ジルコニアとセラミックの違い(比較)

ジルコニアとセラミックの違い(比較)

現在の歯科治療において、審美性と機能性を両立させた補綴治療として、セラミックを用いた治療が注目を集めています。
従来の保険診療で主流だった金属補綴物は強度に優れる一方で、見た目の問題や金属アレルギーのリスクが指摘されてきました。そこで登場したのが、より自然な色調と高い強度を兼ね備えたジルコニアをはじめとする様々なセラミック材料です。
しかし、「ジルコニア」「オールセラミック」「e-max」など、多様な名称があるため、患者様にとってはどの治療法が自分に適しているのか判断しにくいのが現状ではないでしょうか。

この記事では、歯科治療で用いられるジルコニアとその他のセラミック材料・セラミッククラウンの種類と、それぞれの詳細な違いを詳しく解説します。
この記事を読むことで、審美性と機能性を兼ね備えたセラミック治療を選ぶために必要な知識を理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。

こんな疑問が解決

  • ジルコニア、ポーセレン、e-maxといったセラミック材料にはどのような特徴があるのか?
  • 「ジルコニア・オールセラミッククラウン」と「陶材焼付鋳造冠(メタルボンド)」の具体的な違い
  • 金属アレルギーがあるが、セラミック治療は可能なのか?
  • 審美性、強度、費用など、何を基準にクラウンの素材を選べば良いのかわからない
  • それぞれのクラウンを装着する際、自分の歯をどれくらい削る必要があるのか?

歯科で使われているセラミック材料

セラミックとは、ギリシャ語のKeramosを語源とする言葉で非金属性の無機質の材料を指します。
製造過程で高熱処理を施すことで、現在では陶磁器やガラスなどに加工され、今回のテーマである歯科材料だけでなく、電子産業や航空宇宙産業など幅広い分野で利用されています。
歯科で現在用いられているセラミック材料としては、ポーセレンやジルコニアなどが挙げられます。

ポーセレン

歯科治療では長い間、長石質やリューサイト、陶土を混ぜて作ったポーセレンという陶材を利用して作られたセラミックが使われてきました。ポーセレンは18世紀ごろから使われてきたそうですから、非常に歴史の長い治療材料です。
ポーセレンは、歯の色に近似した色調や光沢感ゆえに審美性の高さが利点です。一方、曲げ強度の点では製品によって差がありますが、80MPaとあまり高くはありません。Pa(パスカル)は圧力や応力の単位です。身近なところでは、天気予報で気圧の説明に用いられるhPa(ヘクトパスカル)が有名です。
ポーセレンの内面を異なる強度に優れた材料で補強すると、ポーセレン自体の脆さを補えることが判明し、1950年代以降、内面フレームに金属を用いた陶材焼付鋳造冠が開発されました。現在では、ポーセレンの内面フレームに金属だけでなく、後述するジルコニアも用いられるようになりました。

ジルコニア

ポーセレンの内面フレームに長らく用いられてきた金属に代わる、新しいセラミック材料として利用されるようになったのがジルコニアです。ジルコニアは、二酸化ジルコニウムというセラミック材料です。
ジルコニアは数あるセラミック材料の中でも靭性が比較的高い特性があり、人工ダイヤモンドともよばれています。ポーセレンと比べると、その曲げ強度は900〜1200MPaと10倍以上もあり、ジルコニアの強度の高さがわかります。
ジルコニアというセラミック材料自体は従来からあったのですが、この硬度ゆえに加工が難しく、CAD/CAMによる加工技術の向上により近年になって歯科治療に導入されるようになりました。
ジルコニアは透明度が高いセラミック材料なのですが、白色なので天然歯の色調を完全に再現できるものではないため、ジルコニア単体で用いるのではなく、ポーセレンの内面フレームとして使っています。

e-max

近年、Empress Max、通称e-max(イーマックス)という二ケイ酸リチウムガラスを主成分とした新しいセラミック材料が開発されました。ガラス系の素材で作られているため、e-maxは光の透過性が高いセラミック材料になっています。
そのほかの特徴として材料の強度があげられます。
e-maxは、360〜400MPaほどの強度を有しています。例えば、先にご説明したジルコニアの曲げ強度は900〜1200 MPaです。ジルコニアの強度と比べるとかなり低いように思われてしまいます。ところが、実は天然歯の曲げ強度は350MPaです。すなわち、e-maxの強度は天然歯に近く、咀嚼時に対合歯に必要以上の負荷をかけることがありません。

セラミッククラウンについて

セラミッククラウンは使用するセラミック材料や内面フレーム材料によって、陶材焼付鋳造冠やジルコニア・オールセラミッククラウンなどさまざまなタイプがあります。

陶材焼付鋳造冠

陶材焼付鋳造冠はポーセレンを使ったセラミッククラウンです。メタルボンドやセラモメタルとも呼ばれます。ポーセレンの弱点である脆さを内面に金属フレームを用いることで補っています。
ポーセレン自体の審美性は高いのですが、次に紹介するジルコニア・オールセラミッククラウンと比べると、内面フレームに金属材料を用いるため、歯冠色調の再現性に限界があります。

ジルコニア・オールセラミッククラウン

ジルコニア・オールセラミッククラウンは、金属材料を一切使わないセラミッククラウンです。前述したようにジルコニアは、ポーセレンの内面のフレーム材料として利用されています。
光透過性を有するジルコニアを内面フレームに用いているジルコニア・オールセラミッククラウンは透明感と自然感を再現しやすく、より審美的な修復が可能です。

e-maxクラウン

e-maxクラウンはポーセレンを一切用いないセラミッククラウンです。ポーセレンを使わないので内面フレームが必要なく、全てe-maxで作られているのが特徴です。もちろんセラミック材料ですから、天然歯のような高い審美性も備えています。
また、強度の弱いポーセレンを使わないので破折のリスクがかなり低くなっています。

ジルコニア・オールセラミッククラウンと陶材焼付鋳造冠の違い

では、ジルコニア・オールセラミッククラウンと陶材焼付鋳造冠を比較してみましょう。

色調再現性

ポーセレンは、金属のように全く光透過性のない材料ではありません。したがって、仕上がりは内面フレームの影響が避けられません。
ジルコニアは、金属と異なり、光透過性を有するセラミック材料です。一方、陶材焼付鋳造冠の金属フレームは光透過性がありません。
内面フレームという目に見えない部分の差ですが、光透過性を有するジルコニアの方が透明感と自然感を再現しやすいです。そのため、審美性の点で比較するとジルコニア・オールセラミッククラウンの方が優れています。

金属アレルギー

陶材焼付鋳造冠は内面フレームに金属を用いていますので、歯科用金属材料に金属アレルギーのある方には適用することができません。
一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンは金属材料を全く使っていませんので、歯科用金属材料に金属アレルギーのある方にも問題なく使用することができます。

金属イオンの溶出

陶材焼付鋳造冠は内面フレームに金属を用いていますので、金属イオンの可能性が否定できません。
一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンは金属材料を使っていませんので、金属イオンの溶出による周囲組織への色素沈着は起こりません。

支台歯形態

陶材焼付鋳造冠とジルコニア・オールセラミッククラウンでは、支台歯の形態が全く異なります。
まず、対合歯とのクリアランスですが、陶材焼付鋳造冠では対合歯とのクリアランスは切縁で2.0㎜、咬合面は1.5㎜必要です。
一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンでは、咬合圧に耐えるだけの厚みを確保するために対合歯とのクリアランスは1.5〜2.0㎜以上必要です。唇側面や舌側面の歯質の削除厚は、陶材焼付鋳造冠では0.8〜1.2㎜ほど、一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンでは、1.0〜1.5㎜ほどです。
支台歯の軸面のなす角度をテーパーと言いますが、陶材焼付鋳造冠では6〜10°になるように形成します。ジルコニア・オールセラミッククラウンのテーパーは、5〜8°です。
支台歯の辺縁部分、つまりフィニッシュラインの形態は、陶材焼付鋳造冠では唇側は歯質との移行部が明瞭なショルダー形態、舌側はマージンに丸みがあるシャンファー形態です。ジルコニア・オールセラミッククラウンでは、ヘビーシャンファー形態です。
また、ジルコニア・オールセラミッククラウンは応力が一点に集中するのを防ぐため、支台歯全体を丸く滑らかに形成しなければならない点も、陶材焼付鋳造冠との違いとしてあげられます。

歯質削除量

陶材焼付鋳造冠と比べると、支台歯形態の違いからジルコニア・オールセラミッククラウンの方が歯質の削除量が少し多くなります。

製作

陶材焼付鋳造冠では、内面フレームにセラミックの粉末をかけて焼成して作成します。これは、一般的な歯科技工所の設備で十分可能です。
一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンを製作するためには、専用のCAD/CAM工作機械が必要ですので製作が困難です。

クラウンの除去

二次齲蝕や根尖病巣などによりセラミッククラウンの除去が必要となった場合、内面フレームに硬度の高いジルコニアを使ったジルコニア・オールセラミッククラウンの除去は困難です。

治療費

セラミッククラウンは、全て保険診療の保険給付の対象外です。詳しい治療費は、それぞれの歯科医院で相談していただく必要がありますが、1本あたりの相場は陶材焼付鋳造冠で8〜10万円、ジルコニア・オールセラミッククラウンで10〜15万円です。
加工が困難なジルコニアを使うジルコニア・オールセラミッククラウンの方が、一般的に高額となる傾向があります。

【まとめ】ジルコニアとセラミックの違い(比較)

歯科治療におけるジルコニアとセラミック材料の種類と、主要なセラミッククラウンの違いについて詳しく解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。

この記事のおさらい

  • 歯科で用いられる主なセラミック材料には、
    ・ポーセレン:審美性は高いが強度が低く、金属などで補強して使用されることが多い
    ・ジルコニア:人工ダイヤモンドとも呼ばれる非常に高い強度を持ち、主にフレーム材として使われる
    ・e-max:天然歯に近い強度を持ち、光の透過性が高く自然な仕上がりになる
  • 主要なクラウンの比較:
    ・ジルコニア・オールセラミッククラウンは、金属不使用で審美性に優れ、金属アレルギーや金属イオン溶出のリスクがない
    ・陶材焼付鋳造冠(メタルボンド)は、金属フレームを使用するため、審美性や金属アレルギーの点でジルコニアに劣る
    ・ジルコニアは製作に専用の機器が必要なため、陶材焼付鋳造冠に比べて治療費が高額になる傾向がある

ジルコニアをはじめとするセラミック治療は、従来の金属治療にはない高い審美性と生体親和性を提供します。しかし、それぞれの素材やクラウンには、強度、透明度、歯の削除量、費用など、異なる特性とメリット・デメリットが存在します。
最適な治療法を選択するためには、これらの違いをしっかりと理解し、ご自身の口腔内の状態や審美的な要望、予算と照らし合わせながら、信頼できる歯科医師と十分に相談することが何よりも重要です。
この記事が、あなたにとって最適なセラミック治療を見つけるための一助となれば幸いです。


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