親知らずの抜歯を検討する際、「親知らずを抜いたら小顔になるのか?」という疑問や期待を持つ方は多いのではないでしょうか。中には、美容目的で親知らずを抜歯しようと考えている方もいるかもしれませんが、実際のところ親知らずの抜歯が小顔に与える影響はあるのでしょうか。
親知らずは正常に生えないことが多く、歯並びの乱れや痛みの原因になることがあります。また、親知らずの抜歯には骨を削る処置が必要なケースもあり、誤った情報に振り回されるのは避けたいものです。
この記事では、親知らずの抜歯と小顔効果について詳しく解説します。
この記事を読むことで、親知らずの抜歯が小顔にどのような影響を与えるかを理解でき、以下のような疑問や悩みを解決します。
こんな疑問が解決
- 親知らずの萌出異常について
- 親知らずを抜歯すると小顔になるの?
- 小顔効果が期待できるケース
- 親知らずの抜歯の術式
- 親知らずを抜歯する際のリスク
目次
親知らずについて
親知らずは、正式には第3大臼歯とよばれる最も奥に萌出してくる歯のことです。萌出する年齢が10代後半から20代前半なので、親が萌出したことに気が付かないことから、このように呼ばれるようになったと言われています。
なお、英語ではwisdom toothといい、知恵がついた年頃に萌出してくる歯という意味になります。日本語での智歯という別名にも、この意味合いが含まれています。なお、第3大臼歯は前から数えて8番目の歯なので、歯科医療関係者は8(はち)番とよびます。
萌出異常が多い
親知らずはそのほかの歯と異なり、きちんと萌出している例は少なく、水平埋伏状態だったり、遠心傾斜していたりします。
一見すると垂直に萌出しているように見えても、歯冠の遠心面が歯肉に被覆されていることが大半で、ほとんど全ての親知らずに萌出異常を認めます。これは旧石器時代や縄文時代の古代人の人骨の化石にも認められており、人類はそれほど前から親知らずがきちんと萌出しないことに悩まされてきたようです。
萌出異常の原因
萌出異常の原因は親知らずが萌出する年頃ではすでに顎骨の成長発育が完了しており、萌出に合わせて顎骨が拡大し得ないことにあります。もちろん、親知らずが萌出するまでに顎骨が十分成長発育していれば問題ありません。
しかし、人類は100万年ほど前に火を使って食べ物を調理することを覚えてから、食べ物が軟らかくなり、咀嚼の仕事量が減少しました。それ以降も、食事に用いるさまざまな道具の開発と改良により、ますます咀嚼の頻度が減少しています。このような経過により人類の顎骨は小さくなり、顔立ちまでも変化するようになりました。
ところが、歯は生物の中で最も安定しており、歯が変化するには数百万年ほどの年月が必要と考えられています。そのため、顎骨の急速な変化に歯が追いつかず、親知らずの萌出スペースの不足をきたすようになったというのが有力な理論です。
小顔について
小顔かどうかを判断する際に定められた基準はありませんが、ひとつの基準としてはA5サイズの紙の大きさよりも小さな顔と言われています。ただし、性別や身長によって違いがあります。
男性では縦×横=19×13㎝以下、女性では縦×横=18×16㎝以下とされています。また、身長との比較では8頭身以上が理想となります。
親知らずの抜歯による小顔化効果
残念ながら、親知らずを抜歯しても小顔になる効果は期待できません。
顔貌の正面写真と頭部正面のレントゲン写真を重ね合わせると、下顎骨が小さければ小さいほど小顔になることがわかります。特に影響するのが、両側の下顎角間の距離です。
ところが、親知らずを抜歯しても下顎骨の形やサイズが変わるわけではないため、親知らずを抜歯しても、小顔になる効果は生じないのです。
親知らずを抜歯する理由
親知らずは他の歯と違い、多くの場合抜歯となります。
水平埋伏
下顎骨の骨体部の前後的スペースが不足する場合によく生じるのが水平埋伏や近心、もしくは遠心への傾斜埋伏です。
上顎の親知らずの場合でも萌出スペースが不足する場合、水平埋伏をきたすことがあります。水平埋伏状態にある親知らずは、きちんと萌出することができないため抜歯するほかありません。
嚢胞形成
埋伏状態にある親知らずの歯冠に、嚢胞という内部に液状物質を含む病変を形成することがあります。これを含歯性嚢胞といいます。
含歯性嚢胞は、摘出術が第一選択です。多くの場合、原因となる親知らずも同時に抜歯します。
智歯周囲炎
親知らずの周囲歯肉に腫脹や疼痛などの炎症症状を認めるのが、この智歯周囲炎です。
智歯周囲炎は歯周病の一種ですが、位置的にブラッシング困難であり、比較的高頻度に生じること、組織隙との位置関係から重篤化しやすいことなどから、この病名がつけられています。
う蝕症
親知らずも、う蝕症になることがあります。他の歯と異なり、う蝕症になった親知らずは多くの場合、抜歯となります。
親知らずを抜歯すると小顔になるかもしれない特徴
あまり期待できませんが、少しでも可能性があるのは以下のような方です。
下顎角
下顎角とは、下顎体と下顎枝によって形作られている下顎の角のことで、エラとよばれています。
下顎管よりも下方に埋伏しており、かつ下顎角に近い親知らずの場合、抜歯時の骨削除の量によっては、下顎角部分の骨量が減少し、小顔になる可能性があります。
頬骨弓
上顎の親知らずは頬骨弓の後端付近にあり、咬筋が付着しています。
頬骨弓の付着部位の咬筋の筋量が多い方の場合、上顎の親知らずを抜歯した結果、少しでも減少すれば、小顔になる可能性も否定できません。
咬筋
咬筋の発達している方で、上顎骨もしくは下顎骨の親知らずを抜歯したのち、咬筋の筋量が減少すれば、小顔にできるかもしれません。
親知らずの抜歯の術式
親知らずの抜歯の術式は、以下の3通りとなります。
普通抜歯術
顎骨に対し垂直方向に萌出しており、かつ歯根の形態が単純な場合は、抜歯鉗子で把持するなどして他の歯と同じように抜歯することができます。
難抜歯術
難抜歯術とは、親知らずの歯根に肥大、もしくは湾曲が認められる場合や、歯根と骨が癒着している場合に、骨削除や歯根分離術などを併用する抜歯のことです。
埋伏抜歯術
埋伏歯とは、歯間の2/3以上が骨内に埋伏している歯のことです。
親知らずの場合、水平埋伏していることが多いですが、局所麻酔下でできる抜歯術です。水平埋伏智歯の場合、局所麻酔ののち、歯肉を切開して歯肉弁を形成、歯冠を明示します。歯冠部が骨で被覆されている場合は、歯冠の最大豊隆部まで歯槽骨を削除します。そして、歯冠を分割して摘出、その後歯根も同様にして摘出します。歯肉弁を戻して縫合して閉鎖します。
口腔外からの抜歯術
下顎管より下方で、下顎角付近に埋伏している親知らずの抜歯は、口腔外からアプローチして抜歯します。侵襲性がたいへん高く、全身麻酔下での抜歯となります。
親知らずの抜歯のリスク
親知らずの抜歯には、以下のようなリスクが伴います。これらは、いずれも偶発症と考えられており、ある一定の確率で発生しうるものです。
神経麻痺
下顎の親知らずの場合、根尖付近に三叉神経の第三枝である下顎神経が走行しています。また、舌側には舌神経が走行しています。これらの神経は、いずれも感覚をつかさどる知覚神経です。
抜歯の際に下顎神経や舌神経を傷害すれば、知覚神経麻痺・鈍麻を引き起こすリスクがあります。
抜歯後治癒不全
通常の治癒過程では、抜歯窩は血餅で満たされます。ところが、出血量が少ない、周囲骨の血流が少ない、血餅の脱落など何らかの理由で抜歯窩が血餅で満たされないことがあります。血餅で満たされない抜歯窩は、骨が露出した状態となります。これを抜歯後治癒不全といいます。
親知らずの抜歯では、その他の歯と比べると抜歯後治癒不全の発生頻度が高い傾向があります。
根尖迷入
下顎の親知らずを抜歯したとき、舌側の皮質骨が菲薄ですと、破折した根尖が口腔底に迷入するリスクがあります。また、上顎の親知らずの抜歯では、上顎洞に迷入するリスクがあります。
知覚過敏症
親知らずが、隣接する第二大臼歯の遠心に密に接している場合、親知らずを抜歯することにより生じる空隙を通して、第二大臼歯が知覚過敏症を起こす可能性があります。
口角炎
親知らずを抜歯するためには、かなり大きく開口しなければならないため、口角が上下に牽引されます。これにより、口角の皮膚が損傷し、口角炎を引き起こすリスクがあります。
気腫
気腫は、エアータービンでの歯冠分割時に起こることが多いです。
【まとめ】親知らずの抜歯で小顔になる?効果が期待できる特徴も解説
親知らずの抜歯による小顔効果への関連性について解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。
この記事のおさらい
- 親知らずを抜歯しても、小顔効果が期待できるケースは限定的
- 親知らずの抜歯は、う蝕症や智歯周囲炎などのトラブルを防ぐメリットがある
- 顎の骨を削る場合や咬筋の減少が伴う場合にのみ、小顔効果が現れる可能性がある
- 抜歯の術式には普通抜歯術、難抜歯術、埋伏抜歯術などがある
- 親知らずの抜歯には神経麻痺や治癒不全などのリスクが伴う
親知らずの抜歯は、トラブルを防ぐために行われることが多い処置です。そのため、特定の条件下ではわずかな小顔効果が現れる可能性もありますが、「小顔になりたい」という目的では効果が期待できないケースがほとんどです。
親知らずの抜歯は侵襲性の高い抜歯となることが多く、抜歯の適応や可否などを十分に検討して抜歯が必要と考えられる症例に対して行うことが原則です。親知らずの抜歯は小顔効果への期待ではなく、将来的な口腔トラブルを防ぐことを重視しましょう。
気になる症状がある場合は歯科医師とよく相談し、納得した上で治療に臨んでください。