歯科治療が終わった後、定期検診を受診することが推奨されています。
治療が終わり自覚症状もなくなっているのに、どうして再度の受診が勧められているのでしょうか。
実は、定期検診にはさまざまなメリットがあります。
このコラムでは、歯の定期検診についてお話しします。
目次
歯の定期検診について
まずは、歯の定期検診についてご説明します。
目的
歯の定期検診の目的は、齲蝕症や歯周病などの歯科疾患の発症を予防すること、そして発症していた場合に早期発見することで、早期治療ができるようにすることです。
方法
歯の定期検診は、主に次の流れで行っていきます。
①問診
問診では、自覚症状の有無に加え、食事や喫煙の有無、ブラッシングの回数、歯ブラシなどのケアグッズの使用状況などを確認します。
②検査
定期検診での検査としては、齲蝕症や歯周病の有無を中心に調べます。
視診や触診に加え、必要に応じてレントゲン写真も撮影します。また歯周病の検査では、歯周ポケットの深さや上下顎の咬合関係も測定します。
そして、歯磨きすなわちプラークコントロールの状況を確認するために、プラークの付着状況を染色して調べます。プラークを染め出した結果は、プラークコントロールレコード(PCR)で評価します。プラークコントロールレコードでは、まず歯を4面に分割し、プラークが染め出された面数がどれくらいあるかを調べます。続いて、歯の数を4倍することで、生えている歯の総面数を算出します。染め出された面数を、歯の総面数で割ります。プラークコントロールレコードを考案したオレリー(O’Leary)は10%以下を正常としましたが、一般的には20%以下を目標とします。
③生活習慣指導
齲蝕症や歯周病に代表される口腔内疾患の発症には、生活習慣も関係しています。
食生活やブラッシング習慣だけでなく、口呼吸などの癖についても、必要に応じて指導します。
④TBI
TBIは、Tooth Brushing Instructionの略で、ブラッシング指導のことです。
受診された方々の歯や口腔内の状態、磨きにくいと思われる箇所、被せ物や詰め物の種類や状態などにより、適切な歯磨きの方法は異なります。
歯科医院では、各自に適した歯ブラシや歯間ブラシ、デンタルフロスを紹介します。同時に、それらを使った効果的なブラッシング方法を説明することで、プラークコントロールレコードが20%以下になるようにします。
⑤スケーリング・ルートプレーニング
スケーリングは、歯の表面についた歯石やプラーク、その他の汚れをスケーラーという器械で取り除く処置です。
ルートプレーニングは、歯周病になった歯根の表面だけでなく表層に入り込んだ歯石やプラークなどを取り除く処置です。
いずれも、日常の歯磨きでプラークコントロールがしやすい状態にすることを目的に行われます。
⑥PMTC
PMTCは、Professional Tooth Mechanical Tooth Cleaningの略です。
歯科医師や歯科衛生士が、専用の器械を使って歯の表面をツルツルした状態に磨く処置です。歯の表面をツルツルにすることで、プラークが付着しにくくします。
⑦フッ化物応用
歯の表面からプラークや歯石を取り除いたのち、フッ化物の歯面塗布を行います。
歯面塗布の方法は、“綿球による歯面塗布法” “イオン導入法”などがあり、歯科医師や歯科衛生士が行います。
定期検診の頻度
一度、歯科で定期検診を受けても、しばらくするとプラークや歯石が再び付着するようになります。したがって、定期的に受ける必要があります。
プラークコントロールの状況にもよって違いがありますが、プラークは早ければ3か月程度で再生しますので、おすすめする定期検診の頻度は3〜6か月に1回程度です。
定期検診のメリット
歯の定期検診にはさまざまなメリットがあります。
歯科疾患の予防
齲蝕症や歯周病など歯科疾患の発症には、歯の表面についたプラークが大いに関係しています。
定期検診を受けて、プラークやプラークが付着する温床となる歯石を除去すると、さまざまな歯科疾患の発症が予防できます。
歯科疾患の早期発見
齲蝕症や歯周病は、初期段階では自覚症状がない場合が大半です。
疼痛や腫脹などの自覚症状が認められたときには、ある程度症状が進行してしまっています。定期検診を受けると、齲蝕症や歯周病を初期段階で発見でき、早期の治療が受けられます。
歯の寿命の改善
齲蝕症や歯周病などの歯科疾患の予防を図るだけでなく、発症の初期段階で発見することにより、疾患の重篤化を防げます。
齲蝕症や歯周病は、進行すると不可逆性の経過を辿ることがほとんどなので、予防や早期発見により、歯の寿命の改善が期待できます。
健康寿命の改善
生活習慣病と歯周病などの歯科疾患の間には、密接な関係があることが指摘されています。
例えば、糖尿病です。歯周病になると、糖尿病のコントロールが悪化します。
口腔内のプラークは、肺炎のリスクも高めています。
定期検診を受けて、歯周病などの歯科疾患を適切に予防することは、全身疾患の改善につながり、健康寿命にも良い影響を与えます。
口臭の予防
口臭の原因のほとんどは、口腔内の細菌です。
ブラッシングで取りきれないプラークや、歯周ポケットの深部、歯石の裏側などに潜んでいます。
定期検診を受けて、プラークや歯石を除去すると、口腔内の細菌も減少させられますので、口臭の改善や予防効果が得られます。
歯科医療費の削減
齲蝕症や歯周病を初期段階で発見できるため、治療が短期間で終了します。
例えば、齲蝕症であれば、麻酔抜髄や補綴物が必要なく、充填治療で終わるため、治療費を抑えることができます。
歯周病も同様です。歯周病を初期段階で治療できるため、歯周外科処置や固定が必要なく、治療期間も治療費も減らせます。
定期検診のデメリット
さまざまなメリットがある反面、定期検診にはデメリットもあります。
時間がかかる
問診や検査を行い、スケーリングやルートプレーニングをして、フッ化物応用までするわけですから、一回あたりの診療時間が長くならざるを得ません。
口腔内の状況によって違いがありますが、30〜60分くらいかかります。
定期的な受診が必要
先にお話しした通り、プラークや歯石は一度取り除いても、時間の経過とともに再発します。したがって、定期的に受ける必要があることもデメリットに含められます。
定期検診の料金
定期検診にかかる費用は、一定ではなく歯の本数によって異なります。
健全な状態であれば、歯は上下左右で28本ありますので、この状態を費用算出の基準にします。
また、費用は、保険の標準的な給付割合である3割負担で算出しています。
検査は、歯周組織検査が600円です。
歯科衛生士によるプラーク染色とブラッシング指導は240円です。
スケーリングとルートプレーニングはおよそ800円、PMTCは210円です。
このほかに、初診料や再診療、必要に応じてレントゲン写真撮影が加わります。
【まとめ】歯の定期検診に行かないとどうなる?おすすめの通院頻度や費用についても解説
今回は、歯科での定期検診についてご説明しました。
口腔内に何らかの自覚症状がなくても、定期検診を受けると、“歯科疾患の予防”、“歯科疾患の早期発見・早期治療”、“歯科治療費の削減”などの多くの効果が得られます。
確かに、“処置時間が長い”や“定期受診の必要性”などのデメリットもあります。
メリットとデメリットを比較すると、メリットの方が明らかに大きく、歯の健康、さらには全身の健康のためにも、定期検診が推奨されます。