歯科治療における保険診療と自費診療の違い

歯科治療における保険診療と自費診療の違い

歯科治療を受ける場合、保険診療と自費診療が選べます。

保険診療と自費診療ではどのような違いがあるのでしょうか。

このコラムでは、歯科治療での保険診療と自費診療の違いについてご説明します。

目次

保険診療とは

健康保険は、被保険者と被扶養者の業務外の病気や負傷などについて保険給付を行い、生活の安定に寄与することを目的とした社会保険制度です。

保険診療は、健康保険の目的を達成するために行われる医療行為です。

保険診療で受けられない治療は、全て自費診療となります。

日本の保険制度の特徴

日本の保険制度は、“国民皆保険制度” “現物給付” “フリーアクセス”が3大特徴です。

国民皆保険制度は、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入しているということです。

現物給付とは、医療行為を先に受け、治療費を保険者から後日保険医療機関が受け取るという仕組みです。

フリーアクセスとは、誰もが自由に受診する医療機関を選べるという制度です。

保険診療の仕組み

保険診療の仕組みは、健康保険法や各種医療保険法に規定されています。

保険医療機関を受診すると、そこの窓口で一部負担金を支払い、残りの費用を保険者から保険医療機関が受け取る仕組みになっています。

保険制度上の種類

現在、サラリーマンなどを対象とした被用者保険制度(健康保険、共済保険、船員保険)、自営業者を対象とした国民健康保険制度、75歳以上の高齢者を対象とした後期高齢者医療制度などがあります。

保険診療のメリット

保険診療には治療費が抑えられ、どの医療機関でも同じ治療費で同じ治療が受けられるメリットがあります。詳しく見ていきます。

保険の給付を受けられる

保険診療では、医療を受けた場合に療養の給付が受けられるため治療費を抑えられます。

療養の給付に要する費用、すなわち治療費の額の7割に相当する金額で、保険者から支払われる仕組みになっています。ただし、3歳未満は8割、70歳以上は9割(現役並所得者は8割)に相当する給付が受けられます。

窓口で支払う一部負担金は3割に抑えられるほか、ひと月の医療費が高額になった場合は高額療養費制度が利用できます。高額療養費制度を使うと、被保険者の年収に応じた金額を差し引くことができますので、自己負担額がさらに抑えられます。

診療報酬が一律

保険診療での医療費は、診療報酬と呼ばれ、すべて診療報酬は点数表に明示されています。

診療報酬は保険医や保険医療機関に関係なく、全国共通なので、どの保険医療機関を受診しても治療費は同じです。

なお、原則的に診療報酬は2年おきに改訂されます。

治療法が一律

保険診療では、診療報酬点数表にない手術は禁止されています。また、厚生労働大臣の定める医療材料や医薬品以外を使うことはできません。

このため、保険医が保険医療機関で提供する医療行為は、どの保険医療機関でも同じ治療が受けられます。

保険診療のデメリット

次に保険診療のデメリットについてみていきます。

保険医や保険医療機関でしか受けられない

保険診療は、どの医師でも、どの医療機関でも受けられるというわけではありません。

健康保険法の規定に基づいて、保険医として登録された医師または歯科医師、保険医療機関として療養の給付を行うと認められた病院や診療所でなければなりません。

保険医は、医師や歯科医師が自らの意思で、地方厚生局長へ申請して登録を受けます。

保険医療機関の指定は、開設者が自由意志に基づく申請により、厚生労働大臣が行います。

審美性は求められない

保険診療は、病気や外傷の治療を目的としています。

そのため、喪失もしくは障害された機能の回復に主眼が置かれており、治療後の仕上がりについての審美的な観点は求められていません。

担当医の技術力が反映されない

保険診療では、担当医の治療経験や技術力は診療報酬上評価されません。

確かに、施設基準で担当医の経験年数が問われる箇所もありますが、“3年以上の経験年数”や“研修を終了していること”などと、ハードルは高くなく、普遍的な条件となっています。

病気や外傷の治療以外受けられない

病気や外傷と関係のない症状は、基本的に保険診療の対象外です。歯の矯正治療が保険診療の給付の対象外となっているのはこのためです。

新しい治療法がなかなか導入されない

新しい治療法が開発されても、直ちに保険診療に導入されることは稀です。

保険外併用療法は原則的に認められない

保険診療と保険外診療を併用した治療を保険外併用療法、もしくは混合診療といいます。現行の保険診療の制度のもとでは、保険外併用療法は原則として禁止されています。

なお、保険導入をするかどうか評価するために行われる評価療養と、保険導入を前提としない選定療法に該当する治療は、保険外併用療法が認められています。

よく知られている例では、入院時の差額ベッド代が、選定療法に当てはまります。歯科の場合は、歯科治療に用いる金合金などの一部の歯科材料、金属床の全部床義歯などが選定療法として認められています。

自費診療のメリット

反対に自費診療のメリットは、審美目的の治療を受けられることや、最新の治療を受けられるなどがあります。

審美的に優れた治療が受けられる

自費診療では、厚生労働省から承認された歯科材料であれば、任意の材料を使用することができます。

例えば、審美的に優れた歯科材料のひとつであるセラミック材料は、厚生労働省から承認されていますが、保険診療では使用が認められていません。

自費診療なら保険診療のような制限はありませんから、セラミック材料を使った治療、すなわち審美性に優れた治療が受けられます。

美容医療が受けられる

矯正治療やホワイトニング、ガミースマイル治療などの美容を目的とした治療は保険診療では受けられませんが、自費診療なら受けられます。

治療の選択肢が広い

保険診療では診療報酬点数表にない治療は行えません。

一方、自費診療ではそのような制限はありませんから、保険診療の対象となっていない治療法や新しく開発された治療法や治療材料を使った治療も受けられます。

最適な治療法や治療材料などを選べるという選択肢の広さも利点のひとつです。

自費診療のデメリット

続いて自費診療のデメリットをみていきます。

治療費が高額

もともと低く抑えられている診療報酬と比べると、自費診療は高額です。しかも自費診療は全額自己負担となりますから、窓口で支払う治療費が高額になります。

技術的難度が高い

例えば、セラミックのみで作られるジルコニア・オールセラミッククラウンは、破折のリスクを下げるために、ポーセレンの厚みが均等になるように支台歯形成をしなければなりません。

これを実現するためには、天然歯の形状だけでなく、対合歯との咬合関係、マージンの厚みなどをしっかりと理解した上で支台歯形成しなければなりません。保険診療の全部鋳造冠ならこのようなハードルはありません。

自費診療は、優れた歯科材料を使えますが、それを活かすためには、広い知識と経験に加え、高い技術が必要です。

保険診療と自費診療の比較

保険診療と自費診療を比較してみます。

歯科材料の比較

保険診療では、金銀パラジウム合金やコンポジットレジンが中心となっています。

金銀パラジウム合金は、全部鋳造冠や部分被覆冠に使われていますが、銀歯と呼ばれるように審美性は良くないです。

コンポジットレジンは、歯の色に似たプラスチック系の歯科材料です。

金銀パラジウム合金と比較すると審美性は高いですが、強度が弱く破損しやすく、経年的に黄色く変色したり、表面が塑像になってプラークが付着する温床となったりします。

対して、自費診療ではセラミック系の審美性の高い歯科材料が用いられます。天然歯のような光沢感や透明感を備えた上、強度も両立している優れた歯科材料です。

金属系材料としては、金合金があります。金合金は金銀パラジウム合金よりも軟らかく、歯に優しい上、金属イオンの流出や金属アレルギーのリスクもほとんどありません。

自費診療なら、数多くの歯科材料の中から最適な材料を選ぶことができる利点があります。

治療法の比較

保険診療で受けられる治療は、診療報酬点数表に記載された治療だけです。

自費診療では、そのような制限はありませんから、矯正治療、インプラント治療、ホワイトニング、エムドゲインを使った歯周組織再生療法なども受けることができます。

治療の選択肢の広さは、自費診療の大きなメリットといえます。

治療費用の比較

保険診療の診療報酬は、医科歯科問わず、諸外国と比べると低めに抑えられています。その上、保険診療の療養の給付を受けることができ、窓口での一部負担金は、原則として3割負担に抑えられています。

自費診療は、保険診療の診療報酬よりも単価が高い上に、全額自己負担ですから、窓口で支払う治療費用は保険診療の治療費用より高額です。

治療時間の比較

保険診療の診療報酬は低く抑えられているため、歯科医院としては限られた時間の中で数多くの治療を行わなければなりません。このため、一人当たりにかけられる治療時間は短くならざるを得ません。

自費診療は単価が高く設定されているため、一人当たりにかける治療時間を長くとれるため、じっくりと質の高い治療を提供することができます。

【まとめ】歯科治療における自費診療と保険診療の違い

今回は、歯科治療での保険診療と自費診療を比較してみました。

保険診療は、『治療費が安い』『どこでも同じ治療が受けられる』などの利点がある反面、『審美性は求められない』『使える歯科材料に制限がある』『一人当たりの治療時間を長く取れない』などの難点があります。

自費診療は、『治療費が高額』ですが、『治療の選択肢が広い』『審美的な治療も選べる』『治療時間を長くとれる』など、保険診療にはない優れた利点がたくさんあります。

保険診療と自費診療のどちらにするかは、メリットとデメリットをしっかり理解した上で選ぶことが大切です。

参考文献

日本の医療保険制度について. 厚生労働省

我が国の医療保険について. 厚生労働省

医療費の自己負担. 厚生労働省


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