虫歯や外傷、その他の理由で歯の一部を失った際に行う修復治療のひとつに「クラウン(差し歯・被せ物)」があります。治療した歯でも自然な見た目を維持したいと考える方が増え、「白い差し歯を入れたいけれど、保険は適用されるのだろうか?」「保険と自費では、何がどう違うのだろう?」といった疑問や悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
費用を抑えたい気持ちと、審美性や耐久性を追求したいという思いの間で、どの素材や治療法を選ぶべきか迷うこともあるでしょう。
この記事では、白い差し歯(被せ物)の保険適用範囲と、保険診療と自由診療の種類・特徴・費用の違いを詳しく解説します。
この記事を読むことで、クラウン(差し歯・被せ物)の種類や保険診療・自費診療の違いを深く理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
こんな疑問が解決
- 白い差し歯(被せ物)を入れたい場合、保険は適用されるのか?
- 保険診療の差し歯(銀歯やレジン)の素材、メリット・デメリットは何か?
- 自由診療(セラミックやジルコニア)の差し歯の素材、メリット・デメリットは何か?
- 保険診療と自由診療の差し歯では、治療費がどれくらい違うのか?
- 見た目、耐久性、費用、健康面を考慮した自分に最適なクラウンの選び方
目次
保険診療と自由診療のクラウンの素材の違い
保険診療と自由診療のクラウンでは、使用している材料が全く異なります。
保険診療のクラウンの素材
保険診療のクラウンで使用が認められている材料は、金銀パラジウム合金、純チタン、コンポジットレジンなどです。
保険診療のクラウンの材料は、目立ちにくいものは強度が足りず、強度がしっかりしているものは審美性が不足しています。
自費診療のクラウンの素材
自由診療のクラウンでは、保険診療では使用が認められていませんが、審美性に優れたセラミック材料が主に用いられるほか、金合金も使われています。
セラミック材料は、審美性の高さと強度の両方を備えているため、たいへん優れた治療材料です。金合金は審美性の点ではセラミック材料に劣りますが、金銀パラジウム合金より柔軟性や衛生面で優れています。
クラウンの種類
現在、歯科治療で用いられている主なクラウンについてご紹介します。
保険診療のクラウン
保険診療のクラウンは、大きく分けると金属製とコンポジットレジンで製作されたプラスチック製に分けられます。
全部鋳造冠
歯冠全体を被覆するクラウンです。
使用材料は長らく金銀パラジウム合金のみ認められていましたが、令和元年9月から大臼歯部に限って純チタンも保険診療に導入されました。
4/5冠
歯冠の頬側面を除く部分を被覆するクラウンです。
臼歯部の歯冠は、頬側面、舌側面(口蓋側面)、近心面、遠心面、咬合面から構成されているため、このような名称がつけられたようです。
硬質レジン前装金属冠
金銀パラジウム合金で製作されたクラウンの唇側面にコンポジットレジンを貼付したクラウンです。唇側面以外は、全部鋳造冠と同じく金属が露出しています。硬質レジン前装金属冠は、前歯部の補綴治療に適応があります。
CAD/CAM冠
CAD/CAM冠は、コンピューターで制御された専用の工作機械を使って製作されたクラウンです。
保険診療のCAD/CAM冠は、コンポジットレジンのブロックを削り出して作ります。小臼歯部を中心に適応されていましたが、令和元年9月から前歯部にも適応されることになりました。大臼歯にも認められるようになりましたが、原則的に上下顎の両側の第二大臼歯があり、左右の咬合支持がある場合の第一大臼歯に限られます。
硬質レジンジャケット冠
硬質レジンジャケット冠は、コンポジットレジンで作られたクラウンです。
原則的に前歯部と小臼歯部に適応があり、大臼歯は金属アレルギーがある場合に限って適応となります。コンポジットレジンの重合方法の違いにより、光重合タイプと加熱重合タイプの2種類に分けられます。
自由診療のクラウン
自由診療のクラウンでは、セラミッククラウンが中心となっています。
ジルコニアオールセラミッククラウン
ジルコニアとは、人工ダイヤモンドという別名を持つセラミック材料です。
ジルコニアオールセラミッククラウンはジルコニアを内面フレームに適応し、外面を専用ポーセレンで製作した金属材料を全く使わないセラミッククラウンです。
ジルコニアは光透過性に加え強度も優れた素材です。ポーセレンの審美性の高さを損なうことが一切ありません。このため、ジルコニアオールセラミッククラウンは透明感や色調再現性に優れており、天然歯と違いがほとんどないと言われるほどの自然感を得ることができます。
陶材焼付鋳造冠
陶材焼付鋳造冠とは、内面フレームに金属材料を用いたセラミッククラウンです。メタルボンド、もしくはセラモメタルとも呼ばれます。
ジルコニアオールセラミッククラウンが登場するまでは、陶材焼付鋳造冠がセラミッククラウンの主流でした。金属材料を全く使わないジルコニアオールセラミッククラウンと比べると若干審美性が低くなりますが、ポーセレンを外層に用いていることによる天然歯に近似した審美性の高さが特徴です。製作の難易度もジルコニアオールセラミッククラウンより優れています。
e-max
e-maxは、二ケイ酸リチウムというガラス系のセラミック材料で製作されたセラミッククラウンです。
二ケイ酸リチウムはポーセレンよりは強度が高いのですが、ジルコニアほどの強度ではないので、e-maxはロングスパンのブリッジに適応できません。審美性の点では、e-maxは金属材料を一切用いていませんから、陶材焼付鋳造冠よりも優れています。
ゴールドクラウン
ゴールドクラウンは、金合金やプラチナ合金などの貴金属で製作されたクラウンです。金銀パラジウム合金と比べると、生体親和性が高い上に適合性もよく、二次齲蝕のリスクも低いです。金属イオンの流出も起こしません。
強度の面でも優れており、天然歯に近い硬さなので対合歯を損傷するリスクもほとんどありません。
保険診療のクラウンのメリットとデメリット
保険診療のクラウンの特徴をメリットとデメリットに分けてご説明します。
メリット
保険診療のクラウンのメリットには、次のようなものが挙げられます。
治療費が低い
保険診療は治療費の総額が自由診療と比べて低く設定されている上、治療費の大部分が給付として補助されるため、自己負担額が低く抑えられます。
普遍的な治療が受けられる
保険診療で用いられる材料は、すべて定められています。そのため、全国どこの歯科医院で治療を受けても、同じ治療が受けられます。
デメリット
保険診療のクラウンのデメリットには、次のようなものが挙げられます。
審美性が低い
金銀パラジウム合金や純チタンは、不自然な金属色です。治療後の仕上がりも、天然歯とは全く異なる不自然さが否めません。
コンポジットレジンは金属材料と比較すると白いので審美性はまだ良いのですが、光沢感がないため、セラミックのような自然な白さではなく、人工物感の残る白さとなってしまいます。
歯肉変色
金銀パラジウム合金は、時間の経過とともに金属イオンが溶出していく傾向があります。溶出した金属イオンが歯肉に沈着し、歯肉変色を引き起こすことも珍しくありません。
レジンの変色
硬質レジン前装金属冠や硬質レジンジャケット冠に用いるコンポジットレジンは、唾液などの水分を吸収することで少しずつ黄色みを帯びる傾向があります。当初、歯に近似した白さであっても、次第に黄色く変色していきます。
プラークがつきやすい
金銀パラジウム合金やコンポジットレジンの表面は、齲蝕や歯周病などの原因となるプラークが付着しやすい傾向があります。プラークコントロールの点では、あまり優れた治療材料とはいえません。
破損や脱離のリスク
プラークコントロールの点で不利なので二次カリエスの発生リスクが高い傾向があり、クラウンが脱離するリスクがあります。
CAD/CAM冠や硬質レジンジャケット冠は、強度が弱いので咬合圧により破損するリスクがあります。また、硬質レジンジャケット冠は耐摩耗性が低いため、咬合しているうちに摩耗して破損することもしばしばみられます。
金属アレルギーのリスク
金銀パラジウム合金など、歯科治療で用いられる金属材料に金属アレルギーがある場合、金属補綴物では金属アレルギーを起こすリスクが避けられません。
自由診療のクラウンのメリットとデメリット
自由診療のクラウンの特徴を、メリットとデメリットからご説明します。
メリット
自由診療のクラウンのメリットには、次のようなものが挙げられます。
審美性が高い
セラミッククラウンは光沢感や透明感が天然歯に近いため、とても自然で美しい仕上がりが得られます。
変色しない
セラミックは安定性の高い素材なので、コンポジットレジンのように変色しません。天然歯のような光沢感や透明感を伴う白さを半永久的に保つことができます。もちろん、歯肉に変色を起こすこともありません。
衛生的
セラミッククラウンやゴールドクラウンの表面は、プラークが付着しにくい傾向があります。このため、衛生的でプラークコントロールという点でもたいへん優れています。
生体親和性が高い
セラミックは生体親和性が高く、アレルギーのリスクがありません。金合金やプラチナ合金も同様に生体親和性が高いため、金属材料ですがアレルギーを起こしにくい材料です。
デメリット
自由診療のクラウンのデメリットには、次のようなものが挙げられます。
治療費が高い
自由診療のクラウンの治療は、保険診療の給付が得られませんから全額自己負担です。治療費も、保険診療の治療費より高く設定される傾向があります。
技術的難度の高さ
例えば、ジルコニアオールセラミッククラウンは、咬合面の厚みが均等になるように形成しなければ破損のリスクがあります。保険診療の全部鋳造冠にはそのようなリスクはほとんどなく、厚みに多少の差があっても破損することはありません。
このようにセラミッククラウンは、形成時の技術的難度が高くなる傾向があります。
クラウンの治療費
各クラウンの治療費を保険診療と自由診療に分けてご説明します。
保険診療のクラウン
保険診療の給付額は、1点10円で算出します。基本的に外来窓口での自己負担割合が3割ですので、この割合で負担額をご説明します。計算の根拠は、令和2年10月1日改定分の社会保険歯科診療報酬点数になります。
なお、ここでの金額には初診料や再診療、根管治療が必要な場合の治療費、レントゲン写真撮影の費用、支台築造の費用、装着材料費、装着費、補綴物維持管理料などは含まれていません。
形成の費用
全部鋳造冠・4/5冠・硬質レジンジャケット冠は、生活歯で306点、失活歯で166点です。それぞれ918円、498円です。
CAD/CAM冠と硬質レジン前装金属冠の形成費用は、生活歯で796点、失活歯で636点です。それぞれ2388円、1908円です。
印象採得と咬合採得の費用
印象採得は64点、咬合採得は18点ですので、それぞれ192円、54円です。
全部鋳造冠
全部鋳造冠は、金銀パラジウム合金タイプで小臼歯1198点、大臼歯1493点です。したがって、窓口での負担額は小臼歯3594円、大臼歯4479円になります。
純チタンタイプについては、1266点ですので3798円です。
4/5冠
4/5冠は小臼歯903点、大臼歯1135点です。窓口での負担額は小臼歯2709円、大臼歯3405円になります。
硬質レジン前装金属冠
硬質レジン前装金属冠は2100点ですので、自己負担額は6300円です。
CAD/CAM冠
CAD/CAM冠は前歯1776点、小臼歯1454点、大臼歯1642点です。このため窓口での負担額は前歯4328円、小臼歯4362円、大臼歯4926円になります。
硬質レジンジャケット冠
硬質レジンジャケット冠だけは、適応部位ではなく、素材によって治療費が異なります。光重合タイプで951点、加熱重合タイプで776点ですので、窓口での負担額は、光重合タイプが2853円、加熱重合タイプが2328円です。
自由診療のクラウン
自由診療は、各歯科医院で自由に治療費を設定できます。詳しい治療費は、それぞれの歯科医院で相談していただく必要があります。そこで、ここでは1本あたりの相場の値段でご説明します。
ジルコニアオールセラミッククラウン
ジルコニアオールセラミッククラウンは、1本あたり10〜20万円が相場のようです。
陶材焼付鋳造冠
陶材焼付鋳造冠はジルコニアより加工が容易ということもあり、1本あたり8〜12万円が相場です。
近年、金属材料の値段の高騰を受け、ジルコニアオールセラミッククラウンに近づきつつあります。
e-max
e-maxは金属材料を使わない上にガラス系セラミックで製作されているため、陶材焼付鋳造冠より少し安価です。1本あたり5〜10万円が相場です。
ゴールドクラウン
ゴールドクラウンは、1本あたり5〜10万円が相場です。
【まとめ】白い差し歯(歯の被せ物)は保険適用される?保険診療と自由診療の種類と値段も解説
白い差し歯(被せ物)の保険適用範囲と、保険診療と自由診療の種類・特徴・費用の違いについて詳しく解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。
この記事のおさらい
- クラウン(被せ物)は、保険診療と自由診療とで、使用される素材(金属、レジン、セラミック、ジルコニアなど)や特性が大きく異なる
- 保険診療のクラウンは、治療費が低いという大きなメリットがある一方、審美性が低い、時間の経過による変色、金属アレルギーのリスクといったデメリットがある
- 自由診療のクラウンは、セラミックやゴールドなどの素材により、審美性が高く、衛生的で変色もせず、生体親和性も高いという優れた特性を持つが、全額自己負担となるため費用が高額になる
- 保険診療でも、CAD/CAM冠など、部位や条件によっては、白い被せ物が適用されるようになってきている
審美性の高さや材料の特性(変色しにくさ、衛生面、生体親和性)では、自由診療のクラウンが圧倒的に優れており、費用面では保険診療のクラウンに大きな利点があります。
補綴治療を選択する際は、費用や見た目(審美性)、耐久性、健康面(金属アレルギーなど)といった、各クラウンの特徴を十分に理解することが大切です。ご自身の希望やライフスタイル、治療する部位などを考慮し、歯科医師とよく相談しながら最適なクラウン(差し歯・被せ物)を選ぶようにしましょう。

