セラミックを使った治療法は、審美性の高い歯科治療としてよく知られています。
その反面、セラミックを使った治療法は、保険診療の適応を受けておらず、治療費は大変高額になります。
セラミックを選ぶかどうかの判断基準はさまざまですが、寿命もそのひとつです。
そこで今回は、セラミックの補綴治療の特徴や寿命、セラミックの予後に関係する因子などについてお話しします。
目次
セラミック治療のメリット
まず、セラミックを使った歯科治療のメリットについてお話しします。
審美性が高い
セラミック補綴物は、天然歯に匹敵する色合いや透明感を再現できます。
補綴治療がなされていることがわからないほどの審美性の高さを有しています。
化学的安定性が高い
セラミックは化学的に安定した材料で、金属材料でしばしばみられる酸化や腐蝕を起こすことがありません。
そのセラミックで作られたセラミック補綴物も、セラミック材料の化学的性質を受け継いでいますので、変色することがありません。
プラークがつきにくい
セラミック補綴物は、保険診療の金属補綴物やコンポジットレジンと比べてプラークがつきにくいです。
セラミック治療のデメリット
セラミックを使った歯科治療にはデメリットもあります。
治療費が高額
セラミック補綴物の治療は、保険診療の給付の対象外です。
陶材焼付鋳造冠で1本あたり8〜10万円、オールセラミッククラウンで1本あたり10〜15万円と高額です。
破損のリスクがある
セラミックはたいへん硬い材料なのですが、曲げ強度が弱いため破損しやすい傾向があります。
セラミック補綴物の種類
セラミック補綴物には、形状によってクラウンやインレーなどさまざまなタイプがあります。
陶材焼付鋳造冠
陶材焼付鋳造冠は、ポーセレンの審美性と金属の強さを兼ね合わせたセラミッククラウンです。
ポーセレンの強度不足を金属で補強しているのが特徴ですが、透明度が全くない金属を内面フレームに用いているため、ポーセレンの透明度が損なわれてしまいます。特に支台歯形成時の削除量が少ないとポーセレンの厚みが不足するため、その傾向がより顕著になります。
しかし、保険診療のコンポジットレジン系の補綴物と比べると、その審美性はたいへん高いです。
オールセラミッククラウン
オールセラミッククラウンは、内面フレームにセラミック素材の一種であるジルコニアを採用し、その外面を専用のポーセレンで形成したセラミッククラウンです。
陶材焼付鋳造冠の金属フレームの強度をジルコニアで代替し、ポーセレンの審美性の高さを損なわないようにしているのが特徴です。すなわち光透過性を有するジルコニアを使うことで、陶材焼付鋳造冠より透明感が高くなり、より天然歯に近い仕上がりになります。
審美性の高さが利点ですが、ジルコニアの加工が難しいため、陶材焼付鋳造冠と比べると高額です。
オールセラミッククラウンのメリットとデメリットとは?他の材質との違いについても解説
セラミックインレー
インレーは、咬合面の裂溝部分を中心とした補綴物です。
全部被覆冠、つまりクラウンと比べると被覆面積が狭いため保持力が低くなりますが、健全歯質の保存量が多いのが利点です。
セラミックインレーは、材料にセラミックを使ったインレーです。
セラミックインレーは保険診療の金属インレーと比べて、審美性がたいへん高いのが利点ですが、破折の可能性が高いです。
破折の防止と保持力の向上という相反する条件を満たさなければならず、技術的に難度が高いのが難点です。
セラミックインレーのメリット・デメリットとは?種類と他の素材との違い
保険診療の適応を受けた補綴治療について
一方、保険診療ではどのような補綴治療が選択できるのでしょうか。
コンポジットレジン
コンポジットレジンは、マトリックスレジン、フィラー、重合触媒、着色剤を主成分とした歯科材料です。
歯の色に近似した色調をしているのが特徴です。
C1〜C2程度の齲窩にダイレクトボンディングで充填することもあれば、レジン前装冠として前歯部の補綴治療に応用されることもあるなど、歯科治療で広く利用されています。
色調こそ歯の色に近似していますが、セラミックのような透明感がないため、人工物感は残りますし、次第に黄色く変色したり、表面が粗造化していくという欠点もあります。
全部鋳造冠
全部鋳造冠とは、歯全体を覆う補綴物のことです。
一般的には銀歯として知られています。
材料である金銀パラジウム合金は、腐蝕や酸化を起こしにくく、欠けたり割れたりすることもない安定性の高さが利点です。
一方、歯と全く異なる銀色を呈しているため、審美性に劣ります。
CAD/CAM冠
CAD/CAM冠は、近年保険診療に導入された比較的新しいタイプの全部被覆冠です。
CAD/CAM冠にはセラミック系もありますが、保険診療で導入されたのはコンポジットレジン系のCAD/CAM冠です。
セラミックやコンポジットレジンのブロックをコンピューターで制御された工作機械を使って、削り出して製作するのが特徴です。
保険診療のCAD/CAM冠は、コンポジットレジンで作られていますので、歯の色合いに近似した色調を呈しています。
その一方、コンポジットレジン故に強度に難点があり、咬合圧により破折することもあります。また、外れやすい傾向も指摘されています。
金属インレー
保険診療のインレーは、金銀パラジウム合金で製作されます。
材料特性としては、全部鋳造冠と同様で、腐食や酸化といった化学変化を起こしにくい一方、審美性に難点があります。
セラミック補綴物の応用
セラミック補綴物を、単に齲蝕症や破折歯の補綴に用いるだけでなく、矯正治療に応用することもあります。
セラミック矯正です。
セラミック矯正は、歯を移動させることなく、支台歯形成ののちセラミッククラウンを装着することで、歯列不正を改善する矯正治療です。
クラウンを用いることから補綴矯正に分類されています。
セラミック補綴物の寿命
セラミックは化学的に安定した材料なので、破折や損傷を除けばセラミック補綴物自体の寿命はありません。
適切に管理さえすれば、色調の変化や経年劣化もきたしませんので、十年単位で維持も可能です。
保険診療の補綴物の寿命
保険診療では、前述したようにコンポジットレジンや金銀パラジウム合金を使った補綴物が用いられています。
コンポジットレジンは、熱と紫外線により素材が劣化します。また、長期的にはフィラーが脱落するため次第に表面が粗造になってきます。口腔内での暴露時間によって異なりますが、数年で症状が現れてきます。
金銀パラジウム合金は、腐蝕や酸化を起こしにくいですが、表面にプラークがつきやすい傾向があります。そのため、二次齲蝕のリスクが高まり、結果的に金銀パラジウム合金で作られた補綴物が脱落する原因になります。
金銀パラジウム合金製の補綴物、コンポジットレジン系素材で作られたCAD/CAM冠ともに、少なくとも2年程度の期間は、脱離や破損をきたさないことを目標に製作されています。
セラミック補綴物の予後に関係する因子
セラミック補綴物の寿命、つまり予後に関係する因子はいくつかあります。
不良習癖
不良習癖とは、補綴物や歯周組織などに有害作用を及ぼす習癖です。
セラミック補綴物に直接的に作用する不良習癖は、ブラキシズムやクレンチングが代表的です。
近年、TCH(歯牙接触癖:Tooth Contact Habit)の有害性も指摘されています。
外傷
転倒や交通事故などにより外傷性の歯の打撲をきたした場合、外力がセラミック補綴物に集中するとそれが原因となり、セラミックが破折することがあります。
二次齲蝕
セラミック補綴物の内側に二次齲蝕が発生すると、セラミック補綴物の適合性が低下し、脱離することがあります。
咬合干渉
早期接触や滑走運動時の咬合接触の不調和などを咬合干渉と言います。
咬合干渉を起こすと、咬合面に均等に咬合圧が加わらなくなり、集中的に咬合圧が加わる部分が生じてしまいます。そのため、セラミック補綴物が破損する原因となります。
セメントの溶出
補綴物を支台歯に固定するセメントは、唾液に少しずつ溶出していきます。
早ければ、2〜3年で脱離するほどに溶出することもあります。
歯肉退縮
歯肉退縮とは、歯肉縁が下がる現象です。
歯周病でない健康な歯肉でも、1年間に0.2㎜は下がるという研究結果もあります。すなわち、歯肉退縮は加齢的に生じる生理的な現象とみることもできます。
歯肉退縮自体はセラミック補綴物の破損や脱落に関係しませんが、歯根露出を生じることで審美性を損なう因子となります。
セラミック補綴物の予後対策
ではセラミック補綴物装着後の経過を改善するには、どのような方法があるのでしょうか。
プラークコントロール
齲蝕や歯周病の原因菌が潜むプラークを取り除くことは、セラミック補綴物の二次齲蝕や歯周病予防の点からとても重要です。毎食後のブラッシングでセラミック補綴物の唇側面や頬側面だけでなく、隣接面まで清掃しプラークを除去しましょう。
プラークが石灰化したものが歯石ですが、歯石の表面はとても粗造なために、新たなプラークが付着する温床となっています。歯石はブラッシングでは除去できませんので、歯科医院でのスケーリングやルートプレイニングが必要です。スケーリングやルートプレイニングもプラークコントロールに欠かせません。
プラークコントロールは、セラミック補綴物の二次齲蝕や歯周病を予防し、セラミック補綴物の予後を改善する基本とも言える重要な対策です。
不良習癖の除去
ブラキシズムやクレンチングだけでなく、TCHへの対策としては口腔内装置、いわゆるマウスピースが効果的です。
マウスピースを装着すると、セラミック補綴物に加わる過剰な咬合力が分散されますので、セラミック補綴物の破損のリスクを軽減できます。
咬合調整
歯は少しずつ動いているため、セラミック補綴物装着当初の咬合状態がいつまでも保たれるわけではありません。
時間の経過とともに、当初みられなかった咬合干渉が発生する可能性があります。
そこで、定期的に歯科医院で咬合状態を確認し、必要に応じて咬合調整を受けるのも、セラミック補綴物の予後を改善する方法のひとつです。
【まとめ】セラミック歯の寿命とダメにしてしまう原因・対策
今回は、セラミック補綴物の寿命や予後に関係する因子などについてお話ししました。
セラミックは、化学的に安定した材料なので、適切に維持管理さえすれば、10年単位での維持も可能です。しかし、不良習癖や外傷、二次齲蝕などの発生を認めた場合は、その限りではありません。
定期的な維持管理を通して、セラミック補綴物の長期維持を図ることが大切です。