矯正治療の主流だったマルチブラケット法に代わる新しい矯正治療法として、アライナー(マウスピース)を用いた矯正治療が普及しつつあります。
アライナー法では、マウスピースを定期的に新しいものに交換することで歯を移動させ、歯並びを整えていきます。この矯正治療法で最も高いシェアを有しているのが、インビザラインです。
インビザラインには成人向けだけでなく、小児向けのインビザライン・ファーストという製品もあります。
このコラムでは、このインビザライン矯正について、成人用と子供用に分けて特徴をご紹介します。
目次
インビザラインについて
まず、インビザラインによる矯正治療についてご紹介していきます。
インビザライン
インビザラインは、アメリカのアライン・テクノロジー社によって20数年前に開発されたアライナー型矯正装置を用いた矯正治療法です。日本市場への参入は15年ほど前になります。
インビザラインの特徴は、クリンチェックとよばれるコンピューターシミュレーションです。歯の移動をコンピューター上でシミュレーションし、マウスピースの形や個数を決定します。
そして、アライン・テクノロジー社の工場で交換分も含めてマウスピースを製造します。インビザラインのマウスピースは、オーダーメイドですが工場でのコンピューター管理のもとで作られていますので、精度も品質も高く仕上がっています。
インビザラインでは、このマウスピースを用いて、歯を移動させて歯並びを整えます。
インビザライン・ファースト
インビザライン・ファーストは、インビザライン社が開発した10代の混合歯列期に向けた子供用のアライナー型矯正装置です。
混合歯列期の歯列には、萌出途上にある永久歯があります。そこで、インビザライン・ファーストには成人用のインビザラインにはない『萌出途上にある永久歯に対して萌出スペースを確保する仕組み』『過剰萌出を防ぐ仕組み』が備わっています。
なお、詳しくは後述しますが、インビザライン・ファーストには適応条件があり、混合歯列期なら誰でも応用できるというわけではありません。
成人用インビザライン矯正の特徴
成人用インビザライン矯正の特徴をメリットとデメリットの点からご説明します。
メリット
まずは、インビザラインのメリットからご紹介いたします。
目立たない
インビザラインで用いられるマウスピースは、透明度が大変高い上に、厚みも0.5㎜とたいへん薄くなっています。マウスピースを装着していてもわからないほどです。矯正治療を受けていることに気が付かれないほどに目立ちません。
可撤性
マウスピースですから、ご自身で取り外しが可能です。
食事のときだけでなく、食事の後のブラッシングのときにも外すことで、矯正治療を受ける前と同じように日常生活を送ることが可能です。
通院回数の少なさ
インビザラインは、通常2週間おきに新しいものに順次交換していきます。
クリンチェックというシミュレーションソフトのおかげで、矯正治療開始前から治療完了時までの歯の排列位置のシミュレーションが可能です。そして、シミュレーション結果に基づいて、各段階のマウスピースを自動的に製作しています。交換分もあらかじめ渡しておくことで、歯科医院への通院回数を大幅に減らすことができます。
シミュレーション技術
従来のマウスピースを使った矯正治療では、歯科医師が歯の石膏模型を切断し、少しずつ歯を動かしてマウスピースを作っていきました。この方法では誤差も生じますし、将来どのような歯の排列になるのか予測するのは困難です。
インビザラインでは、コンピューターシミュレーションを導入することで、将来予測を的確にしています。
アタッチメント
インビザラインでは、マウスピースだけで動的矯正が難しいケースに対し、歯面に装着するアタッチメントを装着することで、適応症の幅を広げています。
金属アレルギーが起こらない
インビザラインでは金属材料を一切使っていませんので、歯科用金属にアレルギーがある方も問題なく利用できます。
デメリット
インビザラインには数多くのメリットがある反面、デメリットもあります。
自己管理が必須
インビザラインのマウスピースは、1日20時間以上装着することを前提に製作されています。つけ忘れるなどの理由により、装着時間が足りない場合は、治療計画通りの効果が発揮できないこともあります。
症例の幅
歯の圧下や挺出など、垂直方向への歯の移動は難しいです。また、歯の移動は原則的に歯体移動ではなく、傾斜移動となりやすく、抜歯症例のような歯の移動距離の長いケースでは、インビザラインだけでの治療は難しいことがあります。
紛失や破損
マウスピースですから、外した後に紛失したり、破損したりするリスクがあります。
小児用インビザライン矯正の特徴
小児用インビザラインであるインビザライン・ファーストの特徴をメリットとデメリットに分けてご説明します。
メリット
インビザライン・ファーストには、数多くのメリットがあります。
成人のインビザラインと同じ利点
インビザライン・ファーストのマウスピースも、成人用のマウスピースと同じく薄く、透明度の高いものが利用されています。
また目立ちにくい上、可撤式なので食事やブラッシングのときに外せる利点があります。交換用のマウスピースをあらかじめ渡しておくことができるので、通院回数も少なく抑えられます。
齲蝕症を発症しにくい
歯は萌出してから1年ほどの間は齲蝕感受性が高いため、齲蝕になりやすいだけでなく、一旦発症した齲蝕の進行も速いです。このため小児矯正では、矯正治療中の齲蝕の予防を重視します。
インビザライン・ファーストなら、可撤式のマウスピースを使うため、普通の歯と同じようにブラッシングができます。プラークコントロールが良いため、齲蝕を発症しにくい上、たとえ発症したとしても早期発見が容易です。
不良習癖の是正効果
舌突出癖や吸指癖などの不良習癖は、歯列不正の原因となります。インビザライン・ファーストは、不良習癖の改善効果もあります。
インジケーターがついている
成人用のマウスピースにはないのですが、小児用のマウスピースには装着時間によって色が変化する仕組みがあります。この仕組みをコンプライアンス・インジケーターといいます。
この機能によって、お子さんにマウスピースの管理を任せていても、きちんとつけているかどうかが客観的にわかるようになっています。
クラブ活動にも支障がない
ワイヤー矯正などの固定式の矯正装置の場合、スポーツをしているお子さんが転倒したり何かが当たった際に矯正装置が破損したり、口腔内を損傷したりするリスクがあります。また固定式の矯正装置は、吹奏楽での楽器演奏にも影響します。
インビザライン・ファーストのマウスピースは薄い上に柔軟性があるため、破損や口腔内損傷のリスクがほとんどありませんし、楽器の演奏にも影響しません。
2期治療が容易になる
小児矯正は成人矯正と異なり、乳歯列期・混合歯列期の1期治療、永久歯列期の2期治療と2段階に分けて行われます。
インビザライン・ファーストにより歯列弓などを拡大しておくと、2期治療がスムーズに進められます。
デメリット
インビザライン・ファーストにはメリットだけでなく、デメリットもあります。
適応条件がある
インビザライン・ファーストは、混合歯列期なら誰でも適応可能というわけではありません。
- 第一大臼歯、いわゆる6歳臼歯が生えていること
- 上顎と下顎の犬歯以外の永久歯の前歯のうちの2本だけでも、歯冠の6割以上が生えてきていること
- 上顎と下顎を左右に分けると、顎は上顎右側、上顎左側、下顎右側、下顎左側の4ブロックに分けられます。
この4ブロックのうち、少なくとも3ブロックに乳犬歯・第一乳臼歯・第二乳臼歯か、生えていない犬歯・第一小臼歯・第二小臼歯が2本以上あること。
これらの条件を満たしていないケースでは、インビザライン・ファーストによる治療は受けられません。
管理が必須
成人のインビザラインと同じく、マウスピースの装着時間や定期的な交換を順守しなければ治療の効果は得られません。お子さんがマウスピースの装着を忘れないように管理が欠かせません。
【まとめ】インビザライン矯正のメリットとデメリットは?成人と子供のケースに分けて解説
このコラムでは、成人用と小児用のインビザライン矯正について、メリットとデメリットを中心にご説明しました。
アライナー型の矯正装置は、成人用しかありませんでしたが、アライン・テクノロジー社から新しく子供向けのインビザライン・ファーストが上市されました。
インビザライン・ファーストには、成人向けのインビザラインにはないさまざまな特徴があります。10代の混合歯列期の子供で矯正治療が必要なケースであれば、これからはインビザライン・ファーストも有力な選択肢となってくることでしょう。