歯列矯正には様々な治療方法があり、どれを選択したら良いのか悩まれる方も多いのではないでしょうか。
歯科矯正は様々な改良を加えながら、現在の治療法が確立されてきました。そして、現在もとどまることなく進化を続けているのです。
この記事では、歯科矯正の始まりから現在で最も新しいとされるマウスピース矯正までの歴史を解説します。
この記事を読むことで、歯科矯正の歴史を理解することができ、下記のような疑問や悩みを解決します。
- 昔の歯列矯正のやり方
- 歯列矯正は保険適応になるの?
- 表側矯正と裏側矯正ができた理由
- 最新の歯列矯正は?
目次
歯科矯正のはじまり
歯列矯正のはじまりは、紀元前のローマであったといわれています。
乳歯が抜け、その後続として生えてきた永久歯の位置がずれていると、「指で押しなさい。そうすれば、正しい位置に移動するから」と説いたそうです。
この頃から、歯を移動させること、すなわち歯の矯正が出来ることが認識されていたといえます。
西暦1700年頃より、フランスのPierre Fauchardによって最初の矯正装置が発表されました。これによって、本格的な歯列矯正が始まったといわれます。
当時の矯正装置は、幅広の金属バンドを歯冠に巻き付けセメントで固定し、その金属にブラケット(ワイヤーを通す四角い金属装置)をろう着したものでした。
19世紀末から、歯科矯正はアメリカで飛躍的な発展を遂げます。
E.H.Angleは、上下顎の咬み合わせを基準とした正常咬合の評価基準及び、不正咬合の分類法を確立させました。そして、その分類法を用いて、様々な矯正治療装置を開発したのです。
また、Angleは歯科矯正学の教育機関を設立しました。それによって、多くの人材を輩出し、歯科矯正学を世に広めていったのです。Angleの開発した装置は強い矯正力で歯を動かすもので、歯および周辺組織への負担はあるものの、歯の複雑な移動や精密な動きに対応できるとされていました。
Angleの開発した歯列矯正の方法は「エッジワイズ法」または「Angle法」と呼ばれ、その矯正力の強さから「器械派」の装置と呼ばれていました。また、Angleは「頬や口唇、舌などの口腔周囲の筋・軟組織の力のバランスが、歯列の形や歯の位置を決める重要な役割を担っている」とする「平衡理論」を唱えました。
この考えのもとに、弱い力で歯を少しだけ移動させることによって、生理的に無理のないように歯を正しい位置に誘導させようという「自然派」という考え方が出てきました。ただし、この方法では歯の複雑な移動や微調整などは行うことは出来ませんでした。
そこで、この「器械派」と「自然派」の考えを融合させた形で、オーストリアのBeggによって「ベッグ法」という歯列矯正の方法が考案されました。この「エッジワイズ法(Angle法)」と「ベッグ法」の2つの方法が、その後の歯科矯正における礎となっていくのです。
様々な装置が開発されていきましたが、歯に矯正力を伝えるには、先述した幅広の金属製のバンドを歯に巻き付けて固定する必要がありました。
当時、金属は高価でしたので、歯科矯正はごく一部の富裕層のための治療でした。これを変えたのは、日本人です。
1970年に、日本の三浦不二夫がブラケットを歯面に直接接着する「ダイレクトボンディングシステム」を世界に向けて発表したのです。これによって、歯列矯正の際に必要とされる金属の量は、格段に少なく済むようになりました。歯科矯正は富裕層のみの治療ではなくなり、社会的に広まることとなったのです。
日本の保険制度について
日本における歯科矯正の保険適応についてみていきます。日本における国民皆保険制度が制定されたのは1958年になります。
ダイレクトボンディングシステムがまだ普及しておらず、まだまだ歯列矯正がとても高価であった時代です。そのころ、歯列矯正を行っている歯科医院は少数しかおらず、「歯列矯正は見た目の歯並びを治す美容治療だ」と、歯科医師の中ですら思われていた時代でした。
歯科医師自体も、保険導入に積極的ではなかったため、歯列矯正は保険適応に含まれなかったのです。その後、口蓋裂の治療においては「健常な生活を送るためには矯正治療が不可欠である」との判断がなされ、1982年に口唇口蓋裂の矯正治療が保険適応となりました。その後、顎変形症の矯正治療も保険導入されました。
日本矯正歯科学会によると、
矯正歯科治療が保険診療の適応になる場合とは
- 「厚生労働大臣が定める疾患」に起因した咬合異常に対する矯正歯科治療 (例:唇顎口蓋裂)
- 前歯3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)に対する矯正歯科治療
- 顎変形症(顎離断などの手術を必要とするものに限る)の手術前・手術後の矯正歯科治療
とされています。
しかし、一般の歯列矯正治療は、いまだに保険適応されていないのが現状です。
より審美的な歯列矯正を求めて
1980年代になると、歯列矯正中の審美的な改善を求める声が多くなってきます。それを受けて、プラスチック製やセラミック製のブラケットが開発されました。
「見えにくい矯正」のはじまりです。
そして、同じく1980年代に「見えにくい矯正から、見えない矯正へ」ということで、裏側矯正が開始されました。これは今まで歯の表面に付けていた金属製のブラケットを裏側(舌側)につけるというもので、周囲から歯列矯正をしていることがほぼ見えなくなるのです。
しかし、歯の表面と比べて舌側はとても狭いので、既存のブラケットではなく舌側専用のブラケットや、カスタムメイドされたブラケットなどを用いる必要があります。そのため、どうしても治療費は表側のワイヤー矯正と比べて2倍程度になってしまいます。
また、装置を口腔内で固定する必要があることには変わりがないので、舌側ならではの違和感や清掃性の困難さなどは、どうしても表面の矯正よりも強くなりがちです。そのような点から、患者さんにとって敷居の高い治療法というイメージが根強くあるようです。
1997年、アメリカのアライン・テクノロジー社で画期的な矯正装置が開発されました。マウスピース型矯正装置のインビザラインです。
1999年、アメリカでインビザラインを用いた治療が始まりました。もっとも、これまでにもマウスピースを用いた歯列矯正は行われていました。しかし、頻繁に歯型を採り、その都度マウスピースを作成する必要があり、治療期間も長いなど効率が悪いものでした。
インビザライン・システムは、3Dスキャンシステムによって歯型を採取し、コンピュータープログラムを用いて治療計画を立案します。それをもとに、治療開始から終了までのマウスピースを一度に作成し、一定期間ごとに新しいマウスピースに交換しながら装着していくことで徐々に歯を動かし、歯並びを治す治療です。
自分で取り外し可能で、ワイヤーなどの金属装置は一切使用しません。マウスピースも透明なため、周囲に矯正治療をしていることを気付かせることもありません。
しかし、コンピューターを用いてとはいっても、全自動の治療というわけではありません。それぞれの患者さんの状態を診断し、どう歯を動かしていくのかを決めるのはドクターです。そのため、矯正医にしっかりとした知識と経験が必要なことには変わりありません。
また、治療開始当初は治療可能な症例も限られていたといいます。それを、装置を提供したドクターに症例や問題点を指摘してもらうことによって、幾度となくブラッシュアップを行い、今では開発当初とは比べ物にならないくらい、その治療精度が向上しています。
2年に1度は世界各国でインビザラインサミットを開催することで、それまでの知識を共有し、問題点を指摘し合うことによって、とどまることなく進化を続けているのです。
インビザライン矯正のメリットとデメリットは?成人と子供のケースに分けて解説
また、最近ではアライン・テクノロジー社以外でもマウスピース矯正を取り扱う会社が増えてきているといいます。
舌側矯正も、コンピューターの導入や装置の小型化や形状の見直しなどによって、より違和感の少ない歯列矯正へと進化していっています。
新しい矯正装置の台頭によって、表面のワイヤー矯正もまた、様々な工夫をこらして新しくなっていくことと思います。
【まとめ】歯列矯正の歴史から未来の矯正治療を予測
歯列矯正は、始めは指で押すことから始まりました。
そこから歯にバンドを巻いてワイヤーやネジの持続的・断続的・間歇的な力を使い分けながら、歯を理想的な位置に動かすことを可能にしました。
矯正装置は改良され、より小型、より目立ちにくく、そして、歯及び歯周組織に負担をかけずに歯列を整えていく方法を今でも模索しています。歯科矯正治療は日々進歩し続けています。歯列矯正の歴史は、今この瞬間も発展し続けているのです。
この記事では、下記のようなことが分かったのではないでしょうか。
- 歯列矯正の始まりは、紀元前のローマであり、その後アメリカにおいて飛躍的に発展した
- 矯正治療において、保険診療の適応となるのは「口唇口蓋裂」や「顎変形症」などであり、一般の歯列矯正治療は保険診療には含まれない
- 審美的な歯列矯正を求める声に応じて、金属色でないブラケットや裏側矯正が開発された
- マウスピース矯正や舌側矯正など、現在も技術が進歩し続けている
歯列矯正は、今でも飛躍的に進歩している歯科治療です。
歯列矯正を考えている方は、担当矯正医としっかり診察・相談を行い、自分の考えを伝えることが大切かと思います。時には、セカンドオピニオンを求めて、別の矯正歯科医院で診察・相談を行うことも大切になってきます。
ご自身がしっかりと納得された上で、治療を受けられることをおすすめいたします。