虫歯治療で詰め物(インレーやアンレー)をした後、「冷たいものがしみる」「噛むと痛い」といった症状が出て不安を感じる方は少なくありません。特に保険適用外のセラミックなどの高額な治療を受けた場合、多少の痛みで「様子を見よう」と歯科医院の受診をためらってしまう方もいるかもしれません。
しかし、その「しみる」症状を放置すると、詰め物の下で虫歯が進行し(二次齲蝕)、さらに大掛かりな治療が必要になる可能性があります。
この記事では、詰め物(セラミックなどのインレー・アンレー)をした歯がしみる・痛む原因と、それぞれの適切な治療法を詳しく解説します。
この記事を読むことで、詰め物後に歯がしみる症状の根本的な原因と、適切な対処法を理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
こんな疑問が解決
- 詰め物をした直後にしみるのはなぜ?放っておいても大丈夫?
- 治療から数年後に急にしみ始めた原因は?
- セラミックの詰め物に変えたのに、以前よりしみる気がするのはなぜ?
- 詰め物が合わないと感じたときはどうすればいい?
- 二次齲蝕(詰め物の下の虫歯)とは何か、どうやって防ぐのか?
目次
インレー治療後に歯がしみる・痛みが出る原因
インレー治療後の歯がしみる・痛みが出る原因として、以下のものが考えられます。
治療中・治療直後の痛み
- 一時的な神経の過敏
- 適合性の悪いインレーを修復治療に用いた
治療後に時間が経っている場合の痛み
- 二次齲蝕
- インレーの亀裂・欠け
- 対合歯の擦り減り
- 知覚過敏
一時的な神経の過敏
インレー治療は感染歯質を確実に除去し、インレーの材料・大きさに合った適切な窩洞を形成することが重要です。
感染歯質が多く、齲蝕が歯髄付近にまで進行している場合には、より多くの歯質を切削する必要があります。その際、切削器具の振動や熱により歯髄が刺激され、歯が一時的にしみたり、痛みが生じる場合があります。多くの場合、個人差はありますが1週間ほどで痛みは落ち着きます。
また、メタルインレーの場合、熱伝導性がセラミックインレーよりも高いため、治療直後に熱いもの・冷たいものを食べたり飲んだりすることは避けるのがよいでしょう。
適合性の悪いインレーを修復治療に用いた
インレー体の適合が悪い(削った歯の窩洞とぴったり合わない)と、インレーの脱落、噛み合わせの変化、咬合時の痛み、顎関節症などを引き起こす可能性があります。
インレー体や辺縁部の適合性が良いとインレーの浮き上がりや沈下もなく、噛み合わせに違和感が生じにくくなり、接着性も向上してインレーが長持ちします。また、インレー合着後は咬合調整という作業を行い、歯の噛み合わせを調整します。咬合紙と呼ばれる色つきの紙を使用して、歯の噛み合わせのあたりの強さを判断しますが、患者さんの感覚を聞きながら調整します。
治療後の噛み合わせに違和感が残る場合には、歯科医院で咬合調整を再度行うことで改善する可能性があります。
二次齲蝕
インレーの亀裂や欠けを放置していた場合、そこから齲蝕病原菌が侵入し二次齲蝕を引き起こしている可能性があります。二次齲蝕が進行していた場合、インレー体を除去して感染歯質を除去したのち、再度インレーを作り直す必要があります。
インレーの亀裂・欠け
インレーは材料の違いにより、脆性や辺縁封鎖性が異なります。
金属材料を使用するメタルインレーで亀裂や欠けが生じることはまれですが、セラミック材料のみを使用したセラミックイレーでは脆性が高いため、亀裂や欠けが生じやすくなります。
金属材料を使用するメタルインレーの場合は、ベベルと呼ばれる窩縁形態を付与します。ベベルはメタルインレーが窩洞形成の際、窩洞辺縁部のエナメル質に角度をつけて少量切削することで付与される形です。ベベルを付与された窩洞の辺縁部には、メタルインレーの薄い辺縁部分がしっかりと覆うことになり、メタルインレーの辺縁封鎖性が増しエナメル質も保護されます。
一方、レジンインレーやセラミックインレーでは窩縁形態の付与は行いません。これはレジンやセラミック材料が金属材料と比較して脆いため、十分な厚みを必要としているためです。特に大臼歯部は咬合圧が最もかかる部位であるため、レジンやセラミックインレーの辺縁部分をメタルインレーのように薄くしてしまうと、インレー体自体に亀裂や破壊が生じる恐れがあります。
インレー体に亀裂や破壊が生じると二次齲蝕の原因になるだけでなく、再治療・インレー体の再作製の必要が生じ、患者さんへの負担も増大します。
対合歯の擦り減り
ジルコニアなどを使用したセラミックインレーは、天然歯のエナメル質よりも硬度が高いため、修復部位と噛み合う歯が次第に擦り減っている可能性があります。ハイブリッドセラミックなど少し柔らかい材料を使用することで、そのリスクを軽減することができます。
知覚過敏
冷水痛の原因として、知覚過敏が挙げられます。
知覚過敏はエナメル質に覆われている象牙質部分が何らかの理由で露出し、冷たい飲み物などを飲んだ際にしみる症状を指します。知覚過敏の多くは歯周病の進行や歯の咬耗により生じるため、インレー治療以外の治療が必要となります。
【まとめ】詰め物(セラミックなど)の歯がしみる原因と治療
詰め物(セラミックなどのインレー・アンレー)をした歯がしみる・痛む症状の原因と対処法について詳しく解説しました。
この記事で、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。
この記事のおさらい
- 詰め物治療後の痛みには、「治療直後の過敏」と「時間が経ってからの二次的な問題」の2種類がある
- 治療直後の痛みは、一時的な神経の過敏やインレーの適合性が原因の場合があり、多くは数日で治まる
- 時間が経ってからのしみる症状は、二次齲蝕、インレーの亀裂・欠け、対合歯の擦り減り、知覚過敏など様々な原因が考えられる
- 特に二次齲蝕は、詰め物の下で虫歯が進行している状態であり、早期の治療が必要不可欠である
- 違和感や痛みを放置せず、できるだけ早く歯科医院で診察を受けることが、歯の健康を守る上で最も重要である
詰め物をした歯の「しみる」「痛い」といったサインは、歯が発しているSOSかもしれません。「治療したばかりだから」「高額なセラミックだから」といった理由で我慢せず、少しでも違和感を感じたら歯科医師に相談し、原因を特定してもらいましょう。
特に気を付けていただきたいのは、治療後に噛み合わせの違和感や痛みが消えない場合だけでなく、インレーの欠けや破壊が起こった場合です。インレー下で進行する二次齲蝕は見た目で判別することは難しく、X線診査を行わなければ確定診断ができないものもあります。
知らず知らずのうちに齲蝕が進行し、インレー修復治療で済むはずの歯が歯の神経までだめになってしまうのは非常にもったいないことです。また、そういった違和感や痛みを放置しておくと、顎関節症や対合歯の咬耗など別の疾患に繋がる危険性もあります。
治療した歯を守るだけでなく合併症を防ぐためにも、早期の適切な診断と治療、定期的な歯科医院の受診が大切な歯を長く健康に保つための鍵となります。
参考文献
公益社団法人日本医療機能評価機構. Mindsガイドラインライブラリ, 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性 CQ16 コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にベベルは必要か。

