「笑顔は人の第一印象を大きく左右する」と言われます。その笑顔の印象に大きく関わるのが、笑ったときに歯茎(歯肉)が過度に見えてしまう「ガミースマイル」です。
ガミースマイルは、機能的な問題や病的な問題はありませんが、コンプレックスとなり、人前で思い切り笑えないなど、心理的な悩みを抱える原因となることがあります。
ガミースマイルの治療法は原因によって多岐にわたりますが、その中の一つに「歯肉整形術(歯肉切除)」があります。これは、過剰に増殖した歯肉を切除し、歯茎のラインを整える外科処置です。そのため「歯肉整形」や「歯肉切除」といった言葉を聞いたことがあるものの、具体的にどのような治療で、どんな効果やリスクがあるのか、費用は保険適用になるのかなど、疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ガミースマイル治療の選択肢の一つである歯肉整形術(歯肉形成・歯肉切除)の概要、メリット・デメリット、具体的な術式、そして保険診療との関係を詳しく解説します。
この記事を読むことで、歯肉整形術がどのような治療で、ガミースマイルの原因のどれに適用されるのか、そして治療を受けるうえで知っておくべきメリット・デメリットや術後の注意点を理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
こんな疑問が解決
- ガミースマイルの原因にはどんな種類があり、歯肉整形術はどの原因に効果的なのか知りたい
- 歯肉整形術の即効性や低侵襲性といった具体的なメリット
- 治療後に再発する可能性や健康な歯肉への影響などのデメリットは?
- 歯肉整形術はどのような流れ(術式)で進められるのか?
- ガミースマイル治療目的の場合、歯肉整形術は保険適用となるのか?
目次
ガミースマイルとは
ガミースマイルとは、どのような原因で起こるのでしょうか。
ガミースマイルの原因
ガミースマイルの原因は、歯槽性の異常、骨格性の異常、口唇の異常などが挙げられます。
歯槽性の異常には、歯肉増殖や歯の萌出異常などがあります。
骨格性の異常では、上顎前歯部の歯槽突起の過剰な挺出や上顎骨の垂直方向への過剰な成長発育などがあり、口唇の異常としては上口唇の幅径の異常や上口唇の過大な可動域などが代表的です。
ガミースマイルの特性としては、これらの原因が単独でガミースマイルを引き起こしているのではなく、複合しているという点です。複合した原因の中で最もガミースマイルを引き起こしていると考えられる主因を探ることが、ガミースマイルの治療では大切です。
ガミースマイル治療の適応症
ガミースマイルかどうかの診断基準には、上顎前歯部に現れる上口唇のリップラインが有用です。
リップラインは、笑ったときの低位・中位・高位の3段階で評価されます。
低位は上顎前歯が一部しか見えない状態、中位は上顎前歯の辺縁から歯肉が1〜3㎜ほど露出した状態、高位は辺縁から歯肉が3㎜以上露出した状態です。このうち、ガミースマイルとして治療の対象となるのは、高位のリップラインの症例です。
ガミースマイルの問題点
ガミースマイルには、機能的な問題や病的な問題はありません。
ガミースマイルの問題点は、心理的な問題を抱えてしまうところにあります。具体的には、笑ったときの歯肉露出に伴うコンプレックスなどです。
歯肉整形術とは
歯肉整形術とは、歯肉の形態を修正する外科処置です。
歯肉整形術について
歯肉整形術は、歯周ポケットの除去を目的に開発された歯周外科療法のひとつである歯肉切除術にルーツを持つガミースマイルの治療法のひとつです。過剰に増殖した歯肉を切除し、上顎前歯部の辺縁歯肉の形態を修正することで、歯肉増殖症によるガミースマイルの改善を図ります。
歯肉増殖症とは
歯肉増殖症とは、乳頭歯肉や辺縁歯肉に硬くピンク色を呈した線維性増殖を認める病態です。カルシウム拮抗薬や抗てんかん薬の服用患者では比較的高頻度にみられますが、その他、特発性線維腫症、びまん性線維腫症、遺伝性過形成症、遺伝性歯肉線維腫症などによっても生じます。
適応症
歯肉整形術は、上顎前歯部歯肉の過剰な増殖を主因とするガミースマイルの治療に適応があります。
禁忌症
歯槽骨の骨縁下ポケットがある場合や歯肉歯槽粘膜境を超えるような深い歯周ポケットがある場合、歯槽骨の形態異常がある場合は歯肉整形術の対象外となります。
歯肉整形術のメリット
歯肉整形術を受けると、以下のようなメリットが得られます。
即効性
過剰増殖した歯肉を物理的に切除しますので、ガミースマイルの改善効果を早期に実感できます。
低侵襲
歯肉整形術は、局所麻酔のもとで行われる外来小手術です。辺縁歯肉の形態を修正するだけなので術野も限られており、侵襲性が低い利点があります。
プラークコントロール
過剰に増殖した歯肉は審美性だけでなく、プラークコントロール悪化の原因にもなります。歯肉整形術により理想的な形態にすることで、審美性の改善と同時にプラークコントロールも容易になります。
歯肉整形術のデメリット
歯肉整形術には、デメリットがないわけではありません。
歯周パックが取れやすい
歯肉整形術後に用いる歯周パックは歯肉との接着性がないため、外れやすい傾向があります。外れた時点で創面の上皮化が弱いと疼痛を生じる原因となります。
再発の可能性
カルシウム拮抗薬や抗てんかん薬の副作用による歯肉増殖などに多いのですが、歯肉増殖の原因によっては歯肉整形術後、歯肉増殖症が再発する可能性があります。
健康歯肉への影響
歯肉整形術では、健康歯肉も一部切除範囲に含まれてしまいます。
出血傾向があると不適
歯肉整形術は創部の縫合を行いませんので、術後の止血処置を十分行なっておく必要があります。したがって、出血傾向がある患者さんには不適当な外科処置といえます。
術後の注意点
処置後、歯周パックを除去するまでの間、術野へのブラッシングは禁止です。
術後1か月以内は、歯ブラシの毛先を歯肉に強く押し当てないようにしなければなりません。
歯肉整形術の術式
歯肉整形術は、以下のような流れで行われます。
①局所麻酔
術野に表面麻酔を塗布したのち、エピネフリン含有2%キシロカインなどを用いて局所麻酔を行います。
②ポケット底部の印記
ポケット探針で歯周ポケットの深さを測定し、唇側歯肉にポケット底部を印記します。
③歯肉切開
歯肉整形術の切開は外斜切開です。
#15のメスやカークランドメスを用い、唇側歯肉の歯周ポケット底相当部より1㎜ほど根尖側からポケット底部に向けておよそ45度の角度で切開を加えます。
④切除した歯肉片の除去
切除した歯肉を鎌型スケーラーやグレーシータイプのキュレットで除去します。
⑤歯肉整形
術後に理想的な歯間乳頭や辺縁歯肉の形態が得られるようにメスや歯肉鋏を使って切除した鋭縁を移行的にする、不整部をトリミングするなどして、切除後の歯肉の形態を整形します。
⑥創面の洗浄
生理食塩水で洗浄します。
⑦圧迫止血
創面を滅菌ガーゼで圧迫し止血します。
⑧歯周パック(歯周包填)
歯肉整形術の術野は縫合して閉鎖することが困難です。そこで、歯科用歯周保護材料を用いて、創面を被覆し保護します。
歯周パックに用いられる歯科用歯周保護材料には、ユージノール系と非ユージノール系の2種類がありますが、Coe-Pak®︎などの非ユージノール系製剤の方が刺激性が低いためよく使われています。
歯周保護材料は、頬舌方向から十分に歯間空隙に圧入し、両者を歯間部で確実に圧着します。
術後7〜10日程度で上皮の再生が起こり、2週間ほどで上皮化がほぼ完了することから歯周包填剤も1〜2週間程度施します。
保険診療と歯肉整形術
歯肉整形術は、歯周病治療に関わる歯周外科療法として行われる場合は保険診療の給付対象となりますが、ガミースマイルの治療では美容目的の治療となりますので対象外です。
【まとめ】歯肉整形(歯肉形成)とは?歯肉切除のデメリットとメリット
ガミースマイル治療の選択肢の一つである歯肉整形術(歯肉形成・歯肉切除)について詳しく解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。
この記事のおさらい
- ガミースマイルの原因は複合的であり、歯肉整形術は「歯肉の過剰な増殖」が主因の場合に適用される治療法
- 歯肉整形術は過剰な歯肉を物理的に切除するため、施術後すぐに効果を実感できる「即効性」と、体への負担が少ない「低侵襲」が大きなメリット
- デメリットとして、術後に使用する歯周パックが取れやすいことや、薬剤の副作用などが原因の場合には「再発の可能性」がある
- 術式は局所麻酔から始まり、歯肉切開、切除、整形を経て、最後に創面を保護する「歯周パック」で完了する
- ガミースマイルの治療として審美目的で行う歯肉整形術は、原則として「保険適用外」の自由診療
歯肉整形術は、過剰な歯肉を切除することで、ガミースマイルによるコンプレックスを早期に解消するのに有効な手段です。特に歯肉の増殖が主因となっているガミースマイルのケースで適応されます。
治療を検討する際はメリットだけでなく、再発の可能性や術後の注意点、そして費用の面(保険適用外であること)を十分に理解することが重要です。まずは、ご自身のガミースマイルの主因が歯肉増殖にあるのかどうかを正確に診断してもらうために、信頼できる歯科医師と相談のうえ、ご自身に最適な治療法を選択しましょう。

