インレーやアンレーなどで、治療済みの歯が多少痛む程度では歯科医院の受診を控えている方も多いのではないでしょうか。
特に、保険適用外のセラミック材料を使用した治療は保険診療に比べて高額になりますので、多少の詰め物の欠損や割れ・歯がしみるといった症状が出ていても、明らかな痛みが出るまではそのまま放っておくという方は多いのではないでしょうか。
日常生活で冷たい飲み物がしみる経験をしたことがある方は多いと思いますが、齲蝕修復部位の冷水痛は放っておくと、詰め物の下で齲蝕が進行して更に広範囲の治療が必要になるかもしれません。
今回は、インレーなどによる修復処置を行ったにもかかわらず、歯がしみる原因と治療について解説します。
インレー治療後の歯がしみる・痛みが出る原因として、以下のものが考えられます。
治療中・治療直後の痛み
- 一時的な神経の過敏
- 適合性の悪いインレーを修復治療に用いた
治療後に時間が経っている場合の痛み
- 二次齲蝕
- インレーの亀裂・欠け
- 対合歯の擦り減り
- 知覚過敏
以下では、上記原因について詳しく解説していきます。
目次
一時的な神経の過敏
インレー治療は感染歯質を確実に除去し、インレーの材料・大きさに合った適切な窩洞を形成することが重要です。
感染歯質が多く、齲蝕が歯髄付近にまで進行している場合には、より多くの歯質を切削する必要があります。その際、切削器具の振動や熱により歯髄が刺激され、歯が一時的にしみたり、痛みが生じる場合があります。多くの場合、個人差はありますが1週間ほどで痛みは落ち着きます。
また、メタルインレーの場合、熱伝導性がセラミックインレーよりも高いため、治療直後に熱いもの・冷たいものを食べたり飲んだりすることは避けるのがよいでしょう。
適合性の悪いインレーを修復治療に用いた
インレー体の適合が悪い(削った歯の窩洞とぴったり合わない)と、インレーの脱落、噛み合わせの変化、咬合時の痛み、顎関節症などを引き起こす可能性があります。
インレー体や辺縁部の適合性が良いと、インレーの浮き上がりや沈下もなく、噛み合わせに違和感が生じにくくなり、接着性も向上してインレーが長持ちします。
また、インレー合着後は咬合調整という作業を行い、歯の噛み合わせを調整します。咬合紙と呼ばれる色つきの紙を使用して、歯の噛み合わせのあたりの強さを判断しますが、患者さんの感覚を聞きながら調整します。
治療後の噛み合わせに違和感が残る場合には、歯科医院で咬合調整を再度行うことで改善する可能性があります。
二次齲蝕
インレーの亀裂や欠けを放置していた場合、そこから齲蝕病原菌が侵入し二次齲蝕を引き起こしている可能性があります。
二次齲蝕が進行していた場合、インレー体を除去して感染歯質を除去したのち、再度インレーを作り直す必要があります。
インレーの亀裂・欠け
インレーは材料の違いにより、脆性や辺縁封鎖性が異なります。
金属材料を使用するメタルインレーで、亀裂や欠けが生じることはまれですが、セラミック材料のみを使用したセラミックイレーでは脆性が高いため、亀裂や欠けが生じやすくなります。
金属材料を使用するメタルインレーの場合は、ベベルと呼ばれる窩縁形態を付与します。ベベルはメタルインレーが窩洞形成の際、窩洞辺縁部のエナメル質に角度をつけて少量切削することで付与される形です。ベベルを付与された窩洞の辺縁部には、メタルインレーの薄い辺縁部分がしっかりと覆うことになり、メタルインレーの辺縁封鎖性が増し、エナメル質も保護されます。
一方、レジンインレーやセラミックインレーでは窩縁形態の付与は行いません。これはレジンやセラミック材料は金属材料と比較して脆いため、十分な厚みを必要としているためです。
特に、大臼歯部は咬合圧が最もかかる部位であるため、レジンやセラミックインレーの辺縁部分をメタルインレーのように薄くしてしまうと、インレー体自体に亀裂や破壊が生じる恐れがあります。
インレー体に亀裂や破壊が生じると、二次齲蝕の原因になるだけでなく、再治療・インレー体の再作製の必要が生じ、患者さんへの負担も増大します。
対合歯の擦り減り
ジルコニアなどを使用したセラミックインレーは、天然歯のエナメル質よりも硬度が高いため、修復部位と噛み合う歯が次第に擦り減っている可能性があります。
ハイブリッドセラミックなど少し柔らかい材料を使用することで、そのリスクを軽減することができます。
知覚過敏
冷水痛の原因として、知覚過敏が挙げられます。
知覚過敏はエナメル質に覆われている象牙質部分が何らかの理由で露出し、冷たい飲み物などを飲んだ際にしみる症状を指します。
知覚過敏の多くは、歯周病の進行や歯の咬耗により生じるため、インレー治療以外の治療が必要となります。
【まとめ】詰め物(セラミックなど)の歯がしみる原因と治療
ここまで、インレー治療における痛みとその原因について解説してきました。
特に気を付けていただきたいのは、治療後に噛み合わせの違和感や痛みが消えない場合だけでなく、インレーの欠けや破壊が起こった場合です。
特に、インレー下で進行する二次齲蝕は見た目で判別することは難しく、X線診査を行わなければ確定診断ができないものもあります。
知らず知らずのうちに齲蝕が進行し、インレー修復治療で済むはずの歯が、歯の神経までだめになってしまうのは非常にもったいないことです。また、そういった違和感や痛みを放置しておくと、顎関節症や対合歯の咬耗など別の疾患に繋がる危険性もあります。
治療した歯を守るだけでなく合併症を防ぐためにも、定期的に歯科医院を受診し、歯の健康を保つように心がけることが重要です。
参考文献
公益社団法人日本医療機能評価機構. Mindsガイドラインライブラリ, 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性 CQ16 コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にベベルは必要か。