神経の治療をした後は、土台を作って被せもの(クラウン)を作ることになります。
いわゆる差し歯と呼ばれる治療ですが、差し歯を入れた後年数が経つと、歯の根元の歯茎が黒ずんでくることがあります。この歯茎(歯肉)の黒ずみはメタルタトゥーと呼ばれ、見た目の悪さにつながります。
この記事では、この歯茎が黒ずむメタルタトゥーの原因と治療法や予防について解説します。
この記事を読むことで、歯茎の黒ずみ「メタルタトゥー」への理解が深まり、以下の疑問や悩みを解決できるようになります。
- なぜ歯茎の黒ずみが起こるの?
- 黒ずみが起こる歯と起こらない歯があるのはどうして?
- 歯に金属を入れたら歯茎は必ず黒ずむの?
- 歯茎の黒ずみを治すことはできる?
- どうすれば歯茎の黒ずみは予防できる?
目次
歯茎の黒ずみーメタルタトゥーとは
メタルタトゥーとは、歯科用金属が原因となり、歯肉に黒ずみが生じた状態をいいます。入れ墨のような見た目になるため、メタルタトゥーと呼ばれます。
メタルタトゥー自体は、がんなど他の疾患と関連するものではありませんが、特に前歯で生じた場合、審美的な問題が生じることがあります。
メタルタトゥーの原因
メタルタトゥーは何らかの原因で金属粒子が歯肉組織の中に迷入したり、その粒子がイオン化することで起こるとされています。
補綴で使用されている金属がイオン化して溶け出し、歯肉組織に沈着して発生するとする説明もありますが、現在では主流ではありません。
たとえば、メタルコアが入っている歯の形を整えるときに歯肉を傷つけてしまい、傷ついた面にメタルコアの削りカスが入り込み、歯肉が治癒する過程で一部の削りカスが歯肉の中に残ってしまい、後にメタルタトゥーが発生することがあります。
金属を使用したコアやクラウンが装着されている=メタルタトゥーが発生するというわけではないため、メタルタトゥーが発生する歯とそうでない歯があります。
メタルタトゥーの除去法
メタルタトゥーができてしまった場合、原因と考えられる金属を除去するだけでは解決しません。
メタルタトゥーを除去する方法は3通りあります。
メタルタトゥーの除去は、歯肉の内部0.3㎜より深い位置にある原因の金属粒子等を除去することであり、必ず歯肉に何らかのダメージを与える処置になり、歯肉退縮のリスクを伴います。
メタルタトゥー自体は治療すべき疾患ではないという考えから、メタルタトゥーの除去はどの方法でも保険適応外(自費)の治療となります。
機械的除去
虫歯の除去や歯の形を整えるときと同じ機器を使用し、メタルタトゥーのある部分の歯肉を金属粒子等のある深さまでそぎ取ります。
処置の性質上、必ず出血を伴います。
化学的除去
フェノールなどの薬剤を使用して化学的に歯肉に火傷を負わせ、メタルタトゥーのある部分の歯肉を金属粒子等のある深さまで焼きます。
簡便な方法ではありますが、深度や処置範囲のコントロールが難しいという難点があります。
レーザー蒸散
基本的な発想は機械的除去と同じですが、レーザーを用いることで歯肉を除去した後が生傷にならないため出血を抑えられ、傷の治りが早いというメリットがあります。
メタルタトゥーの予防
メタルタトゥーは、どうすれば予防できるのでしょうか?
メタルタトゥーの発生するメカニズムから、いちど金属粒子が歯肉に入り込んでしまえば残念ながら普段の努力で防ぐことはできませんが、その前段階で予防することは不可能ではありません。
まず、歯肉のコンディションを良好に保つことです。
歯肉炎があると出血が起こりやすく、腫れた歯肉を処置の際に傷つけてしまうリスクが上がります。
歯肉のコンディションが良好で引き締まった状態であれば、仮に処置の際に金属粒子が飛び散ったとしても、歯肉組織の中に迷入するリスクは抑えられます。
次に、金属粒子が問題になるのであれば、コアやクラウンの材料に最初から金属を使用しないこと(メタルフリー)もメタルタトゥーの予防になります。
セラミックによる修復、補綴はもとより、昨今では保険治療でもファイバーコアやCAD/CAM冠によるメタルフリーの処置が可能になっています。
ファイバーコアやCAD/CAM冠はどんなときにでも使える補綴手段ではないため、メタルフリーを実現するには材料にセラミックを選択する必要なときもあるので、どんな材料が選択可能か相談すると良いでしょう。
【まとめ】差し歯で歯茎が黒い原因と治療法
メタルタトゥーは歯科用金属が歯茎(歯肉)に入り込むことで起こり、何らかの症状が出るものではないものの、見た目に影響があります。そして、メタルタトゥーの治療は、いくらかのダメージを伴うものになります。
この記事では、下記のようなことがわかったのではないでしょうか。
- メタルタトゥーは金属粒子の迷入と溶出、イオン化で起こる
- 金属を除去しただけでは、メタルタトゥーはなくならない
- メタルタトゥーの除去は保険適応外(自費)治療になる
- メタルタトゥーの予防には最初からメタルフリーで行うことが有効
金属を使って治した歯の歯茎の黒ずみが気になるときは、審美歯科を専門に行う歯科医院へ相談に行くのがおすすめです。
参考文献
坂井貴子. 金属冠装着歯周囲の着色歯肉に関する臨床病理学的研究. 歯科基礎医学会雑誌. 1986年, 28巻, 3号, p.297-315. (参照 2022-06-22)
谷口陽一他. Er:YAG レーザーの特徴を応用した歯周治療. 日本レーザー医学会誌. 2016年, 37巻, 1号, p.43-51. (参照 2022-06-22)