現在の保険診療に基づく医療制度では、給付対象となる欠損部位の補綴治療では、金銀パラジウム合金を使った金属補綴物が中心です。
金属補綴物は、強度は優れていますが、審美性の点に劣るのが欠点です。
強度だけでなく、審美性にも優れた治療法を望む場合は、保険診療の対象外となるセラミックを用いた補綴治療となります。
セラミックを用いた補綴治療とひとことで言っても、用いられる材料によってさまざまな方法があります。
今回は、さまざまなセラミックを用いた治療法とその違いについてご説明します。
目次
歯科で使われているセラミック材料
セラミックとは、ギリシャ語のKeramosを語源とする言葉で、非金属性の無機質の材料を指します。
製造過程で高熱処理を施すことで、現在では陶磁器やガラスなどに加工され、今回のテーマである歯科材料だけでなく、電子産業や航空宇宙産業など幅広い分野で利用されています。
歯科で現在用いられているセラミック材料としては、ポーセレンやジルコニアなどが挙げられます。
ポーセレン
歯科治療では、長い間、長石質やリューサイト、陶土を混ぜて作ったポーセレンという陶材を利用して作られたセラミックが使われてきました。
ポーセレンは18世紀ごろから使われてきたそうですから、非常に歴史の長い治療材料です。
ポーセレンは、歯の色に近似した色調や光沢感ゆえに審美性の高さが利点です。
一方、曲げ強度の点では、製品によって差がありますが、80MPaとあまり高くはありません。
Pa(パスカル)は、圧力や応力の単位です。身近なところでは、天気予報で気圧の説明に用いられるhPa(ヘクトパスカル)が有名ですね。
ポーセレンの内面を異なる強度に優れた材料で補強すると、ポーセレン自体の脆さを補えることが判明し、1950年代以降、内面フレームに金属を用いた陶材焼付鋳造冠が開発されました。
現在では、ポーセレンの内面フレームに金属だけでなく、後述するジルコニアも用いられるようになりました。
ジルコニア
ポーセレンの内面フレームに長らく用いられてきた金属に代わる、新しいセラミック材料として利用されるようになったのがジルコニアです。
ジルコニアは、二酸化ジルコニウムというセラミック材料です。
ジルコニアは、数あるセラミック材料の中でも靭性が比較的高い特性があり、人工ダイヤモンドともよばれています。
ポーセレンと比べると、その曲げ強度は900〜1200MPaと10倍以上もあり、ジルコニアの強度の高さがわかります。
ジルコニアというセラミック材料自体は従来からあったのですが、この硬度ゆえに加工が難しく、CAD/CAMによる加工技術の向上により近年になって、歯科治療に導入されるようになりました。
ジルコニアは透明度が高いセラミック材料なのですが、白色なので天然歯の色調を完全に再現できるものではないため、ジルコニア単体で用いるのではなくポーセレンの内面フレームとして使っています。
e-max
近年、Empress Max、通称e-max(イーマックス)という二ケイ酸リチウムガラスを主成分とした新しいセラミック材料が開発されました。
ガラス系の素材で作られているため、e-maxは光の透過性が高いセラミック材料になっています。
そのほかの特徴として材料の強度があげられます。
e-maxは、360〜400MPaほどの強度を有しています。
例えば、先にご説明したジルコニアの曲げ強度は900〜1200 MPaです。
ジルコニアの強度と比べるとかなり低いように思われてしまいます。
ところが、実は天然歯の曲げ強度は350MPaです。
すなわち、e-maxの強度は天然歯に近く、咀嚼時に対合歯に必要以上の負荷をかけることがありません。
セラミッククラウンについて
セラミッククラウンは、使用するセラミック材料や内面フレーム材料によって、陶材焼付鋳造冠やジルコニア・オールセラミッククラウンなどさまざまなタイプがあります。
陶材焼付鋳造冠
陶材焼付鋳造冠は、ポーセレンを使ったセラミッククラウンです。
メタルボンドやセラモメタルともよばれます。
ポーセレンの弱点である脆さを、内面に金属フレームを用いることで補っています。
ポーセレン自体の審美性は高いのですが、次に紹介するジルコニア・オールセラミッククラウンと比べると、内面フレームに金属材料を用いるため、歯冠色調の再現性に限界があります。
ジルコニア・オールセラミッククラウン
ジルコニア・オールセラミッククラウンは、金属材料を一切使わないセラミッククラウンです。
前述したようにジルコニアは、ポーセレンの内面のフレーム材料として利用されています。
光透過性を有するジルコニアを内面フレームに用いているジルコニア・オールセラミッククラウンは透明感と自然感を再現しやすく、より審美的な修復が可能です。
e-maxクラウン
e-maxクラウンは、ポーセレンを一切用いないセラミッククラウンです。
ポーセレンを使わないので、内面フレームが必要なく、全てe-maxで作られているのが特徴です。
もちろんセラミック材料ですから、天然歯のような高い審美性も備えています。
強度の弱いポーセレンを使わないので、破折のリスクがかなり低くなっています。
ジルコニア・オールセラミッククラウンと陶材焼付鋳造冠の違い
では、ジルコニア・オールセラミッククラウンと陶材焼付鋳造冠を比較してみましょう。
色調再現性
ポーセレンは、金属のように全く光透過性のない材料ではありません。
したがって、仕上がりは内面フレームの影響が避けられません。
ジルコニアは、金属と異なり、光透過性を有するセラミック材料です。
一方、陶材焼付鋳造冠の金属フレームは光透過性がありません。
内面フレームという目に見えない部分の差ですが、光透過性を有するジルコニアの方が、透明感と自然感を再現しやすいです。
そのため、審美性の点で比較するとジルコニア・オールセラミッククラウンの方が優れています。
金属アレルギー
陶材焼付鋳造冠は内面フレームに金属を用いていますので、歯科用金属材料に金属アレルギーのある方には適用することができません。
一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンは、金属材料を全く使っていませんので、歯科用金属材料に金属アレルギーのある方にも問題なく使用することができます。
金属イオンの溶出
陶材焼付鋳造冠は、内面フレームに金属を用いていますので、金属イオンの可能性が否定できません。
一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンは金属材料を使っていませんので、金属イオンの溶出による周囲組織への色素沈着は起こりません。
支台歯形態
陶材焼付鋳造冠とジルコニア・オールセラミッククラウンでは、支台歯の形態が全く異なります。
まず、対合歯とのクリアランスですが、陶材焼付鋳造冠では、対合歯とのクリアランスは、切縁では2.0㎜、咬合面は1.5㎜必要です。
一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンでは、咬合圧に耐えるだけの厚みを確保するために、対合歯とのクリアランスは1.5〜2.0㎜以上必要です。
唇側面や舌側面の歯質の削除厚は、陶材焼付鋳造冠では0.8〜1.2㎜ほど、一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンでは、1.0〜1.5㎜ほどです。
支台歯の軸面のなす角度をテーパーと言いますが、陶材焼付鋳造冠では6〜10°になるように形成します。
ジルコニア・オールセラミッククラウンのテーパーは、5〜8°です。
支台歯の辺縁部分、つまりフィニッシュラインの形態は、陶材焼付鋳造冠では唇側は歯質との移行部が明瞭なショルダー形態、舌側はマージンに丸みがあるシャンファー形態です。
ジルコニア・オールセラミッククラウンでは、ヘビーシャンファー形態です。
また、ジルコニア・オールセラミッククラウンは、応力が一点に集中するのを防ぐため、支台歯全体を丸く滑らかに形成しなければならない点も、陶材焼付鋳造冠との違いとしてあげられます。
歯質削除量
陶材焼付鋳造冠と比べると、支台歯形態の違いから、ジルコニア・オールセラミッククラウンの方が歯質の削除量が少し多くなります。
製作
陶材焼付鋳造冠では、内面フレームにセラミックの粉末をかけて焼成して作成します。
これは、一般的な歯科技工所の設備で十分可能です。
一方、ジルコニア・オールセラミッククラウンを製作するためには専用のCAD/CAM工作機械が必要ですので、製作が困難です。
クラウンの除去
二次齲蝕や根尖病巣などによりセラミッククラウンの除去が必要となった場合、内面フレームに硬度の高いジルコニアを使ったジルコニア・オールセラミッククラウンの除去は困難です。
治療費
セラミッククラウンは、全て保険診療の保険給付の対象外です。
詳しい治療費は、それぞれの歯科医院で相談していただく必要がありますが、1本あたりの相場は、陶材焼付鋳造冠で8〜10万円、ジルコニア・オールセラミッククラウンで10〜15万円です。
加工が困難なジルコニアを使うジルコニア・オールセラミッククラウンの方が、一般的に高額となる傾向があります。
【まとめ】ジルコニアとセラミックの違い(比較)
今回は、歯科治療で用いられるセラミック治療について、その比較などを中心にご説明しました。
現在のセラミック治療では、ポーセレンやジルコニアなどのセラミックが使用されています。
それぞれに異なる特徴があり、治療法の選択にあたっては、特徴の差を理解しておくことが大切です。