虫歯の原因は「細菌」「糖」「宿主」です。
(宿主:歯の質や唾液の質・量など)
この3つが揃い、そこに時間経過が加わることによって虫歯が発生します。
そして、この原因には様々な要因が複雑に絡み合ってくるのです。
この記事では、虫歯の原因とその要因について解説します。
この記事を読むことで、虫歯の原因およびその予防法を理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
- 毎日歯磨きしているのに虫歯になってしまうのはなぜ?
- ストレスが増えると虫歯も増える?
- 砂糖を食べなければ、虫歯にならない?
- キスで虫歯がうつるって本当?
目次
虫歯の原因1:細菌 ~虫歯はキスで感染する⁈~
虫歯の原因菌は、ミュータンス菌(Streptococcus mutans)を主とする口腔内細菌です。
産まれたばかりの新生児には、ミュータンス菌は存在しません。そして、虫歯の原因菌は、その多くが保護者から子供へと感染するのです。
昔は、親が硬い食べ物を噛み砕いて食べやすい状態にしてから子供に与えたりしていましたが、現在は虫歯予防の観点から行われなくなりました。
それでも些細なこと、例えば、大人が使っているお箸で子どもの食事に触れたり、同じコップやストローで飲み物を飲んだり、キスした時のほんの少しの唾液の移動でも、ミュータンス菌は子どもの口腔内に入ってしまうのです。
お口の中に歯が生えていない状態では、ミュータンス菌は口腔内に入ってもすぐに唾液で流されていくので心配ありません。しかし、少しでも乳歯が萌出してきたら、注意が必要です。
とはいっても、保護者から子供のミュータンス菌の感染を完全に防ぐのは容易ではありません。
まずは、感染の時期を少しでも遅らせることが出来るように努力しましょう。それと並行して、子供の口腔内にミュータンス菌が入ってしまったとしても、定着しないよう対策をとることが大切です。
ミュータンス菌が定着するのに必要なのは糖です。
ミュータンス菌は、糖を摂取することで不溶性グルカンというネバネバした成分を作り出します。それを用いて歯面にくっつくのです。そのため、お口の中に入る糖の量をできるだけ減らすことが重要となってきます。さらにミュータンス菌が定着し続けないように、しっかり歯磨きを行うことが大切です。
また、保護者の口腔内細菌数を少なくすることも、感染の機会を減らすという意味で、子供の虫歯予防に繋がります。
親子で虫歯予防に取り組んでいくことが大切です。
虫歯の原因2:糖 ~量より時間が重要⁈~
まず、ミュータンス菌に糖を与えるとどうなるのかをみていきましょう。
細菌が糖を取り込むと、粘着性のある不溶性グルカンと酸を産生します。
不溶性グルカンによって細菌は歯の表面に定着し、そして酸が歯の表面に留まることによって歯の表面が溶け、虫歯が形成されるのです。
では、どうすれば良いか。
対策は3つあります。
- 歯の表面が溶かされないようにする
- 細菌が定着しないようにする
- 細菌が酸と不溶性グルカンを産生出来ないようにする
それぞれをみていきましょう。
①歯の表面が溶かされないようにする
これには、宿主要因である唾液が大きく関与してきます。
ミュータンス菌が糖を取り込み、酸を産生することによって、口腔内のpHが酸性に傾きます。
pHが5.5以下になると、歯の表面が溶け出してきます。これを脱灰と言います。
この酸性に傾いたpHを元に戻してくれるのが、唾液なのです。
唾液は酸性に傾いたpHを徐々に中性に戻す(緩衝能と言う)ことによって、歯が溶け出すのを防ぎます。
また、溶かされた歯の表面を修復するよう働きます。これを再石灰化と言います。
しかし、再び口腔内に糖が入ってくると、ミュータンス菌が糖を取り込み、再び酸を産生するので、また酸性へと逆戻りしてしまうのです。
このように、口腔内では絶えず「脱灰と再石灰化」という虫歯との攻防戦が繰り広げられています。
ここで重要なのは、「脱灰と再石灰化」のバランスです。
いったん酸性に傾いた口腔内は、唾液の緩衝能によって中性に戻っていきますが、それには一定の時間が必要となります。
その間にまた次の糖が口腔内に入ってきたら?
お口の中のpHは再び酸性へと傾き、脱灰が始まり、再石灰化の時間は短くなります。脱灰により溶けた分の歯質の修復が追いつかなくなると、歯は溶け続けることとなります。
このように、「脱灰と再石灰化」のバランスが崩れた時に、虫歯となるのです。
この状態を引き起こす食生活が、「頻回の糖の摂取」=「ダラダラ食べ」です。
常にお口の中にアメやジュースが取り込まれていたり、間食を何度も行っていたりすると、口腔内は酸性のまま、中性に戻る時間が持てなくなります。すると、再石灰化が行われずに常に脱灰が行われることになるのです。
虫歯のリスクがとても高くなります。
もちろん、糖の摂取量を減らすことも、酸の産生量に関与します。しかし、それよりも大切なのは、ダラダラ食べはせず、食事の時間にメリハリをつけ、お口の中に糖が入っていない時間、つまり再石灰化の時間を長く確保することです。
デザートは、食後すぐに食べる。
水分補給には無糖タイプの飲料を選択する。
お菓子は時間を決めて食べる。
などの生活習慣が必要です。
②細菌が定着しないようにする
これは、毎日のブラッシングが基本となります。
特に、汚れが蓄積しやすい歯と歯の間や歯と歯肉の境目(歯の根元)、咬合面の溝などに注意して磨くことが大切です。これには、歯間ブラシやデンタルフロスを併用していきましょう。
しかし、全ての汚れを落とすのはなかなか大変です。
残ってしまった細菌は、時間経過と共に歯面に強固に付着し、歯ブラシだけでは除去できなくなっていきます。このような場合は、歯科医院での定期的なクリーニングを行うことをおすすめします。
③細菌が酸と不溶性グルカンを産生出来ないようにする
これには、代用甘味料が効果的です。
ミュータンス菌はキシリトールなどの代用甘味料を取り込んでも、酸および不溶性グルカンを産生することが出来ません。そのため、菌の定着と酸の産生を阻止することが可能となります。
しかし、もともと食材に含まれている糖分もあるので、全ての糖を代用甘味料に置き換えることは不可能です。
※代用甘味料の種類によっては酸や不溶性グルカンを産生するものもあります。
おやつを選ぶ際や、よく飲む飲み物に砂糖を使用する場合は代用甘味料を選択するなど、補助的に用いるのが良いでしょう。
虫歯の原因3:宿主 ~ストレスで虫歯になる?~
宿主における虫歯の原因は、具体的には「唾液の質・量」「歯の質」「歯並びなど」が挙げられます。
順番にみていきましょう。
唾液の質・量
唾液は虫歯に対抗する重要な因子です。
先述したように、唾液には口腔内の酸性に傾いたpHを中性に戻す「緩衝能」という働きと、脱灰によって溶け出した歯の表面を修復する「再石灰化」の働きがあります。
それ以外にも、唾液には口腔内の細菌や食物残渣を洗い流して清潔に保つ「自浄作用」、細菌の増殖を抑える「抗菌作用」などもあるのです。
唾液の量が多ければ多いほど、自浄作用や抗菌作用は大きく働きます。また、緩衝能は個人差もありますが、唾液の量に比例して作用します。
しかし、この唾液の量は常に一定ではなく、様々な要因によって増減するのです。
唾液が増加する要因
- よく咬んで食べる、口を動かす
- こまめな水分補給(唾液を産生するために水分を必要とするため)
唾液が減少する要因
- ストレス
- 口呼吸
- 加齢
- 喫煙
- アルコールの過剰摂取
- 薬物の副作用
- 糖尿病などの疾患
ストレスによる唾液の減少メカニズムをみてみましょう。
リラックスした状態では、副交感神経が優位になるため、水分の多いサラサラした唾液が多く分泌されます。
ここにストレスが加わると、交換神経が優位になります。すると、水分の少ないネバネバした唾液が少量分泌されるようになります。
緊張すると口が乾くのはこのためです。
このようにストレスが多くかかると唾液の量が減少するため、虫歯へのリスクは高くなるのです。
歯の質
乳歯や萌出したての幼弱永久歯は再石灰化が不十分なために、虫歯に対するリスクが大きくなります。
また、加齢や歯周病によって歯肉が下がり、歯根が露出する場合なども、根面は歯冠と比べると柔らかいセメント質から構成されるためにリスクが高くなります。
歯並びなど
歯列不正であると、歯磨きが難しくなります。
歯ブラシが届きにくい部位や歯が重なっている部位などに磨き残しができやすく、プラークコントロールが不良になりやすいために、虫歯リスクが高くなるのです。
また、虫歯の治療をした部位は、虫歯のリスクが高くなります。
矛盾しているようにも感じるかもしれませんが、虫歯の治療をすると、虫歯になりやすくなるのは事実です。歯科における治療のほとんどは、一度欠損した部分を別の材質で補填することになります。そのため、どうしても年月が経つとその境い目にすき間が空いてしまうことが多くなります。
その他にも素材の劣化や接着剤の溶出など、様々な要因が出てきてしまうリスクが生まれます。
また、神経を除去した失活歯などは、歯と被せ物の間などから虫歯が生じ、内部で進行していても、痛みを感じないために発見が遅れてしまいがちです。いきなり歯が大きく欠けて初めて気が付くことも珍しくありません。
治療の履歴がある方は、定期的にレントゲンを撮影するなどして、歯の内部の状態も確認していく必要があります。
【まとめ】虫歯ができる3つ原因と意外な要因も解説
虫歯ができる原因とその予防法を解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。
- 虫歯の原因は「細菌」「糖」「宿主」
- 虫歯の原因菌は、保護者から子供へと感染する
- 感染を防ぐことと、細菌感染しても定着を防ぐことが大切
- 虫歯の原因菌に糖を与えることによって、虫歯が出来る
- 完全に糖を断つことは難しいので、菌が虫歯を作りにくい環境を作る食生活を心掛けることが必要。特にダラダラ食べを止めて、糖が口腔内に入らない時間を長くすることが大切
- 唾液は虫歯に対抗する重要な因子であり、唾液を増加させるよう心掛けることと、唾液を減少させないようにすることが大切
- 唾液はストレスや口呼吸、喫煙などで減少しやすい
- 歯並びが悪いとプラークコントロールが難しくなるため、虫歯になりやすい
- 虫歯の治療をした歯は再度虫歯が発生しやすいため、定期健診などで長期的に管理することが求められる。
虫歯のメカニズムを知ることによって、どのようなことが虫歯のリスクに繋がるのか、ご理解いただけましたでしょうか。
ご自身の生活の中で、虫歯のリスクを上げるようなことがないかどうか、確認してみてください。また、定期的に歯科医院にてチェックを行うことも、虫歯予防には欠かせません。気になる症状などなくても、定期健診を受診することをおすすめします。