歯を失ったあとの治療の選択肢として、今やインプラントはメジャーなものになりました。
世界には100種類以上のインプラントメーカーが存在し、日本においても20種類以上のインプラントが販売されています。
昔は、1つの医院では1社のメーカーのインプラントしか取り扱っていないことがほとんどでしたが、今や複数のメーカーの多種多様な種類のインプラントの中から、患者様の口腔内の状態に合わせて選択する時代になってきました。
ここでは、世界4大メーカーのインプラントの特性を比較していくと共に、アジア・太平洋地域シェアNo.1メーカー、そして、日本のインプラントメーカーについても解説します。
この記事を読むことで、各メーカーのインプラントについて理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
- インプラントのメーカーごとの違いってなに?
- どうやって自分に合ったインプラントを選択すればいいの?
- 安価なインプラントはどうして危険?
目次
インプラントとは
歯科におけるインプラント治療とは、「自分の歯を失った部位の顎骨(歯槽骨)に、人工の歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工の歯冠を補綴すること」をいいます。
ブリッジのように隣在歯を大きく削ることなく、義歯のように取り外しの必要もなく、自分の歯に近い状態で機能回復させることが出来るという大きなメリットがあります。
その反面、手術が必要、治療期間が長い、顎骨の状態によって適応症例や予後が異なる、治療費が高額などのデメリットも存在します。
また、歯科医師の技術力も勿論ですが、使用するインプラントメーカーによっても予後が全く違ってくるというのがインプラント治療の特性ともいえます。
信頼できるメーカーの、それぞれの症例に合ったインプラントを選択することも、とても大切なのです。
世界4大メーカーとその特徴について
世界には100種類以上のインプラントが存在しますが、ここではその中でも高いシェア数を誇る世界4大メーカーをみていきましょう。
ノーベルバイオケア社 【スイス】
1950年代、スウェーデンのブローネマルク博士がチタンと骨が結合することを発見し、それを1965年に世界で初めて製品化したのがノーベルバイオケア社です。
このインプラントは「ブローネマルクインプラント」と呼ばれ、50年以上という、もっとも長い臨床実績を誇ります。幅広い症例に対応できるよう製品のサイズ展開も豊富で、狭い部位に用いる細いインプラントや多数歯欠損の場合に用いるインプラント(All-on-4、All-on-6)なども取り揃えられています。
特に初期固定に優れていると定評があります。
初期固定とは、インプラント体を骨に埋め込む際に、例えばスクリュータイプのインプラント体を顎骨にネジを利用して埋め込んだ場合、一定の付加をかけてもネジの部分が回ることなく、顎骨にしっかり固定されていることをいいます。
インプラント体は、最初の埋め込みの際にある程度の初期固定がないと、インプラント体の周囲に骨が新生されずに定着することができない(=抜け落ちてしまう)のです。しかし、初期固定が強すぎるとかえって血流が阻害され、骨が新生されなくなるので、初期固定の強さの程度が重要になります。
また、技術的なことだけではなく、ノーベルバイオケア社は、古い製品に適応するパーツを現在でも供給し続けており、必要な器具などは歯科医院にレンタルしてくれるなど、メーカーからのバックアップ体制も万全です。そのため、再治療やメンテナンス、他院で行われたインプラントの修理などの際にも安心です。
ストローマン社 【スイス】
世界シェアNo.1のストローマン社です。
ベルン大学インプラント専門研究チーム(ITI)との技術提携によって研究開発を進め、製品開発と共に学術的な検証も行っています。
ストローマン社のインプラントで特に優れているのが、「SLActive」と呼ばれる表面処理です。この表面処理をインプラント体に施すことによって、歯槽骨との短期間での結合を可能にしました。
インプラント体が周囲の骨と結合するには、2〜4か月程度かかるとされていたのを、この「SLActive」によって、1~2か月にまで短縮したのです。その結果、治療期間が大幅に短縮されただけではなく、歯肉などの周囲組織の安定性も保たれることとなり、最終的にインプラント周囲の骨や歯肉の退縮を未然に防ぎ、長期間の審美性の維持にも繋がっているのです。
また、ストローマン社のもう1つの技術として、「ロキソリキッド技術」が挙げられます。これは、ジルコニウムという生体親和性が高く、骨との結合も確認されている素材をインプラント体のベースとなるチタンに混ぜ込むことによって、強度を向上させたものです。
それによって、インプラント体の直径を小さくすることができ、顎骨の細い部分など、今までよりもインプラント体を埋め込むことの出来る範囲が大きく広がりました。また、インプラント体を小さくすることによって、顎骨や周囲組織のかかる負担を軽くすることにもつながりました。
このような技術の進歩によって、手術を受けた人の10年後のインプラント生存率(インプラントが脱落せずに残っている割合)98.8%という臨床研究結果を出しているのです。
デンツプライシロナ社(旧アストラティック社) 【アメリカ】
周囲組織への負担が少ない「アストラティックシステム」が有名で、歯周病に強いという特徴があります。
最大直径を少し小さ目に設定することで、初期固定の段階での歯槽骨への負担を最小限にし、それによって骨との結合を促すことで歯槽骨の吸収を抑えています。また、短めのインプラントであるために、歯槽骨表面から神経までの距離が短い、骨の深さがあまり取れない症例などにも適しています。
アジア人は欧米人と比べて骨が薄くて少ない傾向にあるため、そのような場合に適したインプラントだといえます。
ジンヴィ社(旧ジンマー社) 【アメリカ】
「カルシテックインプラント」と呼ばれるインプラントで、骨との馴染みが良く、骨造成に有利に働くのが特徴です。
日本人のように骨の厚みが薄く、インプラントを埋め込む長さが足りない場合は、骨のサイズに合わせたインプラントを使用するという方法と、足りない分の骨を補って増やす「骨造成」という方法があります。
この「骨造成」を行う症例では、カルシテックインプラントは非常に向いていると言われています。
アジア圏のインプラントとは
アジアの人々は欧米人と比較すると、顎骨の長さや厚みが少ないという特長があります。ましてや、インプラントの適応症例ということは、何らかの理由で歯牙の欠損が生じているという前提であり、年齢的にも成年~中高年層となってきます。
この場合、歯槽骨の水平性骨吸収が生じている場合も多く、上顎では上顎洞底線、下顎では下歯槽神経までの距離が短いことが殆どです。
このようなアジア人の特徴に適したインプラントを開発しているメーカーを2つ、みていきましょう。
オステム社【韓国】
オステム社の「オステムインプラント」は、ブロ-ネマルク、ストローマン、アストラティックといった三大メーカーの良いところを全て取り入れて作られています。
アジア・太平洋地域でシェアNo.1で、世界シェアも4大メーカーに迫る勢いを持った韓国製のインプラントです。また、インプラントのサイズなどはアジア人の骨格に合わせて開発しているため、日本人にも適応範囲が広く、使い勝手が良いということができます。
京セラ【日本】
もともと、精密機器のメーカーであった京セラが手掛けた、「POI-EXシステムインプラント」です。日本では多くの実績があり、長期症例も数多く、国産インプラントの中ではシェアNo.1です。
日本製らしい精巧な造りと高い品質を誇ります。全ての製品を国内生産することによって非常に高い精度を可能にし、輸入製品とは違った安定した運搬による時間の短縮を可能にしました。
アジアや日本人の骨格に合わせて作られているので、日本国内で人気の高いメーカーです。
欠点としては、他メーカーとの互換性がなく、海外では殆ど使用されていないために、海外での再治療やメンテナンスは難しいという点が挙げられます。
インプラント治療を行う上で、注意すべきこと
このように、インプラントはメーカーによってさまざまなコンセプトによって作られています。
ここで紹介した6社は、どれも高品質で信頼できるインプラントであるといえるでしょう。その分、治療費も高額になる傾向にあります。
現在、インプラントメーカーは、この6社以外にも多数存在します。
歯科医院によっては、非常に安価でインプラント治療を行うところも見かけるようになりました。そして、そのような歯科医院では、あまりメジャーではないメーカーのインプラントを用いていることが少なくありません。
ではなぜ、そのようなメーカーのインプラントを使用するのはいけないのでしょうか。
その理由として、安いインプラントには、インプラント体の素材や品質が保証されていないような製品が多数存在します。
また、製品自体はしっかりと作られていたとしても、歴史の浅いメーカーの場合は取り扱っている歯科医院が少なく、症例数も少ないことが多いでしょう。臨床実績が少ないということは、何かあった時の対処が確立されていない可能性が高いということができます。
そして、インプラントは互換性がないものが多く、使用する器具や部品が異なると、他院ではメンテナンスや修理が出来ないことが多いのです。
また、メーカーの存続も重要です。将来的に不具合が生じたり、再治療が必要になったりした時に、そのインプラントメーカーが既になくなっていたら?
簡単な修理であっても、必要な器具や部品が入手出来なければ、修理が行えなくなる可能性もあるのです。
インプラントを一度入れたら、生涯使い続けたいと誰しも思うでしょう。そんな時、ライフスタイルの変化によって今まで通院していた歯科医院に通えなくなった時、他院でも治療を行うことが出来るのか、というのは大きな問題になります。
そのためにも、しっかりとした歴史と実績を持ち、多くの歯科医院で使われているインプラントメーカーを選択することも重要なのです。また、自分の使用しているインプラントのメーカーや種類を自分でしっかり把握しておくことも大切です。
【まとめ】インプラントのメーカー6種を徹底比較
この記事では、世界4大メーカーのインプラント、及びアジア・太平洋地域シェアNo.1メーカー、日本製のインプラントについて解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。
- インプラントの圧倒的シェア数を誇る世界4大メーカーは、「ノーベルバイオケア社」「ストローマン社」「デンツプライシロナ社」「ジンヴィ社」
- アジア圏におけるシェア1メーカーは「オステム社」
- 国産で、日本におけるシェア1メーカーは「京セラ」
- インプラントはそれぞれのメーカーによって特性が異なるため、症例に合わせてメーカー及び種類を選択するべきである
- インプラントの施術を行う時のことだけではなく、長期的なメンテナンスや修理なども視野に入れて、どのインプラントを用いるのかを検討するべき
- 安価なインプラントは品質に不安が残るだけでなく、臨床実績などに乏しい可能性も高いため、将来的にメーカー自体がなくなってしまうと、部品の取り寄せなども出来なくなり、簡単な修理やメンテナンスも行えなくなってしまう危険性がある
インプラント治療がメジャーになってきたとはいえ、一般治療と比較すると、金銭面や治療期間など、様々な負担のかかる治療であるということができます。
せっかくインプラント治療を行うのであれば、自分に合ったインプラントを入れ、将来的にも長持ちさせたいものです。
そのためにも、しっかりとした事前の診察・相談を受け、納得いくまで担当医と話し合った上で治療を受けることをおすすめします。