような場合は、正常構音を獲得するために習癖を除去するリハビリテーションが必要となります。

【まとめ】歯並びと滑舌の関係性は?矯正すると良くなるの?

今回は、歯列不正と構音障害、つまり滑舌の悪さとの関係性についてお話ししました。

言語音の伝達系には、構音障害の原因となるものは数多くあり、それらが単一で構音障害を引き起こすのではなく、相互に影響を及ぼし合って構音障害が発生します。

そのひとつが、歯列不正です。

確かに高度の歯列不正があるにも関わらず、一見すると構音障害を認めないような症例は、ないわけではありません。おそらくこのような症例は、歯列不正という構造異常に対応して、代償的な運動を行うことで、正常に近い言語音を獲得していると考えられます。

構音は学習に獲得される機能です。

年齢が高くなるにつれて、構音の誤りは治しにくくなりますので、歯列不正もできるだけ早い段階から解消しておくことが勧められます。


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