歯列矯正は子どもの頃から始めることがありますが、小児矯正は単純に大人の矯正の縮小版ではありません。
子どもは成長・発育や歯の生え替わりなど大人には無い要素があるため、治療もそれらに合わせたものになります。
このコラムでは、小児矯正の種類と矯正に用いられる装置についてお伝えしたいと思います。
目次
小児矯正の種類
小児矯正では治療を行うタイミングによって1期治療、2期治療と呼び、その内容も変わります。
1期治療
おおむね、上下の前歯4本ずつと第一大臼歯(6歳臼歯)が生えた頃から行う治療です。
歯の生える角度や上下の歯の干渉による咬み合わせのズレの修正や顎の成長のコントロールなどを行い、将来永久歯に生え替わったときに、きれいな歯並びやしっかりした咬み合わせを実現できるような下地作りを行います。あくまでも、この後に続く2期治療と合わせて理想的な歯列と咬合を獲得していくためのものであり、1期治療のみで完結するものではありません。
治療としては、床矯正装置やリンガルアーチなどを用いて、歯列の拡大や歯の傾斜移動を行ったり、筋機能療法装置などを用いて正常歯列獲得の妨げとなる余計な力を排除したり、骨格レベルでの成長をコントロールして骨格性の不正咬合を予防するなど多岐にわたります。
2期治療
乳歯がすべて生え替わり永久歯列になってから行うものです。理想的な歯列と緊密な咬合を獲得していく段階の治療となり、成人の矯正と同じようなことをします。
1期治療でスペースを作ってもなおスペースが不足する場合など、抜歯を伴う矯正となることもあります。また骨格性の不正咬合の場合は、顎矯正の術前矯正へと移行することもあります。
1期治療で使用する装置
小児矯正の特に1期治療で使用する装置を紹介します。
装置は大きく可撤式、固定式、顎外固定に分類されます。
可撤式矯正装置
取り外し(撤去)が可能な装置で、この中でもメカニズムにより分類されます。
床矯正装置
部分入れ歯のように歯に引っ掛けるためのツメ(クラスプ)があり、本体(床)に組み込まれたパーツやギミックによって矯正力を発揮します。パーツやギミックによってさまざまな名称のものがあります。
イメージとしては矯正用の入れ歯であり、口の中に入れている間だけ矯正力が作用します。そのため、患者である子どもの協力が欠かせません。この装置は一度作ればずっと同じものを使用するのではなく、成長や歯並びの変化に合わせて新しく作り替えたり、他の装置に変更します。
筋機能療法装置
口輪筋や頬筋など口の周りの筋肉の力を鍛えたり、逆に歯に力がかからないようにする装置です。
頬をすぼめたり、唇を巻き込んだり、舌で歯を押す癖がある場合などでは、その行為が矯正力と同じ働きをして、自分自身の力で歯並びを乱すことになってしまいます。
この装置は口周囲の筋肉による力をコントロールし、歯が収まっていられる場所を確保します。そのため、この装置自体に歯を押して位置をコントロールする力があるわけではありません。
FKOやムーシールドといった装置があり、上下一体となったものが多いです。
固定式矯正装置
ご自身では取り外しができない、矯正装置にもいくつかの種類があります。
急速拡大装置
上顎骨の左右の幅を広げて、上顎の歯を並べるスペースを作るための装置です。1日1回中央部にあるネジを回して装置の幅を広げ、口蓋の骨を左右に開いていきます。
上顎骨の成長の程度が低いためにスペースが不足する場合に用いるもので、上顎のスペースが不足するすべてのケースで使用するものではありません。
リンガルアーチ
第一大臼歯(6歳臼歯)に金属製のバンドをつけ、そのバンドにワイヤーをはめ込んで使用する装置です。
歯の舌側(内側)に太めのメインワイヤーが通り、メインワイヤーに補助弾線と呼ばれる細いワイヤーを取り付けます。メインワイヤーは、歯並びの要となる第一大臼歯が動かないように抑える役目を果たし、補助弾線の作用で歯を動かします。
クワドへリックス
リンガルアーチのように、第一大臼歯につけたバンドにはめ込んで使用します。らせん(ヘリックス)状の構造が4つ(クワッド)ついており、歯槽骨部を押し広げて歯列を拡大する装置です。
リンガルアーチと異なり、クワドヘリックスに補助弾線をつけて歯の移動をさせることはできません。
顎外固定装置
骨格レベルでの顎の成長をコントロールする必要があるときに用います。
装置をつけているときだけ矯正力がかかるため、最低でも1日8時間以上の装着が必要です。
ヘッドギア
上顎の成長をコントロールするときに使用します。
装置は口の中に取り付けるワイヤー、ワイヤーと直接つながるフレーム、頭や首にかけるバンド部からなります。上顎の過剰な成長を抑制するものですが、必要に応じて上下方向へのコントロールも同時に行います。
また逆に上顎の成長が不足しているときには、前方向に成長を促すためにも使います(この場合、名前がプロトラクターやリバースプルヘッドギアに変わります)。
顔の前に装置がくるため、寝ている間や家にいる間にのみ使用します。
チンキャップ
下顎の成長を抑制するために用いる装置です。
オトガイ(チン)にキャップをつけ、頭に固定源としてのバンドをつけ、両方をゴムでつなぎます。下顎は成長期に上顎より大きく成長するため、将来的に骨格性の下顎前突(いわゆるしゃくれ)が予想される場合、下顎が大きくなりすぎないようにするために使用します。
【まとめ】子供矯正の種類と使われる装置の役割
小児矯正は、成人矯正では使用しない装置やコンセプトに基づいて行われます。また、1期治療を行えば抜歯を避けられるわけではなく、顎外固定装置を用いれば骨格性の不正咬合が防止できたり、顎矯正が不要になるわけでもありません。
小児矯正はより専門性の高く長期間にわたる治療となるため、十分な診査と診断が重要になります。
子どもの歯並びに不安があるときは、専門医への受診が必要かも含め、早めに相談してみてください。