笑顔は、人の第一印象を決定する重要な要素のひとつです。
笑ったときに歯肉が過剰に露出して、不自然な笑顔になるのがガミースマイルです。
そのため、ガミースマイルは病的な問題にはなりませんが、審美的に問題とされ適切な治療が望まれます。
審美的な悩みによるコンプレックスが、社交性などの心理面に悪影響を及ぼすこともあるからです。
ガミースマイルの治療法にはいくつかありますが、そのひとつが、ボトックスを使った薬物治療です。
今回は、ボトックスによるガミースマイルの治療法についてご説明します。
目次
ガミースマイルとは
ガミースマイルとは、一体どのような原因で生じるのでしょうか。まずはガミースマイルの原因からみていきます。
ガミースマイルの原因
ガミースマイルの原因として挙げられるのは、歯肉増殖、受動的な前歯部の萌出異常、上顎骨の歯槽突起の挺出、上顎骨の垂直方向への過成長、上口唇の横幅の異常、上口唇の過大な可動量などが挙げられます。
これらは、単独でガミースマイルを発症するのではなく、いくつかの原因が複合して発症すると言われています。
ガミースマイルの診断基準
ガミースマイルかどうかの診断基準は、上口唇のリップラインが用いられます。
上口唇のリップラインは、低位、中位、高位の3段階で評価されます。
低位は、笑ったときに上顎前歯が一部しか見えない状態です。
中位は、上顎前歯の辺縁から歯肉が1〜3㎜露出する状態、高位は3㎜以上歯肉が露出する状態です。
リップラインが高位の場合、ガミースマイルと診断されます。
ボトックスの適応症
ガミースマイルの治療法はさまざまです。
今回のテーマであるボトックスは、上口唇の過大な可動量、すなわち上口唇の上方への過剰な挙上によって生じるガミースマイルの治療に適応があります。
ボトックスとは
次に治療に用いられる代表的な製剤である、ボトックスについてご説明します。
ボトックスとは
ボトックスとは、末梢性筋弛緩薬に分類される薬剤で、一般名はA型ボツリヌス毒素といいます。
ガミースマイル治療のほか、顔面領域では眼瞼痙攣や片側性の顔面痙攣などの治療にも用いられます。
ボトックス以外のA型ボツリヌス毒素製剤
A型ボツリヌス毒素製剤は、ボトックスだけではありません。
現在、アラガン社からボトックスビスタ、帝人からゼオマインが厚生労働省から製造販売の承認を受けています。
ボトックスの作用機序
ボトックスを筋肉内に投与しますと、神経終末からエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれたのち、シナプス小胞のシナプス前膜への融合に関係するタンパク複合体の特定部位を切断し、シナプス小胞からのカルシウム依存性アセチルコリンの放出を阻害します。
この結果、神経筋接合部での信号伝達が阻害され、骨格筋が麻痺します。
禁忌症
ボトックスは、妊婦や授乳婦への投与が禁忌とされています。
したがって、ボトックスを使ったガミースマイルの治療は、妊娠中や授乳中の方は受けていただくことはできません。
このほか、全身性の神経筋接合部障害、高度の呼吸機能障害も禁忌です。
ガミースマイルへのボトックス効果
ボトックスは、神経終末からのアセチルコリンの放出阻害により骨格筋を麻痺させます。
上口唇を挙上する上唇挙筋や上唇鼻翼挙筋にボトックスを注入すると、注入から2週間ほどかけて徐々にこれらの筋を麻痺させていきます。
上口唇の上方への挙上を抑制することで上口唇の可動範囲を減少させて、ガミースマイルを改善させます。
ボトックスのメリット
ボトックスを使ったガミースマイル治療には、このようなメリットがあります。
治療時間が短い
ボトックスの注射に要する時間は5〜10分程度です。
ガミースマイルの治療法はいくつかありますが、ボトックスは最も治療時間が短い治療法です。
術後の負担が少ない
ボトックスによる治療では、疼痛や腫脹などの炎症性反応はほとんど認められません。
日常生活への影響はほぼありません。
ボトックスのデメリット
ボトックスによるガミースマイル治療には、以下のようなデメリットがあります。
後戻りを起こす
ボトックスによる骨格筋の麻痺は、神経線維の側枝の伸長と神経筋接合部の再構築によって次第に回復していくため、ボトックスの薬効は数か月程度で消失します。そのため、6か月程度でボトックスのガミースマイルへの効果は失われます。
効果を持続させるためには、一定期間おきにボトックスを注入する必要があります。
皮下出血
ボトックスを注射した部位に皮下出血を認めることがあります。皮下出血の範囲は限定的ですので、あまり目立つことはありません。
抗体産生の可能性
ボトックスを投与したのち、抗体産生により耐性が生じる可能性があります。耐性が生じると、骨格筋の麻痺が得られなくなります。
避妊
女性は、投与中と投与終了後2回の月経を経るまで避妊、男性は投与中及び投与終了後少なくとも3か月は避妊する必要があります。
相互作用
ボトックスは、抹消性の筋弛緩薬です。
頸肩腕症候群や肩関節周囲炎、腰痛症などの治療目的で、すでに筋弛緩薬を投与されていると、相互作用を起こすことがありますので、主治医に相談する必要があります。
帰宅
ボトックスは投与後、運転注意が指示されています。治療後は、車を運転しての帰宅は避けたほうが安心です。
ボトックスによる治療のリスク
ボトックスによるガミースマイルの治療は、侵襲も少なく治療時間も短いのですが、リスクや失敗例が全くないわけではありません。
表情筋へのリスク
顔の表情を司る表情筋にボトックスが作用すると、表情筋が麻痺を起こし、表情が不自然になってしまうリスクがあります。
上口唇の左右非対称化
上口唇を挙上する筋肉の麻痺の程度に左右差が生じると、上口唇の挙上量が左右で非対称化するリスクがあります。
薬物アレルギー
ボトックスに限らず、発現頻度は低いですが薬物にはアレルギー反応を示すリスクがあります。中には、アナフィラキシーショックという重篤なアレルギー反応を示すケースもあります。
ボトックス治療の流れ
では、一般的なボトックスによるガミースマイル治療の流れについてご説明します。
①診断
ガミースマイルかどうか、そしてボトックスによる治療の適応があるかどうかを診断します。
②インフォームド・コンセント
ボトックスによる治療のメリットやデメリットについて説明し、同意を得ます。
③注射
両側の上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋に1箇所ずつ合計4箇所に筋肉注射します。
注入量は、10〜50単位です。
術後、しばらく患部の安静を図り終了です。
ボトックスと保険診療
ボトックスによるガミースマイルの治療は、保険診療の適応を受けていません。そのため治療は自費診療となります。
ガミースマイル治療の相場は30,000円〜50,000円ほどですが、詳しい治療費はそれぞれのクリニックでご相談ください。
【まとめ】ボトックスでガミースマイルへの効果はどの程度?失敗して不自然にならないポイント
今回は、ボトックスによるガミースマイル治療についてお話ししました。
ボトックスによる治療は、上唇挙筋などの上口唇を挙上する筋肉の過大な可動量によるガミースマイルに適応があります。
術後の炎症性反応も少なく、治療期間も短くすみます。
ボトックスには禁忌症もありますので、治療に際しては適否をしっかり確認することが大切です。