「妊娠中にセラミック治療はできる?」
このような疑問をよく耳にしますが、妊娠中でもセラミック治療を行うことができます。
セラミックは組織為害性もほとんどなく、金属アレルギーなども起こさない材料なので、妊娠中も、授乳中も安心して使用していただけます。
昔は、妊娠中の歯科治療は控えるといった風潮がありましたが、現代ではむしろ、妊娠中に口腔内の環境を整えておくことが推奨されています。
しかし、セラミックを用いた治療を行う過程で、妊娠中にはやめておいたほうがよい治療もあるので注意が必要です。
この記事では、妊娠中におけるセラミック治療について、妊娠中の歯科治療における注意点をふまえたうえで解説します。
この記事を読むことで、妊娠中のセラミックを用いた歯科治療について理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
- どの時期に治療するのがおすすめ?
- 麻酔やレントゲンって妊娠中でも大丈夫?
- 妊娠中にやってはいけないセラミック治療ってどんなこと?その理由は?
目次
セラミック治療とは
セラミックは陶器のような素材で、機能的にも、審美的にも非常に優れた素材です。
口腔内でも経年劣化がほとんどなく、金属を使用しないので、金属アレルギーを発症する心配もありません。
また、保険診療で使用する白い素材のコンポジットレジンと違い吸水性がないので、変色や着色がほとんどありません。プラークも付着しにくいため、2次う蝕のリスクも低く抑えることができます。
保険適応されていないため、治療費は高額になりますが、歯科材料として非常に優れている素材だということができるでしょう。ただし、金属よりも破折の可能性が高いため、歯ぎしり・食いしばり等の口腔習癖がある方は、保護用のマウスピースを使用することをおすすめします。
妊娠中に歯科治療をすすめる理由
妊娠中はホルモンバランスの変化が大きく、唾液の量が減少することや、つわりによって口腔内清掃がしにくい時期があるので、虫歯が進行しやすくなります。また、出産後は自分の時間を確保することが難しく、通院が困難になりがちです。
最近では、妊娠中のお口の中の健康状態が、これから生まれてくる赤ちゃんの虫歯リスクと深く関わっているという報告もされています。
う蝕やう蝕予備軍は、出産前に治療しておくことをおすすめします。
妊娠中のセラミック治療で注意すべき点
では、妊娠中のセラミック治療をみていきましょう。
セラミックは非常に安定した素材で、金属のように成分が溶けだして体内に取り込まれることもないので、妊娠中や授乳中でも安心して使用することができます。
しかし、セラミックを用いた歯科治療を行うということになると、セラミックを装着する前処置において、妊娠中には避けたほうが良い治療も出てきます。
歯科治療全般におけるものから、セラミック治療特有のものまでありますので、1つずつ見ていきましょう。
治療の時期
妊娠期間は初期、中期、後期の3つに分けられます。
初期は胎児の器官形成期にあたり、ストレスや外からの影響などを受けやすいので、治療には適しません。
中期が妊娠中最も安定している時期にあたります。歯科治療を行う場合は、この時期に行うようにしましょう。
中期に入ったら、出来るだけ早めに治療を開始することをおすすめします。
後期は、いよいよ出産が近付いてきますね。お腹も大きくなり、診療台の上で仰向けの状態のまま、長時間動かずにいることが辛くなってきます。治療は出来るだけ避けたほうが良いでしょう。
また、いつ出産の時を迎えるか、予定が早まる場合なども想定されるので、歯科治療の予定が立てにくくもなります。治療が終わらず、産後まで治療が続いてしまう、もしくは産後落ち着くまで治療が中断してしまうことは、出来るだけ避けたいところです。
レントゲン撮影
例えば、前歯のクラウン(被せ物)をセラミッククラウンでやり直していくといった治療の場合、痛みがなかったとしても、神経の有無やその歯の根の状態をレントゲン写真で確認していく必要があります。
歯科治療で使用する小さなレントゲン写真の被爆線量はとても少なく、さらに照射範囲は頭部に限局するため、妊娠中にレントゲン撮影を行っても問題ないとされています。レントゲン撮影する際には、念のため腹部も遮蔽用エプロンで防護すると安心です。
しかし、「妊娠中にレントゲンを撮影する」ということが、妊婦さんにとって過度な心理的ストレスがかかる、不安に繋がってしまうといった場合は、歯科医師に相談するようにしましょう。
局所麻酔
セラミックインレーは、金属のインレーよりも破折の危険性が高いために、通常は金属よりも少し分厚く製作します。そのため、歯の形を整える際に金属の時よりも少し深くまで削ることになるので、局所麻酔が必要になる可能性を考慮しておく必要があります。
通常量の局所麻酔は、妊娠時に使用しても特に問題がないとされています。(カートリッジ2~3本程度)
痛みを我慢して治療を続けて、それがストレスになるよりも、治療のストレスを軽減するためにも、麻酔を使用することをおすすめします。勿論、麻酔を使用したくない場合やいつも麻酔が効きにくくて多めに用いる、歯科の局所麻酔で気分が悪くなったことがあるなど、心配なことが一つでもあれば、歯科医師に必ず相談するようにしましょう。
薬の服用
経口投与薬に関しては様々な意見がありますが、妊娠中は出来るだけ服用しないほうが良いという考えが歯科では一般的です。
妊娠中は投薬が必要な処置に関しては応急処置にとどめ、出産後落ち着いてから改めて治療を行うようにしましょう。
う蝕によって痛みが生じている場合や投薬が必要な場合は、産科の医師とも連携して安全性の高い薬剤を選択して使用するのが良いでしょう。
セラミック治療の場合、例えば「歯と金属の間に隙間や段差が出来ていて、今後、虫歯になるリスクが高いのでセラミック治療でやり直したい」という場合があります。金属が神経に近接していて、金属を除去しただけでも痛みが出る可能性がある場合などは、隙間や段差の部分だけ応急処置としての治療を行い、産後落ち着いてからセラミック治療は改めて行うといった対処をすることもできます。
歯科治療によって、薬の服用が必要になる可能性については、事前に歯科医師と相談しておくのが良いですね。
根の治療
根の治療は、妊娠中は出来るだけ行わないことをおすすめします。
根の治療は、処置前は痛みがなかった場合でも、根の内部の処置をすることによって痛みが生じてくる可能性があります。また、根の治療は治療回数が多くなる可能性があり、治療前に回数及び期間を正確に予測することが非常に困難です。
思った以上に治療が長引いてしまい、出産までに治療が終わらない・・・といった事態を避けるためにも、積極的に根の治療を開始しないほうが良いでしょう。
※根の先が腫れた・何もしなくてもズキズキ痛むなどの症状がある場合は治療の必要があります。
では、痛みがなければ、歯根及びその周囲に不安な点があったとしても、根の治療を行うことなくセラミッククラウン(被せ物、差し歯)の治療を行っても良いのでしょうか。
それは、非常に危険です。
セラミックは長期的にも経年劣化が少ない素材ですので、正しい使い方をすれば長持ちします。しかし、その土台となる自分の根の状態が悪くなってしまったら?
根の治療を行うには、せっかく入れたセラミッククラウンを壊して外す必要が出てしまいます。
レントゲン的に問題がなくても、セラミック治療の前には全ての根の治療をやり直さないと、セラミック治療に進まないという考えの歯科医師もいるほどです。それだけ、クラウンの治療の場合は根の状態が重要になってきます。
根の状態に少しでも不安がある場合は、妊娠中に治療を行うよりも、治療期間に制約がない時にしっかりと根の状態を整えた上で、セラミッククラウンを入れることをおすすめします。
ホワイトニング
妊娠中は様々なことが気になる方が多いので、「自分の歯の色が気になってきたので、ホワイトニングをしたい」と来院される妊婦さんは少なくありません。しかし、妊娠中のホワイトニングは行うことができません。
ホワイトニングでは、様々な薬剤を用います。その薬剤全てが妊娠中に悪影響を及ぼさないと断言できないのです。
では、ホワイトニングとセラミック治療の関係とは、どのようなものでしょうか。
セラミック治療、特に前歯部の補綴の際に「今よりも出来るだけ白い歯を入れたい」と希望される方が多くいらっしゃいます。
前歯6本を一度に治療するのであれば、白さは比較的自由に選択できます。しかし、前歯4本など御自身の歯が残っている場合は、ホワイトニングによってご自身の歯の色調を白くして、その白さにセラミックの色調を合わせることをおすすめしています。
「ホワイトニングは後からやるので、今よりも白い歯を入れたい」と希望される方もいらっしゃいます。しかし、ホワイトニングによる色の変化には個人差があります。白さが増す人もいれば、透明感が際立つ人もいます。ホワイトニングを行う前から、仕上がりを予測することは非常に困難です。
そして、セラミックの特徴は、その色調再現性の緻密さにあります。ホワイトニング後のご自身の歯の微細な色調のグラデーションにも合わせて、より自然に製作することができるのです。
そのような細かな色調を再現するためにも、出産・授乳が終了してからホワイトニングを行い、その色調に合わせてセラミッククラウンを作ることをおすすめします。
【まとめ】妊娠中のセラミック治療はできるの?注意点も解説
妊娠中におけるセラミック治療について解説しました。
この記事では、下記のようなことが分かったのではないでしょうか。
- セラミックは組織為害性がなく、非常に安定した素材なので、妊娠中も安心して使用することが出来る
- 妊娠中に歯科治療を行う際は、妊娠中期に行うのがベスト
- セラミック治療において、局所麻酔やレントゲン撮影は妊娠中でも可能だが、心配な場合は歯科医師に相談する必要する
- 薬の服用や根の治療が必要になるセラミック治療は、妊娠中は出来るだけ控える
- ホワイトニングは妊娠中に行うことが出来ない。そのため、ホワイトニングを併用した全顎的な審美治療は、産後落ち着いてから行うのがおすすめ
妊娠中は、妊婦歯科健診を無料で受けることができます。
妊娠中期になったら妊婦歯科健診を受診し、自分のお口の中の状態を把握するようにしましょう。
そして、セラミック治療を行う場合に必要な処置や治療に必要な期間、妊娠中の治療におけるリスクについてなども、納得いくまで診察・相談を受けることをお勧めします。