ジルコニアを使ったセラミックの歯のメリットとデメリット

ジルコニアを使ったセラミックの歯のメリットとデメリット

近年、歯の美しさに対する意識が高まり、保険診療の「銀歯」ではなく、自然な見た目の「セラミックの歯」を選択する方が増えています。
セラミック材料の中でも特に注目されているのが、高い強度と審美性を兼ね備えた「ジルコニア」です。ジルコニアを用いた補綴治療は、従来のセラミックや金属を使用したものと比べて、多くの優れた特徴を持っていますが、治療を検討するうえで知っておくべき注意点も存在します。

この記事では、ジルコニア・オールセラミッククラウンの特徴とメリット・デメリットを詳しく解説します。
この記事を読むことで、ジルコニアを用いた審美歯科治療の全体像と注意点を理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。

こんな疑問が解決

  • ジルコニアとはどのような材料ですか?従来のセラミックとの違いは?
  • ジルコニア製の歯にすることで、どのようなメリットが得られますか?
  • 金属アレルギーや変色の心配はありませんか?
  • 強度が高いジルコニアの歯でも、破損したり、他の歯に影響を与えたりするデメリットはないのか?
  • 治療にかかる費用はどのくらいが相場ですか?

ジルコニアとは

ジルコニアとは一体どのような材料なのでしょうか。

ジルコニアとは

ジルコニアとは

ジルコニアは、二酸化ジルコニウムという白色のセラミック材料です。
ジルコニアの特徴として挙げられるのが、透明度の高さです。ダイヤモンド並みの屈折率を有しているため、人工ダイヤモンドという別名を持つほどです。また、強度も高く、ブリッジにも適応できるほどの物理的強度を有しています。
ジルコニア自体は以前からあったのですが、硬さゆえに加工が難しく、CAD/CAMの加工技術が向上した2006年ごろから歯科臨床に取り入れられるようになりました。現在では、第三世代のジルコニアが利用されています。

ジルコニアとポーセレンとの違い

ジルコニアが歯科で利用される以前から利用されている歯科用セラミック材料にポーセレンがあります。
ポーセレンは長石質やリューサイト、陶土などを混合し、焼成して作られたセラミックで、100年以上前から歯科で利用されてきました。審美性は高いのですが、強度が弱く、ポーセレン単体でのセラミッククラウンは破折のリスクが高いのが欠点です。そこで、金属などの強度の高い別素材の内面フレームを組み合わせることで、その強度を補っています。

ジルコニアとオールセラミッククラウン

金属を使わないポーセレン単体で作られたオールセラミッククラウン自体は以前からありましたが、破折のリスクが避けられないため、臨床の現場では普及していませんでした。
一方、ポーセレンの内面を金属フレームで補強した陶材焼付鋳造冠は、強度の点でポーセレンの弱点を補うことに成功しました。その反面、内面フレームに金属を用いたことで色調再現性に限界がありました。そこで、ポーセレンよりも強度に優れたジルコニアを内面フレームに利用したジルコニア・オールセラミッククラウンが開発されました。
これがきっかけとなり、オールセラミッククラウンが歯科臨床の現場で普及することになったのです。

ジルコニア・オールセラミッククラウンのメリット

ジルコニア・オールセラミッククラウンには、さまざまなメリットがあります。

歯冠色調再現性が高い

ジルコニアは光の透過性の高いセラミック材料です。
陶材焼付鋳造冠は内面フレームに金属材料を使いますが、金属材料には光の透過性が全くありません。
ジルコニア・オールセラミッククラウンは内面フレームにジルコニアという光透過性の高い材料を用いることで、陶材焼付鋳造冠よりも高い歯冠色調の再現力を有しています。

変色しない

ジルコニア・オールセラミッククラウンの外層部分であるポーセレンは、色調安定性がたいへん高い歯科材料です。コンポジットレジンのように色調変化を起こすことがありません。

金属アレルギーが起こらない

ジルコニア・オールセラミッククラウンは金属材料を一切使わないセラミッククラウンです。したがって、金属アレルギーを起こすリスクが全くありません。
もちろん、歯科用金属材料をアレルゲンとする金属アレルギー患者にも問題なく使用できます。

曲げ強度が高い

これはセラミック系材料全般に言えることですが、セラミック系材料は曲げ強度が低いのが弱点です。
ジルコニアの曲げ強度は900〜1200MPa(メガパスカル)もあり、セラミック系材料の中では最も高い部類に入ります。なお、Pa(パスカル)とは、圧力や応力を表す単位で、身近なところでは天気予報で気圧の単位としてhPa(ヘクトパスカル)が使われています。
保険診療でよく用いられる硬質レジンで150MPa、ポーセレンでは80MPa、強くても100MPaほどです。このことからも、ジルコニアの曲げ強度の高さがわかってもらえると思います。

硬度が高い

ジルコニアの硬さを示すビッカース硬さは、1200〜1300HVほどです。
ビッカース硬さは、硬さを示す尺度で、HVはその単位です。
エナメル質で300〜350HV、ポーセレンで400〜500HV、硬質レジンで30HV、ハイブリッドレジンで200HVです。ジルコニアが非常に硬い材料であることがわかります。

プラークコントロールが良好

ジルコニア・オールセラミッククラウンの外層部分はポーセレンで作られていますが、ポーセレンは傷が入りにくく、凹凸が少なくたいへん滑らかなので、齲蝕や歯周病の原因となるプラークが付着しにくい傾向があります。すなわち、ジルコニア・オールセラミッククラウンはプラークコントロールの点でも優れた修復物といえます。

寸法精度が高い

ジルコニア・オールセラミッククラウンは、CAD/CAMで製作されます。
CAD/CAMに口腔内スキャナーを組み合わせた場合、従来型の補綴物のように印象採得や作業用模型を製作する必要がなくなります。
印象採得や模型製作時には、熱膨張と収縮による物性変化が生じるために、完成した補綴物の寸法精度に誤差が生じます。
口腔内スキャナーを使ったジルコニア・オールセラミッククラウンなら、印象採得や作業模型作成時の物性変化が起こりませんから、寸法精度がより高くなります。

ジルコニア・オールセラミッククラウンのデメリット

メリットの多いジルコニア・オールセラミッククラウンですが、デメリットもあります。

破損のリスクがある

ジルコニアがいかに強度に優れた材料とはいえども、ジルコニア・オールセラミッククラウンの外層はポーセレンで作られています。
ポーセレンの破折のリスクは依然として存在しますので、破折のリスクを抑えるためにもポーセレン層の厚みを均一にできるよう、ジルコニア・フレームを製作しなければなりません。

対合歯へのリスク

ジルコニア・オールセラミッククラウンは天然歯よりも硬いため、咬合高径がわずかに高いだけでも、対合歯に過度な咬耗や咬合性外傷を引き起こすリスクが生じます。そのため、装着時には咬合調整を十分に行わなければなりません。

歯質削除量が多い

ジルコニア・オールセラミッククラウンは、対合歯とのクリアランスを1.5〜2.0㎜以上確保したうえで、支台歯全体に角が出ないように丸みを与える必要があります。そのため、陶材焼付鋳造冠と比べると歯質削除量が多くなります。

形態修正と咬合調整が困難

ジルコニア・オールセラミッククラウンは、その硬さゆえに外来での形態修正や咬合調整がとても困難です。
また、ジルコニアは熱に弱いため、形態修正や咬合調整のときに局所加熱を起こすと、ジルコニアの強度や硬度が低下し、マイクロクラックの発生や破折を起こすリスクがあります。

除去が困難

ジルコニアは強度が高いため、歯科用回転切削器具ではなかなか削合できません。根尖病巣や二次カリエスなどにより除去せざるを得なくなった場合、その除去はたいへん困難です。

ジルコニア・オールセラミッククラウンの治療費

ジルコニア・オールセラミッククラウンは、保険診療の給付の対象外です。治療費はそれぞれの歯科医院で決められていますが、1本あたりの相場は10万〜15万円程です。
詳しい治療費に関しては、それぞれの歯科医院でご相談ください。

【まとめ】ジルコニアを使ったセラミックの歯のメリットとデメリット

審美性の高いジルコニア・オールセラミッククラウンの特徴と注意点について詳しく解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。

この記事のおさらい

  • ジルコニアは人工ダイヤモンドと呼ばれるほどの強度と高い透明度を持つ、優れたセラミック材料である
  • ジルコニア・オールセラミッククラウンは、「歯冠色調再現性の高さ」「変色しない」「金属アレルギーの心配がない」など、審美性と機能性の両面で多くのメリットを持つ
  • 「対合歯へのリスク」「歯質削除量が多い」「除去が困難」といったデメリットも存在するため、治療前にはこれらを十分に考慮する必要がある
  • 治療費は保険適用外であり、各歯科医院で設定されていて、1本あたりの相場は10万〜15万円程度

ジルコニア・オールセラミッククラウンは、現在の歯科補綴治療の中でも特に優れた選択肢の一つです。特に見た目の美しさと長期的な安定性を重視する方にとって、非常に魅力的な治療法と言えます。
しかし、メリットだけにとらわれず、天然歯よりも硬いことによる対合歯への影響や治療後の修正・除去の難しさといったデメリットも理解しておくことが重要です。
治療を検討する際は、この記事で得た知識を参考に担当の歯科医師とメリット・デメリットをしっかり話し合い、ご自身の状態に合った最適な治療を選択してください。


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