インレー・クラウン・アンレーの違いと治療の選択について

インレー・クラウン・アンレーの違いと治療の選択について

虫歯(齲蝕)は、放っておくと取り返しのつかないことになるかもしれません。齲蝕は感染症の一種であり、虫歯菌として知られるミュータンス菌などにより歯が溶かされ、痛みを生じる病気です。
齲蝕は私達にとって馴染み深い病気で簡単に治ると思われがちですが、ごく初期の齲蝕を除き、歯磨きなどで虫歯が完全に治ることはありません。
齲蝕を放置しておくと、歯の表面のエナメル質の溶解から象牙質、歯髄(歯の神経)へと進行し、最終的には抜歯に繋がることも少なくありません。また、齲蝕治療はあくまでも歯に似せた人工物を歯の欠損部分に補綴し、歯の機能と形態を回復する治療になります。
その治療法として、インレー・クラウン・アンレーなどを用いた様々な修復法と素材がありますが、どのような補綴物も天然歯にはかなわないため、早期治療が重要となってきます。しかし、虫歯の治療が必要になったとき、「インレー」「クラウン」「アンレー」といった専門用語を聞き、それぞれの違いや自分の歯にはどれが最適なのか分からず、戸惑ってしまう方は多いのではないでしょうか。
虫歯治療において、どの詰め物や被せ物を選ぶかという選択は、歯をどれだけ削るか、そして治療後の強度や審美性をどう確保するかという、歯の寿命に関わる重要な判断に関わってきます。

この記事では、虫歯治療で使われる詰め物・被せ物(インレー、クラウン、アンレー)のそれぞれの違い、メリット・デメリット、そして治療法の選択基準を詳しく解説します。
この記事を読むことで、インレー、アンレー、クラウンがどのように異なり、ご自身の虫歯の進行度や部位に応じて最適な治療法と素材を選ぶための知識を理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。

こんな疑問が解決

  • インレー、アンレー、クラウンは具体的に何が違い、どのような虫歯の進行度で使い分けられるのか?
  • 「歯をできるだけ削らない治療(MI)」とは具体的にどのようなものか?
  • 治療後の強度や見た目を重視したい場合、どの治療法や素材を選べば良いのか?
  • 保険適用内の治療(銀歯など)と保険適用外の治療(セラミックなど)のメリット・デメリットは何か?

インレー・クラウン・アンレーとは?

インレー・クラウン・アンレーとは、臼歯部の一部または全体が齲蝕などで欠損した場合に歯冠を修復するために使用される補綴物です。臼歯部には咬合圧がかかるため、レジンやセラミックなどの脆性材料は不向きであると考えられてきましたが、近年では歯科材料の改良や材料の保険収載により、金属以外の素材で修復することも増えてきました。
インレー・クラウン・アンレーの違いは、歯冠の修復方法による違いになります。それぞれの違いを簡単に説明すると、インレーは軽微な齲蝕で浅いものに詰める補綴物、アンレーはインレーより範囲が広いもの、クラウンは人工歯冠を丸ごと被せるものになります。
C1のエナメル質に限局した虫歯やC2初期であれば、齲蝕部分を削りコンポジットレジンを窩洞に充填する治療法になりますが、齲蝕の範囲が広い場合には、インレー・クラウン・アンレーによる治療が必要となります。また、歯髄に齲蝕病原菌が感染している場合には、感染歯髄を取り除く感染根管治療も必要となりますので、あわせて治療を行っていくことになります。
補足で、現在日本で主に使用されている齲蝕の分類を簡単に説明しますと、以下の通りになります。

  • CO:初期齲蝕(適切なプラークコントロールにより再石灰化が期待されるため、削らない)
  • C1:齲蝕がエナメル質に限局している
  • C2:齲蝕が象牙質に到達している
  • C3:齲蝕が歯髄(歯の神経)に到達している
  • C4:齲蝕が進行し歯冠が崩壊し、歯根だけになっている

インレーについて

インレーはC2~C4の齲蝕では、齲蝕部分を除去したのちに適切な窩洞形成を行い、その形に合った補綴物を詰める治療になります。
メリットは健全歯質の切削量が少なく済む点です。デメリットとして、クラウンより強度が劣る点が挙げられます。また、インレー部分に咬頭が接触する場合には、咬合力によりインレーや周囲の歯質が破損する可能性があります。
インレー修復用の材料として、金属系の材料では金銀パラジウム合金が主流です。また、白色で審美性の高い材料としてレジン・セラミック・ハイブリッドレジンがあります。これらのうち、保険適用であり最もよく使用されている材料は、レジンまたは金銀パラジウム合金になります。ただし、レジンは天然歯より硬度が低く擦り減りやすいため、咬合圧がかかる臼歯部には不向きになります。したがって、修復範囲が広い臼歯部のインレー治療にはレジンではなく、金銀パラジウム合金が選択される場合があります。
保険適用外治療になりますが、審美性と強度を担保した材料であるセラミックは、白色で変色にも強く、天然歯に近い修復が可能です。

アンレーについて

アンレーもインレーと同様に窩洞形成を行い、その部分に補綴物を詰める治療です。インレーとの違いとして、アンレーは咬頭頂を超えて歯冠の大部分を覆う点が特徴的です。
齲蝕の進行度合いにより窩洞形成後に残された健全歯質が薄くなってしまう場合があり、インレータイプではそのような部分に咬合力がかかると破損してしまうことがあります。そこで、薄くなった歯質を覆うアンレータイプにすることで、健全歯質の破損のリスクを抑えることができます。
メリットは歯質切削量が少なく、インレータイプと比較して強度がより高い点です。デメリットは、インレーと同様にクラウンより強度が劣る点です。

クラウンについて

クラウンは歯を全周切削し支台歯と呼ばれる形態に形成したのち、歯冠を被せて修復する治療法です。
クラウンの素材にはレジン、セラミック、ジルコニアなど様々なものがあります。ただし、C4では歯冠が完全に崩壊しているため、そのままではクラウンによる治療を行うことができません。そこで、感染根管治療を行ったのちにメタルコアやレジンコアなどの支台築造体を設置し、クラウンを被せる治療になります。
クラウンのメリットは、審美性、強度になります。クラウンはインレー・アンレーとは異なり、歯冠部全体が人工物となるため、強度は最も優れていると言えます。さらに、セラミックやジルコニアを材料として選択した場合には、天然歯のような美しさを保った修復が可能となります。
また、歯冠部が完全に崩壊してしまい、インレー・アンレーによる治療が不可能な場合にも支台築造体を利用したクラウン治療が可能といったメリットもあります。クラウンのデメリットは、支台歯形成のために多くの健全歯質を切削しなければならない点です。

【まとめ】インレー・クラウン・アンレーの違いと治療の選択について

虫歯治療における詰め物・被せ物(インレー、クラウン、アンレー)の種類と、歯を長持ちさせるための治療の選択肢について詳しく解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。

この記事のおさらい

  • インレー:軽度な虫歯に使用され、健全な歯質の切削量が最も少ない詰め物
  • アンレー:インレーより広い範囲(咬頭頂を含む)を覆い、クラウンより切削量が少ないことで、歯の強度の維持と最小限の侵襲を両立する詰め物
  • クラウン:歯全体を覆う被せ物であり、最も高い強度と審美性が得られるが、切削量が最も多くなる治療法
  • 治療選択:近年はMI(最小限の介入)という考え方がスタンダードであり、虫歯の進行度や歯の部位によって、歯をできるだけ削らないインレーやアンレーから検討されることが多い
  • 素材の選択:金属、レジン、セラミックなど、素材ごとに強度、審美性、耐久性、費用(保険適用外か否か)が大きく異なるため、慎重に選ぶことが重要である

虫歯治療における詰め物・被せ物の選択は、歯の寿命や将来的な健康に大きく関わる重要な決断です。治療法の違いや素材の特性を理解することで、歯科医師からの説明をより深く把握し、納得のいく形で治療を進めることができるようになります。
また、基本は齲蝕の進行度、患歯の部位、患者の歯質を考慮し歯科医師が最適であると考えられる治療法を提案されますが、最終的には歯科医師からの説明を聞いたのちの患者さんの要望によって決定されます。治療では、インレー・アンレー・クラウンの順に歯の切削量が増していきますので、歯冠崩壊までは至っていない齲蝕の場合はインレーまたはアンレーを用いた治療から提案されることが多いと思います。
この記事で得た知識を参考に、ご自身の状況に最も適した治療法と素材を選び、大切な歯の健康を維持していきましょう。

参考文献

公益社団法人日本医療評価機構. 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復 CQ15 臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。. https://minds.jcqhc.or.jp/n/cq/D0003331, (参照 2021-04-14)
公益社団法人日本補綴歯科学会. 補綴歯科診療ガイドライン – 歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン 2008. https://hotetsu.com/s/doc/guideline_2008.pdf, (参照 2021-04-14)


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