銀歯のリスクと歯科医師がセラミックを勧める理由

銀歯のリスクと歯科医師がセラミックを勧める理由

歯が欠けてしまった際、日本の保険診療で広く選択されているのが、いわゆる「銀歯」と呼ばれる全部鋳造冠による治療です。安価で丈夫なため広く普及していますが「見た目が悪い」という審美性の問題以外にも、銀歯には様々なリスクが潜んでいることをご存知でしょうか。
歯科医師が自費診療となるセラミッククラウンを勧めるのには、費用を上回る明確な理由があります。

この記事では、銀歯(全部鋳造冠)の持つリスクと、歯科医師が推奨するセラミッククラウンの優位性について詳しく解説します。
この記事を読むことで、銀歯とセラミッククラウンの特性や、それぞれの治療法のメリット・デメリットを理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。

こんな疑問が解決

  • 銀歯の見た目以外にアレルギーや健康面でのデメリットはあるの?
  • 銀歯が原因で「ガルバニー電流」という現象が起こるのは本当?
  • セラミッククラウンと銀歯では、虫歯の原因となるプラーク(歯垢)の付きやすさがどれくらい違うの?
  • 自費診療のセラミックを選ぶことで、費用以外の面で得られる長期的なメリットは何?
  • セラミッククラウンの種類(メタルボンド、オールセラミックなど)について知りたい。

銀歯の見た目だけではないデメリットや、セラミックが優れている理由を多角的に比較することで、ご自身の歯の補綴物(詰め物・被せ物)を選ぶ際の重要な判断材料を提供します。

全部鋳造冠とは

全部鋳造冠とは

全部鋳造冠は、全体を金属で製作される補綴物です。全部鋳造冠には金合金やチタニウムで作られるタイプもありますが、金銀パラジウム合金で作られるタイプが一般的によく用いられています。
金銀パラジウム合金は金を含む合金ですが、全体の色調が銀色なのでいわゆる銀歯として知られています。保険診療の適用を受けており、上下顎の小臼歯と大臼歯の補綴治療に広く用いられています。なお、前歯部の補綴治療では全部鋳造冠の唇側面にコンポジットレジンを組み合わせたレジン前装冠が用いられています。

セラミッククラウンとは

現在、よく用いられているセラミッククラウンは、陶材焼付鋳造冠とオールセラミッククラウンの2種類です。

陶材焼付鋳造冠

陶材焼付鋳造冠

陶材焼付鋳造冠はセラミックの審美性と金属の強度を合体させた全部被覆冠で、メタルボンド、セラモメタルとも呼ばれます。セラミックの審美性や硬度は高いのですが、脆く割れやすいという性質を持っています。
陶材焼付鋳造冠は、この弱点を金属と組み合わせることで補強しています。

オールセラミッククラウン

オールセラミッククラウン

オールセラミッククラウンとは、支台歯の全周をセラミック材料のみで被覆した補綴物です。内面のフレームをジルコニアで製作し、その対面を専用のセラミックで被覆するジルコニア・オールセラミッククラウンが一般的です。
ジルコニアは非常に物理的強度の高いセラミック材料です。ジルコニア・オールセラミッククラウンでは、ジルコニアを内面に適用することでセラミッククラウンの強度を確保しています。
以前はジルコニアの物理的強度の高さから加工が難しかったのですが、近年のCAD/CAM技術の向上によって普及してきました。また、ジルコニアは光透過性を有していますので、前述した陶材焼付鋳造冠と比較すると透明感や自然感を再現しやすく、より審美的に修復できます。そして、金属材料を一切使わないので、金属アレルギーがあっても補綴治療が可能となります。

オールセラミッククラウンのメリットとデメリットとは?他の材質との違いについても解説

全部鋳造冠とセラミッククラウンの比較

全部鋳造冠とセラミッククラウンを比較してみましょう。

全部鋳造冠

全部鋳造冠の特徴を紹介します。

審美性

全部鋳造冠は金銀パラジウム合金で作られています。金銀パラジウム合金は銀色を呈しており、これが銀歯と呼ばれる所以なのですが、天然歯とは全く異なる色調なので審美性は全く期待できません。

形態再現性

全部鋳造冠はロストワックス法によってひとつひとつ製作されています。ロストワックス法による精密鋳造法は、精度の高い形態再現性が特徴です。

アレルギー

全部鋳造冠は金銀パラジウム合金で作られています。金銀パラジウム合金に金属アレルギーがあると、全部鋳造冠にアレルギー反応を示す可能性があります。また、手のひらや足のうらに水ぶくれや膿疱がくり返しできる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の原因となることもあります。

ガルバニー電流

ガルバニー電流は異種金属の接触により自由電子が金属間を移動することで生じる電流のことです。アルミホイルを噛んだときに不快な感じがした経験があるかもしれませんが、この原因がガルバニー電流です。
現在、保険診療の治療で全部鋳造冠やインレーなどに使われる歯科用金属のほとんどは金銀パラジウム合金ですが、アマルガムなどの他の金属が使われていることもあります。こうして異種金属が接触するとガルバニー電流が発生します。

プラークコントロール

全部鋳造冠はブラッシング時に微細な傷が表面につきます。目に見えないほどの微細な傷であっても、プラークが付着しやすい温床となります。全部鋳造冠はプラークコントロールの点では、あまり優れた補綴物とは言い難いです。

費用

全部鋳造冠は保険診療の適応を受けています。自己負担割合が3割の場合、大臼歯でも窓口での負担金額は装着料やセメント代などを含めても5,000円弱と費用は低く抑えられています。

歯肉着色

全部鋳造冠では歯冠修復用金属の溶解や支台形成時の金属切削片の迷入などにより、歯肉着色をきたす可能性があります。中でもAg元素の影響が大きく、Ag元素が溶解し金属イオンとなることで、S元素と結合し黒化すると考えられています。

耐久性

全部鋳造冠の耐久性は高く、咬合圧の強い大臼歯部に適用しても十分耐えられます。

セラミッククラウン

セラミッククラウンの特徴を紹介します。

審美性

セラミッククラウンは天然歯の色調に非常に近似しているうえ、光沢感や透明感も天然歯とほぼ同一です。セラミッククラウンは、天然歯と見分けがつかないほどの審美性を有しています。

形態再現性

セラミッククラウンは作業模型上に直接築盛し、焼成して形態を再現します。また、近年では光学印象により支台歯の情報を得て、コンピューター上で設計するCAD/CAMも行われています。どちらの方法も形態再現性が高い方法です。

アレルギー

セラミックは生体親和性の高い材料なので、アレルギー反応を示すことはありません。ジルコニア・オールセラミッククラウンは全てセラミックで作られていますので、アレルギー反応を示すことはありません。
陶材焼付鋳造冠では、内面のフレームに使用している歯科用金属に金属アレルギーがあれば、アレルギー反応を示す可能性があります。

ガルバニー電流

ガルバニー電流は金属同士の接触で生じる症状です。セラミックの電気特性は電気絶縁性ですので、自由電子の移動により電流が発生することはありません。セラミッククラウンの場合は、ジルコニア・オールセラミッククラウン、陶材焼付鋳造冠ともに咬合面はセラミックで被覆されていますので、ガルバニー電流が発生することはありません。

プラークコントロール

セラミッククラウンの硬度は高いため、ブラッシングをしても傷つくことがありません。表面の滑沢性が持続的に維持されますのでプラークが付着しにくく、プラークコントロールは大変良好です。

費用

セラミッククラウンは保険診療の適応を受けていません。
費用はそれぞれの歯科医院が独自に設定しているので、詳しい金額は各歯科医院で相談していただく必要がありますが、陶材焼付鋳造冠で8万円ほど、ジルコニア・オールセラミッククラウンで10万円ほどです。

歯肉着色

陶材焼付鋳造冠では、内面のフレームを構成している金属からの金属の溶解などが生じれば、歯肉着色を起こすリスクがあります。一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンでは、金属の溶解は起こりませんので歯肉着色のリスクはありません。

耐久性

セラミッククラウンに用いられているセラミックは、硬度が高い材料として知られています。咬合圧にも十分耐えられます。その反面、瞬間的に強い力を受けると割れる可能性もありますが、咬合調整を適切に行えばそのリスクは低減できます。

【まとめ】銀歯のリスクと歯科医師がセラミックを勧める理由

保険診療で広く用いられる銀歯(全部鋳造冠)のリスクと、セラミッククラウンの優位性について詳しく解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。

この記事のおさらい

  • 銀歯(全部鋳造冠)は保険適用で費用が抑えられるが、金属アレルギーや歯肉着色、プラークが付きやすいこと(プラークコントロールの悪さ)など、健康面・衛生面でのリスクがある
  • セラミッククラウンは、金属フレームを使用する「陶材焼付鋳造冠(メタルボンド)」と、金属を一切使用しない「オールセラミッククラウン」の2種類が主に使用されている
  • セラミッククラウンは、審美性、形態再現性、アレルギーリスクの低さ、ガルバニー電流の非発生、プラークの付着しにくさなど、費用面を除き、全てにおいて銀歯より優位性がある
  • 特にオールセラミッククラウン(ジルコニア・オールセラミッククラウンなど)は金属を一切使用しないため、金属アレルギーや歯肉着色のリスクが全くなく、最も生体親和性が高い

銀歯は費用面では優位性がありますが、審美性はもちろんのこと、アレルギー、ガルバニー電流、プラークコントロール、歯肉着色など、総合的に見ると多くのデメリットを内包しています。
一方、セラミッククラウンは天然歯と見分けがつかないほどの高い審美性に加え、生体親和性の高さやプラークが付着しにくいという点で、口腔内の健康維持においても銀歯を大きく上回ります。
今回の比較を通して、補綴物を選ぶ際は単なる費用だけでなく、長期的な口腔内の健康、アレルギーのリスク、そして審美性を含めた総合的な優位性を考慮することの重要性がご理解いただけたかと思います。
費用を理由に銀歯を選んだ場合でも、将来的に他のトラブルを引き起こし、結果として治療費がかさむ可能性もゼロではありません。ご自身の健康と美しい口元を守るためにも、治療法の選択に迷った際は、今回ご紹介した銀歯とセラミッククラウンのメリット・デメリットを参考に、歯科医師とよく相談することをおすすめします。


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