歯周病や歯牙欠損による骨吸収が生じたり、交通事故や転倒などによる外傷によって歯や顎骨を部分的に喪失したりすることがあります。
骨の吸収量や欠損量によっては、インプラントの固定力だけでなく、補綴後の審美的な問題から骨造成が必要となります。
インプラントを支持するためには十分な周囲骨の深さや厚みが確保できることが重要で、確保できない場合は骨造成を行います。
具体的には、歯槽骨の骨幅5㎜以下、骨の高さ10㎜未満で、骨造成必要量3㎜以上の場合が骨造成の適応とされています。
骨造成の方法のひとつにGBR(骨誘導再生法)があります。
今回は、GBR(骨誘導再生法)についてご説明します。
目次
GBR(骨誘導再生法)とは
GBR(骨誘導再生法)とは、インプラントのフィクスチャーを埋入するには水平的な骨量が不足している場合に、骨移植によって新生骨の形成を促進し、骨量を回復させる治療法のことです。
Guided Bone Regenerationの頭文字を略してGBR法とよばれています。
GBR(骨誘導再生法)は、フィクスチャーの埋入前にGBR(骨誘導再生法)を行い、骨造成を待ってからフィクスチャーを埋入する段階法と、フィクスチャーの埋入時に同時に行う同時法の2種類があります。
段階法は、フィクスチャーの初期固定を得るのが難しい場合に選択されます。
同時法は、フィクスチャーの初期固定が得られそうですが、埋入したフィクスチャーの一部が歯槽骨から露出しそうな場合に行われます。
骨誘導(能)について
骨誘導(能)とは、骨誘導タンパクによる間葉系幹細胞の誘導分化によって生じる新生骨の形成能のことです。
わかりやすくいうと、骨形成細胞である間葉系幹細胞を呼び集めて骨を添加させる能力です。
骨誘導タンパクは、Uristによって発見されたタンパク質で、Bone Morphogenetic Proteinの頭文字をとってBMPとよばれています。
BMPは、骨10kgに対し0.02mgしか存在していませんが、移植骨を含めた骨の治癒や再生に大変重要な役割を果たしています。
現在は、rhBMP(recombinant human Bone Morphogenetic Protein)とよばれる人の遺伝子組み換えBMPが利用されています。
骨誘導(能)と移植骨の関係性
移植に用いられる骨には、自家骨・他家骨・異種骨・骨補填剤(人工骨)の4種類があります。
現在、我が国では他人の骨から採取した他家骨・牛や豚などの他の動物の骨から採取した異種骨は使われておらず、自家骨や骨補填剤が主流となっています。
このうち骨誘導能が最も高いとされるのが、自家骨です。
骨補填剤には、骨を形成する足場となる骨伝導能はありますが、骨誘導能はないとされています。
GBR(骨誘導再生法)の適応症
GBR(骨誘導再生法)の適応となるのは、骨欠損の範囲が1〜2歯程度と比較的小さく、埋入後のフィクスチャーが部分的に歯槽骨から露出しそうな症例です。
骨欠損が大きい場合は、ブロック骨をチタンプレートで固定するなどの骨移植の適応となります。
GBR(骨誘導再生法)のメリット
通常のインプラント治療に、GBR(骨誘導再生法)を併用するとどのようなメリットが得られるのでしょうか。
骨量の増大
歯槽骨が著しく吸収され、インプラント治療には適していないような欠損部位でも、GBR(骨誘導再生法)を行えば、骨量の回復が期待できます。
フィクスチャーの固定力の増強効果
歯槽骨が吸収されているため、フィクスチャーを完全に歯槽骨内に埋入できないと、十分な固定力を得ることができません。
GBR(骨誘導再生法)を行うことにより、吸収された歯槽骨の再生が促進され骨量が増大しますので、フィクスチャーの固定力を確保できます。
GBR(骨誘導再生法)のデメリット
GBR(骨誘導再生法)には、骨採取や既往歴による制限などのデメリットもあります。
骨採取による侵襲
GBR(骨誘導再生法)で移植する骨に自家骨を選んだ場合は、骨採取を行わなくてはなりません。
骨採取できるのは 口腔内ではオトガイ部・下顎臼歯部、口腔外では腸骨などです。
口腔内で移植骨を最も多く採取できるのはオトガイ部ですが、術中にかなりの出血を起こすリスクなど侵襲が高いのがデメリットです。
骨採取が行われる部位は、健全組織なので、健全組織に手術侵襲が加わるのも、デメリットのひとつです。
既往歴によっては適応外
糖尿病や脳血管障害、肝機能障害や腎機能障害などの消化器系疾患に加え、骨粗鬆症、リウマチ、貧血、SLEなどの自己免疫疾患などの基礎疾患は、GBR(骨誘導再生法)の成功を阻害するリスクファクターにあげられています。
この他、ビスフォスフォネート系製剤やステロイド薬などの投与薬剤、放射線治療の照射歴や照射範囲などもGBR(骨誘導再生法)に影響を及ぼし、適応不可となることもあります。
コントロール不良の高血圧症患者では、高血圧症の原因である動脈硬化により術中、脳や心臓、腎臓などに合併症を起こすリスクがあり、GBR(骨誘導再生法)より血圧のコントロールが優先されます。
治療期間の長期化
装填した自家骨や骨補填剤に骨再生が誘導されるまでに、個人差はありますが一般的に4〜6か月もの期間がかかります。その間、インプラント治療は休止状態になりますので、治療期間が必然的に長期化してしまいます。
同時法ではフィクスチャーを同時に埋入するので、段階法と比べると治療期間は少し短くなります。
同時法のインプラント脱落のリスク
同時法では、GBR(骨誘導再生法)に失敗すると、フィクスチャーのオステオインテグレーションも同時に失敗するリスクがあります。
GBR(骨誘導再生法)の術式
GBR(骨誘導再生法)の術式についてご説明します。
GBR(骨誘導再生法)は、原則的に局所麻酔下にて外来で行われる処置となります。
①局所麻酔
術野の口腔粘膜に表面麻酔を塗布し、塩酸リドカインなどを使って浸潤麻酔を行います。必要に応じて、静脈内鎮静法を併用します。
②粘膜骨膜弁の形成
フィクスチャーの埋入予定部位に、切開を加え、粘膜骨膜弁を形成します。
③フィクスチャーの埋入(同時法の場合)
フィクスチャーを埋入します。埋入したフィクスチャーの一部は、歯槽骨内に収まりきれず、露出した状態になります。
GBR(骨誘導再生法)後にフィクスチャーを埋入する段階法の場合は、この工程はありません。
④自家骨や骨補填剤の装填と人工メンブレンでの被覆
フィクスチャーの露出部分に自家骨や骨補填剤を装填し、その周囲を人工メンブレンでフィクスチャーごと被覆します。
人工メンブレンは、感染のリスクを減らすため、隣在歯の歯根から離して骨を覆う必要があります。人工メンブレンが脱落しないように、ピンで歯槽骨に固定します。
⑤閉創
粘膜骨膜弁を戻し、マットレス縫合などを用いて創部を緊密に閉創します。
⑥経過観察と人工メンブレンの除去
抜糸後、4〜6か月ほど経過観察を行い、人工メンブレンを除去します。
⑦フィクスチャーの埋入(段階法の場合)
段階法を選んだ場合は、人工メンブレンの除去と同時にフィクスチャーを埋入します。
⑧上部構造の装着
フィクスチャーの露出部位に骨が再生され、固定が確保されれば、上部構造を装着します。
GBR(骨誘導再生法)の偶発症
GBR(骨誘導再生法)には、知覚麻痺などいくつかの偶発症が起こり得ます。
知覚麻痺
知覚麻痺は、GBR(骨誘導再生法)自体による偶発症ではなく、骨採取に伴う偶発症として起こることが多いです。
知覚麻痺が起こりやすいとされているのは、口腔内からの骨採取部位としてはアプローチが容易なオトガイ部です。
下顎枝部からの骨採取においても、下歯槽神経損傷に伴う知覚麻痺のリスクがあります。
術後の浮腫や疼痛
術後の炎症性腫脹は、術後24〜48時間をピークとして発症します。
GBR(骨誘導再生法)の施術部位だけでなく、骨採取を行った部位にも生じます。特にオトガイ部からの骨採取では、下顎枝部からのそれと比べると術後の疼痛や浮腫が強く現れる傾向があり、弾性包帯や弾性絆創膏などによる圧迫が推奨されます。
創部の哆開
粘膜骨膜弁の減張が弱い場合、縫合後の歯肉が哆開して、人工メンブレンが露出することがあります。
保険診療とGBR(骨誘導再生法)
GBR(骨誘導再生法)は、保険診療の適応を受けていませんので、GBR(骨誘導再生法)は自費診療となります。
GBR(骨誘導再生法)の相場は、インプラント1箇所あたり50,000〜80,000円ほどのようです。
このほか、PRP(多血小板血漿)を追加で行うこともありますし、骨補填剤の費用を別料金としているところもあります。
詳しい治療費に関しては、それぞれの歯科医院でご相談ください。
【まとめ】インプラント治療時の骨量不足を補うGBR(骨誘導再生法)とは
今回は、GBR(骨誘導再生法)についてご説明しました。
比較的骨欠損の範囲が狭く、フィクスチャーの一部が露出しそうな症例に適応される骨造成術がGBR(骨誘導再生法)です。
骨欠損を認める場合、もしくは予想される場合は、GBR(骨誘導再生法)のメリットやデメリットを考慮して、適否を判断することが重要です。
古賀剛人. “科学的根拠から学ぶインプラント外科学 (応用編)”. クインテッセンス (参照 2021-02-11)
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