歯は喪失しても、身体の適応や補償機能によって、ある程度はその機能を代償できるのですが、放置すると、実はさまざまな症状の原因となることが明らかになっています。
この記事では、歯を喪失する原因やそれにともなって生じる症状、そして治療法などについてご説明します。
目次
歯の喪失原因
歯の喪失に至る原因は、齲蝕症と歯周病が大半を占めますが、そのほかに外傷や腫瘍などもあります。
齲蝕症
齲蝕症とは、齲蝕原性菌によって産生された酸による歯の脱灰を原因とした歯の実質欠損です。
脱灰が進むにつれ歯の欠損範囲は拡大します。
齲蝕症に対しては修復治療が行われますが、歯根や根分岐部にまで至った重度の齲蝕症は、抜歯の対象です。
歯周病
歯周病は、歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨から構成される歯周組織に起こる疾患です。
歯周病は、歯肉にのみ炎症性病変が発症する歯肉炎と、歯肉以外の歯周組織に炎症が波及した歯周炎に分けられます。
歯周炎は、歯周組織の破壊の程度により軽度歯周炎、中等度歯周炎、重度歯周炎に分けられます。
重度歯周炎は、歯根長の1/2以上に及ぶ骨吸収、6㎜以上に及ぶ歯周ポケットの形成、2〜3度の根分岐部病変などを生じた歯周炎で、著しい歯の動揺を認めます。
重度歯周炎に至れば、原則的に抜歯術の対象となります。
智歯周囲炎
智歯周囲炎の原因となった第三大臼歯は、消炎後に抜歯します。
外傷
外傷により破折した歯の破折線が歯根に至った場合、保存不可能なので抜歯の対象となります。また、骨折線の上にある歯は、感染の原因となりますので抜歯します。
腫瘍
顎骨中心性癌などの悪性腫瘍の切除範囲に含まれた歯は、顎骨切除にともない骨と一塊として摘出されます。
良性腫瘍においても、例えばエナメル上皮腫のように顎骨切除法が適応される場合、切除範囲に含まれる歯は骨とともに摘出されます。
嚢胞
第三大臼歯に生じた含歯性嚢胞の治療では、第三大臼歯は嚢胞摘出時に同時に抜歯されます。
根尖部に生じた歯根嚢胞の大きさによっては、歯根端切除術の適応とならず、抜歯となることもあります。
歯の喪失による症状
歯を喪失したことで生じる症状は、発症時期により一次性障害、二次性障害、そして三次性障害の3段階に分類されます。
一次性障害
歯の喪失直後に生じる症状を一次性障害と言い、咀嚼障害、構音障害、審美障害などが含まれます。
咀嚼障害
歯を欠損すると咀嚼障害が発生します。
特に、第一大臼歯の欠損では、咀嚼効率が50%以下に低下するという報告もあります。
構音障害
舌や口腔周囲軟組織によってある程度は代償されますが、歯を欠損すると発語明瞭度が低下することが知られています。
上顎前歯部欠損で80〜90%に、下顎前歯部欠損では約85%にまで低下します。
多数歯欠損症例では、上顎の場合80%ほどに、下顎の場合95%ほどに低下します。
上顎欠損症例ではs音やh音、下顎欠損症例ではn音に影響が出やすい傾向が見られます。
審美障害
主に前歯部の歯の喪失よって生じますが、欠損歯は外観不良の原因となります。
二次性障害
一次性障害を長期にわたり放置することで歯や咬合、歯周組織などに生じる症状を二次性障害といいます。
歯の移動
欠損部位の隣接残存歯の近心傾斜や遠心傾斜、対合歯の挺出など残存歯の移動を生じます。
早期接触や咬合位の変化
歯の移動は咬合位をさせ、残存歯の早期接触や咬頭干渉を引き起こします。
隣接接触点の喪失
欠損部位を中心とした歯の移動により、歯にとっての理想的な隣接接触点が喪失します。
隣接接触点の喪失により、食片圧入やブラッシングの困難化が生じます。
これを原因として、隣接面齲蝕や歯周病が発症します。
三次性障害
二次性障害の早期接触や咬合位の変化などの咬合異常の発症後に、非機能的運動が加わって生じる障害です。
咀嚼筋や顎関節の顎機能障害に加え、精神的な影響を認めることがあります。
欠損歯の治療法
現在行われている欠損歯の治療法は、ブリッジ・有床義歯・インプラントの3種類です。
ブリッジ
ブリッジとは、欠損歯に隣接する残存歯を支台歯とした支台装置を作製し、その支台装置と欠損歯に装着するポンティックとよばれる人工歯を連結させた補綴装置で、冠橋義歯と訳されます。
ブリッジの適用条件としては、支台歯の数が適する分だけ残存していること、支台歯が咬合負担に耐えられる状態にあること、連続して2本までの欠損症例であることなどが挙げられます。
支台歯に接着する固定式であり、義歯床もないので、有床義歯と比較してコンパクトで違和感が少ない利点がある反面、ポンティック部分のブラッシングが困難という難点があります。
有床義歯
有床義歯は、義歯床と人工歯、そして部分床義歯であれば維持装置から構成される補綴装置です。
ブリッジと異なり、有床義歯は対象となる欠損歯数に制限はありません。
一方、有床義歯は義歯床があるため、ブリッジよりも大きいため違和感も大きくなります。
可撤式なので、食事のたびに外して洗う、就寝前にも外して乾燥しないように保管するなどの手間がかかります。
インプラント
身体の喪失した機能を人工物で回復させる治療法をインプラントと言いますが、歯科の場合は欠損歯を対象とした治療を指します。
上部構造としての義歯部分を支え、臨床的に機能するインプラント治療法の開発は紀元前から行われてきました。
現在、主流となっているインプラントは、チタンやチタニウム合金で作られたフィクスチャーという人工歯根と上部構造という人工歯部分、そして両者をつなぐアパットメントから構成されています。
このインプラントは、50年以上前にスウェーデンのブローネマルクが発見した骨とチタンが結合するオッセオインテグレーションの概念に基づいて開発されたもので、20世紀の後半から世界的にも広く普及しています。
歯の移植
歯の移植とは、歯槽窩から脱失した歯を異なる欠損部位に植立させることです。
歯の移植の適応となるのは、第三大臼歯の大臼歯、もしくは小臼歯部への移植、矯正治療で便宜抜歯の適応となった第一小臼歯の外傷などにより喪失した前歯部への移植などです。
保険診療と欠損歯治療
欠損歯の治療法は、保険診療の対象となるものと、対象外の自費診療になるものに分けられます。
保険診療で受けられる欠損歯治療
ブリッジや有床義歯は保険診療の対象となります。
ブリッジ
保険診療ブリッジと言ってもいろいろなタイプがあります。
従来型の金属支台装置を使ったブリッジのほか、接着ブリッジや高強度硬質レジンとグラスファイバーで製作した高強度硬質レジンブリッジもあります。
接着ブリッジは、一歯欠損症例で、支台歯のうち少なくとも1歯が生活歯で、切削範囲をエナメル質に止めたタイプのブリッジです。
高強度硬質レジンブリッジは、上下顎両側の全ての第二大臼歯が残存し、左右の咬合支持が確保されている症例で、第二小臼歯の欠損症例が対象となります。
有床義歯
有床義歯は、レジン床義歯や熱可塑性樹脂有床義歯に保険診療の適応があります。
小児の有床義歯は、原則的に対象外ですが、先天性疾患により後継永久歯がない場合や、外相や腫瘍により歯を喪失した場合は、保険診療の対象となります。
インプラント
インプラント治療の中にも、保険診療の対象となる症例があります。
保険診療ではインプラント治療は、広範囲顎骨支持型補綴と呼ばれています。
保険診療の対象となるのは、腫瘍や顎骨骨髄炎、外傷などにより連続して1/3顎以上に及ぶ広範囲な顎骨や歯槽骨の欠損を生じたことによる欠損症例や、外胚葉異形成症や唇顎口蓋裂などの先天性疾患による1/3顎以上の連続した多数歯欠損症例です。
どの医療機関でも受けられるというわけでもなく、施設基準に合致した保険医療機関でなければ受けられません。具体的には、病院であること、当直体制があること、口腔外科の常勤歯科医師が2名以上配置されていることなどです。
歯の移植
保存不可能な歯の抜歯し、その直後にドナーとなる歯の抜歯も行い、同時に抜歯された歯の抜歯窩にドナーを移植する歯の移植は、保険診療の対象となっています。
保険診療の対象外の欠損歯治療
インプラント治療は、前述した一部の症例を除き、原則的に保険診療の適応外です。
一般的には、1本30万円ほどが相場のようです。
また、ブリッジや義歯にも保険診療の対象外の治療法があります。
ブリッジの場合は、セラミッククラウンを使ったブリッジです。
セラミッククラウンの相場は、陶材焼付鋳造冠、いわゆるメタルボンドで1本あたり7〜10万円、ジルコニアオールセラミッククラウンで1本あたり10〜 15万円ほどです。
ブリッジなら、それらに支台装置とポンティックの数をかけた金額になります。
有床義歯の場合は、金属床義歯、維持装置に磁性アタッチメントを使った根面維持方式義歯、維持装置にクラウンを用いたテレスコープ義歯、ポリエステル樹脂で維持装置を作成したノンクラスプデンチャーなどは保険診療の対象外です。
歯の移植に関しては、抜歯と同時に行わない移植は、保険診療の対象外となります。
自由診療の治療費は、それぞれの歯科医院で独自に決められていますので、詳しい費用は主治医とご相談ください。
【まとめ】歯がない場合の治療法と原因・症状
今回は、欠損歯の原因や症状、治療法などについてご説明しました。
欠損歯は放置すると、
- 咀嚼障害
- 構音障害
- 審美障害
などの一次性障害を引き起こすだけでなく、放置することで二次性障害や三次性障害などにもつながっていきます。
欠損歯の治療法は、ブリッジや有床義歯、インプラントなどがあります。
保険診療の適応の有無もありますので、適切な方法を選んで治療することが大切です。