ガミースマイルは、病的な問題はありませんが、審美的に問題とされ、特に笑ったときの歯肉露出を気にするばかりに社交性が低下するなど、心理的な障害の原因にもなります。
ガミースマイルの治療法はさまざまありますが、そのひとつに歯列矯正があります。
どのようなガミースマイルに対し、歯列矯正が適応されるのでしょうか。
今回は、歯列矯正によるガミースマイル治療についてご説明します。
目次
ガミースマイルとは
ガミースマイルは、どのような原因で起こるのでしょうか。
ガミースマイルの原因
ガミースマイルの原因は、歯肉増殖症、受動的な前歯部の萌出異常、上顎骨の歯槽突起の挺出、上顎骨の垂直方向への過成長、顎変形症、上口唇の幅の異常、上口唇の過剰な可動量などがあります。
それらが単独でガミースマイルを起こすのではなく、複合して生じさせると考えられています。
ガミースマイルの治療はその原因によって選択されますので、治療法を選択する際には、まず原因を明らかにしなければなりません。
ガミースマイルの診断基準
ガミースマイルの診断基準として利用されているのが、上口唇のリップラインです。
リップラインは、高位・中位・低位の3段階で評価されます。
ガミースマイルと診断されるのが、高位のリップラインで、笑ったときに前歯の辺縁から歯肉が3㎜以上露出した場合が該当します。
なお、中位は前歯辺縁からの歯肉の露出が3㎜以内、低位は上顎前歯が一部しか見えない場合です。
歯列矯正を用いたガミースマイル治療の適応症
歯列矯正でのガミースマイル治療の適応となるのは、上顎骨や歯の異常に起因するガミースマイルです。
すなわち、上顎前歯部の萌出異常、上顎骨歯槽突起の挺出などによるガミースマイルが歯列矯正の適応となります。
歯列矯正では、上顎前歯部の圧下や遠心移動などにより、ガミースマイルを改善します。
歯列矯正とは
歯列矯正とは、歯列不正や顎顔面の異常関係を正しい機能、形態に改善する治療です。
現在、歯列矯正はマルチブラケット法、可撤式アライナー法のふたつが主に行われています。
マルチブラケット法
歯面に接着したブラケットと弾性ワイヤーの働きで、歯を移動させる歯列矯正です。
歴史も長く、ほぼ全ての歯列不正に対応できるのが利点ですが、装置が目立つという審美的な点や、固定式なので食事やブラッシングが困難であるという点が弱点です。
マルチブラケット法単独で前歯部の圧下は困難なので、顎外矯正装置を併用したり、外科矯正手術を組み合わせたりします。
可撤式アライナー法
可撤式アライナーとはマウスピースのことで、この矯正治療法ではマウスピースを用いて歯を移動させます。
可撤式アライナー法では、薄く目立ちにくいマウスピースを使いますので、矯正治療を受けていても目立たないのが利点です。また可撤式なので、食事やブラッシング時は外せる点も利点です。
一方、ご自身で管理しなければならないこと、マルチブラケット法ほどに適応範囲が広くないことが弱点です。特に、歯の挺出や圧下などの垂直方向への歯の移動は大変困難です。
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歯列矯正で上顎前歯部を圧下させる方法
歯列矯正でガミースマイルを治療する場合、上顎前歯部の圧下が必要ですが、通常の歯列矯正だけでは困難です。
そこで、歯科矯正用アンカースクリューを使う、もしくは外科矯正手術を併用する必要があります。
歯科矯正用アンカースクリューによる歯列矯正
歯科矯正用アンカースクリューとは、インプラントアンカーともよばれるチタニウム合金で作られた直径1.5〜2.0㎜、長さ5〜10㎜ほどの小さなネジのような治療器械です。
アンカー(anchor)とは、日本語では『支え』や『よりどころ』を意味する言葉です。
アンカースクリューは歯槽骨に埋入され、これを固定源として歯を移動させます。
そして、歯の移動が完了すれば、不要となり撤去されます。
外科矯正手術
ガミースマイルに効果のある外科矯正手術は、Le Fort Ⅰ型骨切り術(Le Fort Ⅰ osteotomy)、そして上顎前歯部部分骨切り術(anterior maxillary osteotomy)です。
Le Fort Ⅰ型骨切り術は、鼻腔底の上方で上顎骨を水平離断し、上顎骨を一塊として前方または、上下方向に移動させる手術です。
上顎前歯部部分骨切り術は、第一小臼歯や第二小臼歯を1歯分とともに削除して、セットバックする手術です。
どちらも侵襲が高く、入院・全身麻酔が必要な手術です。
アンカースクリューによるガミースマイル治療のメリット
アンカースクリューを埋入すると、以下のようなメリットが得られます。
強固な固定源が得られる
歯を移動させるために力を加えると、作用と反作用が生じます。
そのため、歯列矯正では歯根の表面積の大きい歯、すなわち大臼歯を固定源として前歯や小臼歯を移動させてきました。
ところが、いかに大臼歯とはいえども移動しないわけではなく、固定力には限りがあります。
一方、アンカースクリューは、歯槽骨に直接埋入しているため、移動することがありません。そのため、歯の移動に際してより強固な固定源として利用できます。
歯の移動方向を選べる
歯列矯正では、固定源を設定して、歯を移動させるわけですが、固定源を大臼歯に求めた場合、移動方向は水平方向が主となり、垂直方向への移動は困難です。
アンカースクリューは、任意の位置に埋入可能なので、歯の移動方向の選択肢が広がります。
外科矯正手術をせずとも、アンカースクリューを使えば前歯部の圧下も可能です。
歯の移動量を増やせる
従来の歯列矯正では、大臼歯を移動させるためには、顎外矯正装置を利用しなければなりませんでした。
しかし、アンカースクリューを用いれば、顎外矯正装置を用いずとも、大臼歯を遠心方向などへ移動させることができます。
大臼歯を遠心移動させれば、残りの歯の移動量も増やせますし、非抜歯での歯列矯正の可能性も高まります。
治療期間の短縮化
大臼歯を固定源とした場合、歯に数本まとめて移動できるほどの力を加えると、固定源となる大臼歯が動いてしまうリスクがあり、あまり多くの歯をまとめて移動させることはできません。
アンカースクリューを固定源とすると、複数の歯を同時に移動させられるので、治療期間を短縮化できます。
外科矯正手術を回避できる
上顎前歯部の圧下は、従来は外科矯正手術による治療が避けられませんでした。
外科矯正手術は、非常に侵襲性の高い処置で、入院下での全身麻酔を使った手術になります。
アンカースクリューを使うことで、外科矯正手術に頼らず前歯部の圧下が可能になりますから、外科矯正手術を回避できる可能性があります。
アンカースクリューによるガミースマイル治療のデメリット
利点の多いアンカースクリューによるガミースマイル治療ですが、デメリットがないわけではありません
アンカースクリューの埋入手術が必要
アンカースクリューは非常に小さいため、場合によっては麻酔がほとんどいらない程度の侵襲ですが、植立手術や摘出術が欠かせません。
そのため、術後の手術侵襲による腫脹や疼痛などの炎症反応の発現リスクがあります。
清掃性
歯肉にアンカースクリューとアンカースクリューから伸びるエラスティックやパワーチェインなどの部分の清掃性が低下してしまいます。
脱落や破折のリスク
周囲骨の状態によっては、埋入したアンカースクリューが動揺・脱落することがあります。また、破折するリスクもないわけではありません。
アンカースクリューの埋入術の術式
アンカースクリューの埋入術は、侵襲も少ない処置です。
1本あたり10分前後で終了します。
①麻酔
アンカースクリューの埋入術は、アンカースクリュー自体が非常にコンパクトなこともあり、ほとんど痛みが生じません。
浸潤麻酔が必要なことはほとんどなく、表面麻酔だけでも十分な麻酔効果を得ることができます。
②植立
アンカースクリューの植立時は、口腔粘膜の切開は必要ありません。
粘膜の直上からアンカースクリューを専用のドライバーで埋入します。これでアンカースクリューの植立は終了です。
保険診療への適応について
アンカースクリューによる歯列矯正を用いたガミースマイルの治療は、保険診療の適応を受けていません。
歯列矯正を含めた額になるので、100万円以上になることも珍しくありません。
詳しい費用は、主治医の歯科医師と相談してください。
なお、顎変形症の治療であれば、アンカースクリューを使った歯列矯正は保険診療の適応を受けています。
アンカースクリューの点数は、1本につき植立術が500点、材料代は378点ですので、3割負担の場合、2,634円になります。
この他に、初診・再診費用、レントゲン写真撮影などの検査費用、マルチブラケット装置などの矯正装置の費用も必要です。
アンカースクリューの撤去費用は、1本につき100点です。
【まとめ】ガミースマイルを矯正で改善する治療法について
今回は、歯列矯正によるガミースマイル治療についてご説明いたしました。
歯列矯正だけでは上顎前歯部の圧下などを行うのは大変困難で、今までは外科矯正手術を併用しなければなりませんでした。
近年、歯科矯正用アンカースクリューが開発され、アンカースクリューを用いることで、外科矯正手術を行うことなく、上顎前歯部の圧下や遠心移動が行えるようになりました。
上顎前歯部の萌出異常など、歯に原因のあるガミースマイルの治療に適応があります。
まずは、ガミースマイルの原因を精査し、歯列矯正の適応の可否を確認してください。