虫歯が進行すると歯に穴が開いた状態になり、もう元には戻りません。虫歯を放置していると歯痛や噛み合わせの悪化により、日常生活にさまざまな支障をきたします。さらに虫歯は、歯周病同様、歯を失う大きな原因にもなっています。
虫歯とはどういうものなのか、またその予防方法についてきちんと知って、正しくケアしていくことはとても大切です。
目次
虫歯発生のメカニズム
お口の中にいる虫歯原因菌(ミュータンス菌など)が糖質(ショ糖)を取り込み、歯垢(プラーク)を形成します。形成された歯垢の中で虫歯菌がさらに増殖し、糖質から酸を作ります。その酸が歯質(エナメル質・象牙質)に含まれるカルシウムやリンを溶かします(脱灰)。脱灰が進行すると歯に穴が開いた状態になり、元には戻りません。
(厚生労働省平成28年歯科疾患実態調査より引用:https://www.butler.jp/cavity/otona/)
図に示すように、20歳を超えた大人では30%以上の人が未治療の虫歯を持っています。虫歯は子供に多いものと思っている人もいるかもしれませんが、実際には多くの大人が虫歯の治療が必要だと推測されます。
虫歯の発生要因
虫歯の原因には「細菌(ミュータンス菌)」「糖質」「歯の質」の3つの要素があります。この3つの要素が重なったとき、時間の経過とともに虫歯が発生します。
細菌(ミュータンス菌)
ミュータンス菌はプラークとなって歯の表面に付着し、糖質から酸を作り出します。
ミュータンス菌は歯の萌出前の乳児には検出されませんが、歯が萌出し始めるころから歯面に定着し、プラーク中に存在するようになります。主に養育者の口腔から乳児に感染するといわれています。そのため、育児に関わる養育者の口腔内のミュータンス菌のレベルを低下させることは大切です。
糖質
食べ物に含まれている糖質(特に砂糖)は、ミュータンス菌が酸を作る材料に使われます。
間食が多い人や甘いものをよく摂る習慣のある人は、歯の表面が酸にさらされる時間が長いため、虫歯になりやすくなります。
歯の質
年齢や唾液の力などの環境の違いによって歯の質(エナメル質や象牙質の状況)には個人差があり、虫歯になりやすい人もいます。
特に乳歯や永久歯が生えたばかりの子供は注意が必要です。また、高齢者は歯茎が下がることで、歯根面虫歯が発生しやすくなります。妊産婦は、食習慣や口腔清掃習慣による口腔環境の変化から虫歯リスクが高まります。
スウェーデン式虫歯予防法
スウェーデンの歯科治療は、虫歯や歯周病になる前に行う「予防」に重点を置いています。
スウェーデンでは、まだ歯の生えていない赤ちゃんの時から、口の中に歯ブラシを入れて歯ブラシに慣れさせるといわれています。そうすることで、乳歯が生えた後に自然と歯磨き習慣が付くといわれ、0歳からデンタルケアを行っています。予防的治療は、日々のケアも伴ってこそ効果があるものです。
日本では「歯医者は、歯が痛くなってから行くところ」と考えている人も多いのではないでしょうか?
病気になってから治療すると、痛みなどの症状に加え、時間や費用の負担も発生します。
歯間部清掃用具などの使用
歯と歯の間(隣接面)、奥歯の溝(咬合部)、歯の根元(歯頚部)は、汚れがたまりやすく、虫歯のできやすい場所です。
歯ブラシによるブラッシングだけでは、歯と歯の間のプラークの61%しか除けなかったのに対して、フロスを併用すると79%、歯間ブラシを加えると85%まで除去効果が上がります。
(出典: 日本歯科保存学雑誌. 歯間ブラシの歯間部のプラーク除去効果. 2005; 48. 272)
歯間部清掃用具(フロス、歯間ブラシ、タフトブラシなど)の併用が虫歯予防に効果的です。
デンタルフロス
歯と歯の間の接触点(コンタクトポイント)は、歯ブラシや歯間ブラシは届かないので、プラークが付着して虫歯になりやすい部位です。デンタルフロスを使用することにより、コンタクトポイントに付着したプラークを取り除くことができます。
歯と歯茎の間にある「歯肉溝」という浅い溝に溜まったプラークも歯ブラシだけでは十分にプラークが取り除けません。デンタルフロスは、自分でコントロールしながら、歯と歯茎の溝までフロスを入れることができるので、歯肉縁下3.5mmくらいまでプラークが除去できるといわれています。
歯間ブラシ
歯周病患者など歯間部に空隙ができた方に適用できます。
最大の特徴は、誰でも簡単に操作ができ、容易に歯間部のプラークを除去することができることです。しかし、それぞれの歯間の広さに合った歯間ブラシを選択し、使用することが大切です。
タフトブラシ
柄の先に小さなブラシを付けた形態をしており、ブリッジや矯正装置装着部、最後臼歯(親知らずなど)の清掃に用いられます。
食後や寝る前のブラッシング
ブラッシングの目的はプラークの除去、すなわち酸を産生する細菌を取り除くとともに、その原料となる糖質を取り除くことです。ブラッシングのタイミングについてはさまざまな議論がされていますが、食後のブラッシングは虫歯予防に有用です。食後に歯磨きをする習慣を付けましょう。
また、就寝中は唾液の分泌量が減り、お口の中の細菌が繁殖しやすくなるため、寝る前には念入りに歯を磨きましょう。
フッ素
脱灰の段階で、リンやカルシウムを補充すれば、歯は修復されます(再石灰化)。脱灰と再石灰化のバランスが均衡していれば、虫歯は予防できます。
フッ素(フッ化物)は、脱灰抑制作用、再石灰化促進作用によって歯質を強化し、プラーク細菌の酸産生を抑制するので、虫歯予防に効果的です。
フッ化物を応用した虫歯予防方法には、フッ化物洗口やフッ化物配合歯磨剤(歯磨き粉)、フッ化物歯面塗布などの方法があります。実行しやすいのは、フッ化物配合歯磨剤を使用することでしょう。大人虫歯のリスクが高い方は、高濃度フッ化物配合歯磨剤(1450ppm)の使用をお勧めします。
また、フッ素がインプラントに与える影響についてはさまざまな研究があります。心配な場合は主治医にご相談ください。
キシリトール
通常、ミュータンス菌は糖質を食べて酸を作りだし、この酸が歯を溶かし虫歯になります。しかし、ミュータンス菌はキシリトールから酸を作りだすことができません。そのため、キシリトールを食べても虫歯になりません。
また、キシリトールガムを噛んでいれば、唾液がよく分泌されます。唾液による自浄性の向上や再石化作用などで、虫歯予防に対する二次的効果も期待できます。キシリトール商品は、歯科医院などで販売されているキシリトール100%のものをお勧めします。
プロフェッショナルケア
セルフケア(毎日の歯磨き)だけでは、すべての歯垢を除去することは難しいです。磨き残した歯垢を放置すると、石灰化して歯石になります。硬い歯石はセルフケアでは除去できません。また、歯石の表面は粗造なため、多くの歯垢が付着し、口腔衛生上の大きな問題となります。
虫歯はなくても、定期的に歯科医院で「プロフェッショナルケア」を受けましょう。プロフェッショナルケアでは、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)が行われることが多いです。PMTCの定義は、歯科医師あるいは歯科衛生士が専用の器具を用い、すべての歯の表面上に存在する歯垢・歯石を除去し、さらに歯肉縁下1~3mmまでの歯周ポケット内部まで、バイオフィルム(微生物の集合体のこと、歯垢もそのひとつ)の除去を行い、フッ化物を含むペーストで歯面を研磨する方法とされます。歯磨きでは除去できない汚れを取り、爽快感、虫歯や歯周病の予防になります。
また、定期的に歯科を受診することで、症状が出る前の段階での虫歯や歯周病を早期発見できます。
歯並びや歯磨きの癖、食習慣などは人によって異なります。かかりつけ医から、自分に合った歯ブラシの選び方や磨き方、歯間部清掃用具の活用方法などのアドバイスを受けることで、セルフケアの質を高めることができます。
【まとめ】虫歯の原因とスウェーデン式予防法
虫歯は、口の中の細菌が糖質をエサにして酸を作り、歯のエナメル質を溶かすことから発生します。
虫歯予防の基本は、毎日の生活で行うセルフケアです。セルフケアでは正しい歯磨き方法や食生活に気を付けることが大切です。歯磨きでは、歯間部清掃用具やフッ化物配合歯磨き剤の使用、就寝前の歯磨きをていねいに行うことなどがポイントです。
さらに、定期的に歯科医院でプロフェッショナルケアを受けて、自分では気づけない問題を適切に改善することで、虫歯のリスクを減らすことができます。