キシリトールは糖アルコールの一種であり、身近なものでいえば果物や野菜に含まれている成分です。古くから摂取に対して安全性が確立されており、虫歯予防の効果があるといわれています。
アメリカでは一日にどれだけ摂取しても問題ないとされています。具体的にどのようなメカニズムで虫歯予防の効果が発揮されるのか見ていきましょう。
目次
キシリトールとは
キシリトールは砂糖と同程度の甘さがありますが、砂糖のカロリーが約4cal/gに対して、キシリトールのカロリーが約3cal/gと砂糖に比べてやや少ないです。
1970年代にフィンランドでキシリトールと歯との関係の研究が開始し、1983年には国際的な機関である国連食料農業機関(FAO)や世界保健機関(WHO)からも効果が認定された物質です。日本においても1997年に厚生労働省から認可を得ています。
キシリトールは天然にも存在する糖アルコールの一種です。樫の木や白樺から精製され、工業的にはキシランヘミセルロースを加水分解し、水素添加することで生成することができます。
キシリトールは水に溶けると、熱を奪う性質があり、口の中に入れると独特の冷感があります。また体内で代謝するにあたり、インスリン(血糖を下げるホルモン)が必要ないため、糖代謝に異常のある人が摂取しても影響は少ないとされています。
糖アルコールにはソルビトール(甘味度は砂糖の60%から70%)、マンニトール(甘味度は砂糖の70%程度)、マルチトール(低カロリー甘味料)などが存在しますが、虫歯予防の効果が認められているのはキシリトールだけです。
キシリトールが虫歯にならないメカニズム
キシリトールが虫歯予防に関与するメカニズムを語る前に、まずどうして虫歯になるのでしょうか。
甘いお菓子やジュースがお口の中に入ると、それを細菌が食べ酸を産出します。この酸が歯の表面を脱灰し酸性状態にします。すると歯の中に含まれるカルシウムやリン酸が溶けます。これが脱灰です。
脱灰によってカルシウムやリン酸が失われたとしても、通常は唾液の緩衝作用で中性にし、さらに唾液中に含まれるカルシウムやリン酸が歯に沈着し再石灰化へと誘導します。
しかし、脱灰の状態が長く続いてしまうと、唾液の緩衝作用や再石灰化作用が追いつかなくなり、初期虫歯へと繋がります。これが虫歯のできるメカニズムです。
キシリトールは口腔内に入ると味蕾(みらい)が刺激されて、唾液分泌が促されます。唾液分泌促進により口腔内のカルシウム濃度が上昇し、またキシリトールとカルシウムが結合して再石灰化の能力が向上します。これはソルビトールやマルチトールといった他の糖アルコールにもみられる特徴です。
キシリトール独自の特徴としては、プラーク中のショ糖を分解するシュクラーゼの活性を低下させ、プラーク中での酸産生を抑制します。またアンモニア濃度を上げることによって産生された酸を中和することができます。
さらにキシリトールにはミュータンス連鎖球菌群を含む連鎖球菌に対する抗菌性もあります。具体的にはキシリトールを細菌内に取り込むと、ホスホエノールピルビン酸依存ホスホトランスフェラーゼシステムによってキシリトール5リン酸に代謝されます。
このキシリトール5リン酸はこれ以上代謝することなく細胞内に蓄積され、糖代謝の一翼を担う酵素であるホスホフルクトキナーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、ピルビン酸キナーゼを阻害し、細菌の生命維持に必要なエネルギー産生を低下させます。
ミュータンス菌の中にはキシリトールを取り込まない性質を持ったものもいます。
キシリトールに非感受性のミュータンス菌です。この非感受性のミュータンス菌はキシリトール摂取を継続していくと、感受性のミュータンス菌が減少する代わりに増加していきます。しかし非感受性のミュータンス菌は酸産生が少ないため、数が増加したとしてもそれほど問題ではありません。
効率の良いキシリトールの摂取方法
キシリトール含有の食品(野菜や果物)や、ケーキやジュースを食べたり飲んだりしても、キシリトールの効果を発揮することはありません。なぜならばキシリトールが低濃度であり、口腔内に貯留することができないからです。
キシリトールの効果を十分に発揮するものはキシリトールが高濃度含有されているガムやタブレットです。
キシリトールが50%以上配合されているガムやタブレットを5gから10gほど毎食後に摂取し、少なくとも3か月以上摂取しなければ十分な効果を得ることができません。
ただし、キシリトールを摂取する前にもっと大切なことがあります。それはしっかりと歯を磨くことと、フッ化物の応用を積極的に進めることです。
キシリトールによる虫歯予防はこれらが前提として成り立つものであり、逆に言えばこれらがしっかりと確立していないと十分な効果が発揮できません。
【まとめ】キシリトールの虫歯予防における効果と成分について
キシリトールが虫歯予防に貢献するものは二つあります。
一つは唾液分泌作用と歯の再石灰化促進作用です。これは他の糖アルコールと同じように作用します。
もう一つはプラーク中の酸の中和促進と、細菌の糖代謝を阻害し、結果として酸産生を阻害するものです。これは他の糖アルコールにはないキシリトール独自の作用になります。