ガミースマイルは、病的ではなく審美的に問題とされる顔貌所見です。
審美的影響から、社会生活に影響が生じることもあり、改善するためにさまざまな治療法が開発されています。しかし、患者さん自身が治療後、「やらなければよかった」と失敗に感じて、後悔していることもないわけではありません。
そこでこのコラムでは、ガミースマイル手術での失敗例や失敗しないための予防法などについてお伝えしていきます。
目次
ガミースマイルとは
ガミースマイルとは、笑ったときに過度に上顎前歯部の歯肉が露出する状態です。
ガミースマイルは、笑顔のときの口唇ライン、すなわちリップラインを基準に判定します。リップラインは低位、中位、高位の3段階で評価します。
笑っときに上顎の前歯が一部しか見えない状態を低位、歯肉が辺縁から1〜3㎜程度露出した状態を中位、3㎜以上歯肉が露出している状態を高位としています。
一般的にガミースマイルは、リップラインが高位の状態を指します。
ガミースマイルの治療法
ガミースマイルの治療法は、原因に応じたさまざまな方法が開発されています。
薬物療法
ガミースマイルの薬物治療としては、ボトックスを使用した治療があります。ボトックスは、末梢性筋弛緩薬の一種で、一般名はA型ボツリヌス毒素です。
神経筋接合部での神経伝達物質の放出を阻害することで、局所的な筋弛緩作用を生じさせる薬剤です。
ボトックスによる治療は、上唇挙筋や上唇鼻翼挙筋の過緊張によるガミースマイルに適用されます。上唇挙筋や上唇鼻翼挙筋の可動域を制限し、ガミースマイルを改善します。ボトックスを注入してから数日から1週間前後で効果が発現します。
外科手術
ガミースマイルの外科手術としては、歯肉整形術、口唇移動術、上唇挙筋切除術、Le FortⅠ型骨切術などがあります。
歯肉整形術
歯肉整形術は、歯肉増殖症によるガミースマイルに適用されます。
過剰増殖した歯肉の切除により、前歯部の辺縁歯肉の形態を改善し、ガミースマイルの解消を図ります。
口唇移動術
口唇移動術は、上口唇の過剰な可動量が原因のガミースマイルに適用されます。
上顎の口腔前庭部の口腔粘膜を切除し、口唇粘膜と歯槽部粘膜を縫縮することで上口唇の可動域を減少させる治療法です。
上唇挙筋切除術
上唇挙筋切除術は、上唇挙筋の稼働範囲が広すぎるために生じたガミースマイルに適応があります。
上方へ挙上する上唇挙筋を切除し、上口唇の可動域を減少させ、ガミースマイルを改善します。
ガミースマイルを改善する上唇粘膜切除術のメリットとデメリット
Le FortⅠ型骨切術
Le FortⅠ型骨切術は、上顎骨の成長異常によって生じたガミースマイルに用いられます。
鼻腔底上方で上顎骨を離断して遊離させ、上顎骨を適切な位置に移動させる骨切手術を行います。
矯正歯科治療
歯列不正に伴って生じたガミースマイルは、矯正歯科治療が効果的です。
具体的には、マルチブラケット法や可撤式アライナー法、インプラント矯正などがあります。歯の動的矯正には、時間がかかるため、ガミースマイル治療の中でも最も治療期間が長い治療法となります。
ガミースマイル治療での失敗例
ガミースマイル治療での代表的な失敗例についてご紹介します。
顔貌の左右非対称化
上口唇の可動域に左右で差が生じると、顔貌の左右非対称化が生じ、表情が不自然になってしまいます。
アレルギー反応
ボトックス治療の場合、ボトックスの注入によりアレルギーを起こすことが稀にあります。
開口幅の減少
上唇挙筋の可動域を過剰に減少させてしまうと、開口量の減少を生じる可能性があります。
期待していたほど改善しない
種々のガミースマイル治療を受けても、リップラインが高位のままというケースです。
ガミースマイル治療での失敗時の対処法
もし、ガミースマイル治療でトラブルが発生した時の対処法をご説明します。
経過観察
ボトックスの薬物効果は、6か月前後で消退します。時間の経過とともに、神経側芽が生じ、新しく神経筋接合部が形成されるためです。また、ボツリヌス毒素を受けた神経主枝の機能も回復してきます。
こうして効果が消退し、上唇挙筋や上唇鼻翼挙筋の弛緩作用も解消されるため、自然と元の表情に戻ります。
再治療・再手術
上口唇の可動域の制限が弱いなどの理由で、ガミースマイルが思ったほど改善しない場合は、再手術という方法もあります。
ただし、ボトックス治療では、効果が弱いと判断されても、抗体産生を予防するために2か月程度の追加投与はできません。
追加治療
例えば、矯正治療を受けてもガミースマイルが期待したほど改善しない場合、さらに歯を移動させるのは困難です。
そこで、薬物療法や外科手術を組み合わせるなどにより、ガミースマイルの改善効果を高めます。
ガミースマイル治療で失敗しないための対策
ガミースマイル治療で失敗しないためのポイントは6つです。
専門医資格の確認
ガミースマイル治療の専門医の資格はありませんが、担当医が外科系の専門医資格を持っていると安心です。
例えば、日本口腔外科学会専門医や指導医、日本口腔科学会医認定医などです。
あくまでも一例です。担当医がどのような資格を有しているのか、確認しておきましょう。
症例数の確認
症例数が多いということは、経験数も多いということです。
ガミースマイルと言っても症状は非常に多岐にわたりますから、数多くの症例を経験した歯科医師または医師の方が安心です。
アフターケア体制の確認
ガミースマイル治療だけでなく、治療後のアフターケアも充実したクリニックがおすすめです。治療後のケアのシステムについても、あらかじめ確認しておきましょう。
充実したインフォームドコンセント
インフォームドコンセントとは、治療に関する説明と、それに対する受診者側の同意のことです。
ガミースマイルで後悔しないためには、治療前の診察・相談がとても重要です。ガミースマイル治療を行うことで、顔貌がどのように変化するのかという美容的な効果だけでなく、治療に伴うリスクやデメリット、治療費、治療期間なども十分説明してもらいましょう。
また、ガミースマイルの治療は一種類だけではありません。いろいろな種類がありますから、他の選択肢についても説明してもらえるところが安心です。
担当医からしっかりと説明していただき、納得の上で同意することが大切です。
必要に応じたセカンドオピニオン
担当医の説明ではよくわからないことがある場合、他の医師の助言を得るセカンドオピニオンを活用しましょう。
セカンドオピニオンは、受診された方が持つ当然の権利です。セカンドオピニオンを希望した場合、それを渋るような医師は避けた方が安心です。
治療費の確認
ガミースマイルの治療は、保険診療の給付対象外です。そのため、治療費は各クリニックで決められています。
アフターケアの費用も含め、治療費がどれくらいになるのか、しっかりと説明してもらいましょう。
【まとめ】ガミースマイル手術で失敗例と失敗しないための対策
今回は、ガミースマイル治療での失敗例と失敗を防ぐためのポイントについてお話ししました。
ガミースマイルの治療法は、原因に応じて幾つかの方法が選ばれます。確立されたものばかりですが、失敗のリスクがないわけではありません。
これからガミースマイル治療を受けようと考えている方々は、今回、ご紹介した失敗を防ぐポイントを、ぜひご参考にしてみてください。