歯列矯正で歯が動く仕組みは?

歯列矯正で歯が動く仕組みは?

「硬い骨に埋まっている歯がどうして動くの?」「歯列矯正はどうして時間がかかるの?」と疑問に思いますよね。

その答えは、歯が動く仕組みを知るとわかります。

簡単にいうと、歯が動く仕組みは歯を支えている周りの骨の代謝反応なのです。

通常、歯列矯正には23年程度かかります。歯に適切な強さの矯正力を加え、ゆっくりと動かすのです。

矯正力が強すぎると、逆に歯の動きを遅くしたり、歯の根が短くなってしまったり(歯根吸収といいます)、歯茎が下がったりします。

歯列矯正では歯が動く仕組みを上手く利用して理想的な位置に歯を動かしていきます。

この記事では、歯列矯正で歯が動く仕組みを解説していきます。

この記事を読むことで、歯列矯正によって歯が動く仕組みを理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。

  • なぜ、硬い顎の骨に生えている歯が動くのか?
  • なぜ歯列矯正には時間がかかるのか?
  • 歯を動かすことにリスクはあるのか?

目次

歯が動く仕組みを解説

私たちの体の骨は、日々入れ替わり新しくなっています。それは歯の周りの骨も同じです。

歯の周りの骨は、歯槽骨(しそうこつ)という特別な名前がついています。歯が移動する仕組みは歯槽骨の吸収と添加(骨改造現象)といえます。そして、歯根膜という部分が歯槽骨の骨改造現象を起こす中心的な役割を担っています。

歯の周りの構造

まず、歯の周りの構造について解説します。

歯槽骨

顎の骨のなかで、歯を支えている部分のことです。

歯根膜

コラーゲンなどから構成される薄い膜。厚さは約0.2㎜。歯と歯槽骨の間に存在して、主にクッションの役割をしています。歯が動く仕組みの中心的役割も担っています。

歯根膜の中には、血管や破骨細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、セメント芽細胞など様々な細胞が存在します。

歯の移動には骨の代謝反応(骨改造現象)を利用している

歯をひっぱって動かし始めると、歯が動く方向の歯槽骨は溶けて(吸収という)、反対側の歯槽骨は新しく作られます(添加という)。これが、歯が動く大まかな仕組みです。

歯の動かし方には、以下の種類があります。

歯の動かし方

  • 傾斜移動
    歯の傾きを変えます。
  • 歯体移動
    歯の傾きは変えず、平行に移動させます。
  • 挺出
    歯を引っぱりあげる方向に動かします。
  • 圧下
    歯を引っ込める方向に動かします。一番動きにくいです。
  • 回転
    歯を長軸(歯の頭と歯の根の先端を結んだ線)を軸にして回転させます。後戻りしやすいとされています。
  • トルク
    歯の頭(歯冠)を支点として、歯の根(歯根)を傾けます。この時、少しだけ歯冠は歯根の動く方向と反対方向に傾きます。

歯が動く(押される)側の反応

歯が動く(押される)側を、専門用語で圧迫側といいます。

歯を動かすと、まず歯根膜が圧迫されます。すると圧迫された部分が充血します。すると、血液の中から多くの破骨細胞やマクロファージがでてきます。

この破骨細胞が骨を溶かしていきます。

歯が動く方向と反対側の反応

歯が動く方向と反対側を牽引側(けんいんそく)といいます。

歯を動かすと、牽引側では歯根膜が引き延ばされます。すると、歯根膜内の血管の血流が促進されます。

そして、歯根膜に存在する骨芽細胞や繊維芽細胞、セメント芽細胞などが活性化し、新しい骨を作り出します。

歯の動くスピード

歯を動かすには骨が作り変えられるのを待つことが必要です。

適切な力を歯に加えた場合、歯の動くスピードは1か月に0.30.5㎜と言われています。早い人でも1㎜程度です。

矯正で動かしたい歯の移動量は平均4㎜なので、時間がかかることがわかりますね。

歯を動かすことで起こり得るリスク

適切な力をかけた場合、歯に起こるリスクはほとんどありません。

問題は強すぎる力です。

強い力をかければ、歯が早く動くのではと思う人もいるでしょう。しかし、歯列矯正で歯が動く仕組みは体の代謝反応です。強い力で無理に動かそうとすると、体の反応が追い付かず別の(以下の)反応が起こります。

歯の動きが遅くなる

圧迫側の血管が押されて血液の量が減り、組織や細胞が死んでしまいます。

これを硝子様変性といいます。

硝子様変性が起きると破骨細胞も働かず歯槽骨の作り変えが起きません。歯はあまり動かなくなります。その後硝子様変性をした部分は元の状態に戻っていきます。

歯茎が下がる

強すぎる力で歯を動かそうとすると、歯茎の作り変えも追い付きません。当初の状態よりも歯茎が下がってしまうことがあります。

歯の根っこ(歯根)が短くなる

強すぎる力が歯に加わると、歯根が短くなることがあります。歯根が短くなると、歯が揺れやすくなったり、抜けるリスクが高まったりします。

歯の神経に炎症が起きる

歯の中にも血管や神経があります。

強すぎる力で歯を動かすと、血管が押されて歯の中の血液の量が減ります。すると、歯の中では炎症が起きた時と同じ反応が起きます。

軽い症状だと、冷たいものがしみたり、叩くと痛みが出たりします。重い症状になると、温かいものがしみたり、常に痛みを感じたりします。ただし、矯正によって歯の神経症状が出た場合は、軽いことがほとんどです。

歯列矯正により得られるメリット

歯列矯正による咬み合わせや歯並びの改善にともない、以下のことが期待されます。

  • 見た目やコンプレックスが改善され、心理的に良い影響を与えます。
  • 歯列が整うと歯みがきがしやすくなったり、歯に汚れがたまりにくくなったりします。その結果虫歯や歯周病のリスクが下がり、お口の中をよい状態にキープできます。
  • 咬み合わせが改善され、食べ物を食べやすくなります。栄養の吸収率も上がり、健康にも良い影響を与えます。

【まとめ】歯列矯正で歯が動く仕組みは?

歯列矯正では、骨が作り変えられる仕組みを利用して歯を動かします。

この記事では、以下のようなことが理解できたのではないでしょうか。

  • 歯列矯正では骨の代謝反応を利用して歯を動かしている
  • 歯根膜が骨の代謝反応の中心的役割を担っている
  • 歯の動かし方には傾斜移動、歯体移動、挺出、圧下、回転、トルクがあり、圧下が一番動きにくい
  • 圧迫側では、破骨細胞が働いて歯槽骨が吸収する
  • 牽引側では主に骨芽細胞が働いて歯槽骨の添加が起こる
  • 歯の動くスピードは1か月に0.3~0.5㎜、早い人でも1
  • 強すぎる力を歯に加えると、歯の動きが遅くなったり、歯茎が下がったり、歯根が短くなったり、歯の神経に炎症が起きたりする。
  • 歯列矯正によって歯並びが整うと、見た目だけでなくお口の健康もよい状態に保つことができる。

80歳で20本の歯を残す8020運動の達成者に、反対咬合の人はいないそうです。それくらい歯並びは、見た目にも健康にも大切な要因なのです。

歯の動きやすさは、年齢や個人によって異なります。もし時間がかかっても、体の代謝反応を利用していることを理解していれば、不安が解消されると思います。

不安に思うことがあれば、治療前にしっかりと歯科医師に相談してみましょう。納得してから始めれば「やっぱり止めておけばよかった」と後悔する可能性がぐっと減ると思います。


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