骨格が原因によるガミースマイル改善のための骨切りについて

ガミースマイルを大きく改善する骨切り術の種類について

ガミースマイルは、病的な問題はありませんが、ひとの第一印象の決定因子のひとつである笑顔に関係するため、審美的な面から問題とされる症状です。

特に、笑ったときの歯肉の露出を気にするようになると社交性の低下を生じ、心理的な問題を抱えるようになります。

ガミースマイルの治療法には、いくつかの方法がありますが、そのひとつにLe Fort Ⅰ型骨切り術という外科手術があります。

Le Fort Ⅰ型骨切り術とはどのような手術方法なのでしょうか。

今回は、ガミースマイルの治療法のひとつであるLe Fort Ⅰ型骨切り術についてご説明します。

目次

ガミースマイルとは

Le Fort Ⅰ型骨切り術についてご説明する前に、ガミースマイルについてお話しします。

ガミースマイルとは?原因・症状・治療を解説

ガミースマイルの原因

ガミースマイルの原因としては、歯肉増殖、前歯の受動的な萌出異常、上顎骨の歯槽突起の挺出、上顎骨の垂直方向への過成長、上口唇の幅の異常、上口唇の可動量の異常などが挙げられます。

これらの原因が単独ではなく、複合してガミースマイルを発症させます。

ガミースマイルの診断基準

ガミースマイルの診断基準に用いられるのが、上口唇のリップラインです。

リップラインは、低位、中位、高位の3段階に分類されます。

低位は上顎前歯が笑ったときに一部しか見えない場合、中位は上顎前歯部の歯肉が1〜3㎜露出する場合、高位は4㎜以上露出した場合です。

一般的に高位であれば、ガミースマイルと診断され、治療の対象となります。

Le Fort Ⅰ型骨切り術について

Le Fort Ⅰ型骨切り術とはどのような手術なのでしょうか。

Le Fortとは

上顎骨は、顔面の中央部に位置しており、頬骨・鼻骨・前頭骨・蝶形骨・口蓋骨と接しています。

歯槽突起部を除くと、いずれの骨壁も薄いのが特徴です。

Le Fortは、1901年に死体を馬上から落とすことで、上顎骨を実験的に骨折させ、骨折の様式を分類しました。

これがLe Fortの分類です。

Le Fortの分類

Le Fortの分類はⅠ・Ⅱ・Ⅲの3つに分類されています。

Le Fort Ⅰ型は、上顎骨中央部を横走する骨折です。

梨状口外側縁から横走し翼口蓋窩に至ります。

Le Fort Ⅱ型は、上顎骨と鼻骨が一塊として周囲骨から分離した骨折です。

鼻骨および上顎骨前頭突起の中央部との縫合線を横断し、涙骨や篩骨を横断して下眼窩裂に至った後、上顎骨頬骨縫合に沿って下外方に向かい、眼窩下縁から翼口蓋窩に至ります。

Le Fort Ⅲ型は、中顔面を構成する骨が一塊として頭蓋底から分離した骨折です。

前頭骨鼻骨縫合、前頭骨上顎骨縫合から始まり、涙骨や篩骨上部を通り、下眼窩裂を超えて翼状突起に至ります。

Le Fort Ⅰ型骨切り術とは

Le Fort Ⅰ型骨切り術とは、Le Fort Ⅰ型の骨折線に相当する部位で上顎骨を分離する骨切り術です。

具体的には、鼻腔底の情報で上顎骨を水平離断し、上顎骨を一塊として移動させる手術法で、顎矯正手術のひとつです。

Le Fort Ⅰ型骨切り術の適応症

ガミースマイルの治療法としてのLe Fort Ⅰ型骨切り術は、上顎骨の骨格に起因する症例に適応があります。

具体的には、上顎骨の前後的もしくは垂直方向への成長異常が認められる症例です。

Le Fort Ⅰ型骨切り術の術式

Le Fort Ⅰ型骨切り術の手術の流れについてご説明します。

①局所麻酔

全身麻酔の手術ですが、疼痛コントロールや出血量の減少などを目的に上顎結節部と骨膜剥離部、大口蓋孔部などにエピネフリン含有2%キシロカインなどによる浸潤麻酔を行います。

②切開と剥離

上顎最後臼歯部から反対側の胴部に及ぶ、骨膜を含めた水平切開を行います。

骨膜の剥離の範囲は、切開線の上下10㎜です。

③骨切り

上顎骨頬側の骨切りは、梨状口側縁と上顎最後臼歯の歯槽縁上10㎜ほどの位置で直線上に行います。

レシプロケーティングソーを使って、頬骨突起部から上顎結節に至り、そして前方に戻って梨状口側縁まで骨の切断を行います。

次に、鼻中隔の軟骨を鼻中隔用のマイサーを使って分離します。

続いて、翼突上顎縫合を分離しますが、分離が終わると上顎骨の前方部が開大します。

鼻腔側壁の骨は切離していませんが、自然に分離が進みます。

④固定

分離して可動性を得た上顎骨を、術前の予定した部位で下顎骨と仮の顎間固定します。

仮の顎間固定をした状態で、上顎骨を梨状孔縁部、頬骨下稜部にチタンミニプレートや吸収性プレートなどを使って固定します。

固定後に、翼状上顎結合部に間隙が生じる場合は、腸骨などを使って補填します。

⑤縫合

固定が終わったのちは、縫合して創部を閉鎖します。

鼻翼の基部は4-0バイクリル®︎で縫合して寄せます。

骨膜部分も4-0バイクリル®︎で縫合し、粘膜縫合は3-0絹糸などで行います。

Le Fort Ⅰ型骨切り術のメリット

Le Fort Ⅰ型骨切り術は、侵襲性の高い外科手術ですが、下記のようなメリットがあります。

確実な移動

Le Fort Ⅰ型骨切り術は、上顎骨を分離して物理的に移動させますので、確実な移動が行えます。

重度なガミースマイルも改善できます。

瘢痕が目立たない

Le Fort Ⅰ型骨切り術は、口腔内からアプローチする外科手術です。

切開線は全て口腔内に設定されるため、瘢痕が目立つことはありません。

Le Fort Ⅰ型骨切り術のデメリット

Le Fort Ⅰ型骨切り術のデメリットには、以下のようなものが挙げられます。

術前の矯正歯科治療が必要

Le Fort Ⅰ型骨切り術では、上顎骨を後方にセットバックします。

術前の歯列の状態によっては、術後、適切な咬合関係が喪失してしまう可能性があります。

そのような場合は、術後に適切な咬合関係を付与するためにも、術前の矯正歯科治療を行う必要があります。

全身麻酔

Le Fort Ⅰ型骨切り術は侵襲性が高い手術になりますので、入院して全身麻酔下での手術になります。

麻酔経路は、経鼻挿管です。

喫煙者では気道刺激がしばらく残りますので、術前に禁煙しておくことをおすすめします。

入院期間は術後の経過によって変わりますが、おおむね7〜14日です。

手術難易度

Le Fort Ⅰ型骨切り術は、難易度の高い外科手術です。

日本口腔外科学会の手術難易度の分類では、中難度から高難度の手術に分類されています。

動脈性出血

骨切り手術に際して、動脈性の出血を認めることがあります。

動脈性の出血に対しては、電気メスにて凝固を図ります。

上顎結節部からの出血は、圧迫止血で対応します。

鼻出血

Le Fort Ⅰ型の骨切り術では、鼻粘膜や上顎洞粘膜の断裂により鼻出血をきたします。

そのため、上顎洞内は血腫で満たされ、X線不透過となります。

骨切断方向

翼突上顎結節部での骨切り位置は上顎智歯の上方約10㎜ですが、梨状口側縁のそれは上顎前歯部の歯頚部から20㎜ほど上方になります。

したがって、上顎の咬合平面と並行に骨を切断分離することはできません。

術前に移動量と移動方向を十分に検討しておく必要があります。

鼻の穴の変形

Le Fort Ⅰ型骨切り術は、鼻腔の直下の手術ですので、術後に鼻の穴の形が微妙に変化することがあります。

後戻り

外科的に上顎骨を移動させたとしても、後戻りを起こすリスクが皆無というわけではありません。

成長期には適応できない

Le Fort Ⅰ型骨切り術に限らず、顎矯正手術は成長途上の時期には適応できません。

Le Fort Ⅰ型骨切り術の術後の注意事項

Le Fort Ⅰ型骨切り術の手術後の一般的な注意事項についてご説明します。

術後の顎間固定

手術翌日から数日間、顎間ゴムを使って顎間固定を行います。

その後は、必要に応じてワイヤーによる固定に移行することがあります。

顎間固定は、4〜8週間行います。

咽頭や鼻腔内の浮腫と腫脹

咽頭部や鼻腔内に浮腫や腫脹を生じ気道が狭窄しますので、手術から数日間の呼吸管理が必要です。

手術後の腫脹への対策としては、手術当日からステロイドを3日間投与します。

それに加えて、鼻腔粘膜の浮腫に対しては、点鼻薬で対応します。

鼻出血

鼻出血を生じた場合は、鼻腔タンポンにより止血を図ります。

鼻閉

術後の鼻閉に対しては、血管収縮薬を用いた上でエアウエイを挿入し、気道の確保を行います。

Le Fort Ⅰ型骨切り術と保険診療

Le Fort Ⅰ型骨切り術は、保険診療の適応を受けているのでしょうか。

保険適応となる症例

顎変形症など、厚生労働大臣が定める疾患に起因した咬合異常や、3歯以上の永久歯萌出不全などに起因した咬合異常に対する矯正歯科治療は保険診療の適応を受けています。

すなわち、咬合異常という疾患に対する治療であれば、保険診療が認められるという意味です。

Le Fort Ⅰ型骨切り術のような顎矯正手術も同様で、咬合異常に対する治療に適応するのであれば、健康保険による治療が認められます。

保険適応とならない症例

ガミースマイルの改善など、審美目的でのLe Fort Ⅰ型骨切り術の手術は、保険診療の適応外となります。

Le Fort Ⅰ型骨切り術以外の骨切り術

骨切り術は、Le Fort Ⅰ型骨切り術だけではありません。

ガミースマイルに有効な骨切り術としては、上顎前歯部部分骨切り術が挙げられます。

上顎前歯部部分骨切り術とは

上顎前歯部部分骨切り術は、第一小臼歯もしくは第二小臼歯を抜歯するとともに、抜歯部位の歯槽骨および左右側を結ぶ鼻腔底の部分を帯状に切除し、上顎骨前方部分を後方へセットバックする骨切り術です。

上顎前方歯槽部骨切り術ともいいます。

骨格性の上顎前突症に適応があります。

○上顎前歯部部分骨切り術の術式

上顎前歯部部分骨切り術の一般的な術式をご紹介します。

①切開

切開線は、口腔前庭で歯肉頬移行部よりも低めの位置で、第一大臼歯から反対側の第一大臼歯までほぼ水平のラインとします。

②小臼歯の抜歯

左右の第一小臼歯、もしくは第二小臼歯を抜歯します。

抜歯した歯の歯頚部から切開線に垂線を立てるような切開を加えます。

③剥離

梨状口下部の骨膜を剥離し、前鼻棘を露出させ、梨状口辺縁や鼻腔前前方へ剥離を進めます。

次いで、抜歯した小臼歯の縦切開部分まで剥離します。

口蓋側は、臼歯部の歯頚部の付着上皮を剥離し、続いて、小臼歯の口蓋側からトンネル状に口蓋の骨粘膜を剥離します。

④骨切り

骨切りに際しては、上顎犬歯の根尖位置を把握しておかなくてはなりません。

犬歯の根尖が梨状口最下縁から3㎜以上離れていれば前鼻棘と梨状口下縁を残せますが、そうでなければ前鼻棘も含んだ骨切り線を設定します。

前者の場合は、梨状口の下縁2.5〜3㎜付近となります。

歯槽骨の骨切りは、抜歯した小臼歯の位置で、水平の切開線から垂直に下ろします。

口蓋の骨切り線は、小臼歯からやや後方に伸び、正中で左右からの骨切り線が合うようにします。

骨切りは、レシプロケーティングソーかフィッシャーバーで小臼歯の縦の骨切断からはじめ、上顎洞前壁を切離し、上顎口蓋突起を切断し、左右の切断を正中で合わせます。

続いて、レシプロ型ソーで水平の切断をします。

すると、上顎骨の前方部は口蓋粘膜だけで支えられている状態になりますので、後方へセットバックさせます。

⑤固定

骨片をチタンミニプレートや吸収性プレートで固定します。

⑥縫合

3-0絹糸などで緊密に縫合します。

上顎前歯部部分骨切り術の特徴

手術部位が上顎前方部位に限局されるため、術後の移動量の予測が容易というメリットがあります。

一方、小臼歯を抜歯しなければならないデメリットがあります。

【まとめ】骨格が原因によるガミースマイル改善のための骨切りについて

今回は、ガミースマイルの改善を目的としたLe Fort Ⅰ型骨切り術についてお話ししました。

Le Fort Ⅰ型骨切り術は、上顎骨を分離して可動状態にしますので、確実に移動できる外科手術です。

当然、侵襲は大変大きくなりますので、選択に当たってはガミースマイルが骨格に起因するものであるかどうかを術前に確実に診断することが大切です。


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